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『殆どの辞書には「ドロップキック」が載っていない』…井上章一「プロレスまみれ」紹介&辞書の諸問題を語る

辞書の話の前にこの「プロレスまみれ」全体の感想&おもしろ箇所

この前、「発売されている」という情報だけお伝えした、井上章一「プロレスまみれ」を読んでみました。

プロレスまみれ (宝島社新書)

プロレスまみれ (宝島社新書)

  • 作者:井上 章一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 新書


…感想としてはですね、全体の内容というよりこの本の書き方、コンセプトが面白かったです。
というのは、あるプロレス的事件や問題の解釈に際して、資料を調べれば出てくるファクトを敢えて参照せず…山椒はすれども拘泥せず、 自分の中で自由に想像したり妄想したりする、それをメインの文章として描くというやり方をやってるんですよね。それが許されるかどうかと言うと、ひょっとしたらまずい時もあるんだろうけれども、肩のこらない新書で、プロレスを扱っているなら許されるのではないか、と思う。

これはもちろんプロレスを見下してるということではなく、そういう想像や妄想を許容し得るジャンルであるということなのだ。ただ漫画論とか映画論とか、あるいは戦国時代の武将列伝 何かを考える時でも「資料を調べれば違う事実も出てくるだろうけど、ここはあえて私が勝手に妄想する!〇〇は、XXXだったんじゃないかと思う!なおエビデンスはない!」という書き方で書いたら、 ちゃんと調べるより面白いんじゃないかということもある(笑)。


本人も、その辺は相当に自覚して書いてるものでして、 まえがきの段階で「一気呵成の叙述であり、仕上がりは相当荒っぽい。不用意なミスも少なくないだろう。書き手としてはその勢いを味わってくださいというしかない」と宣言している。


例えばプロレス入場曲を論じた部分では ミルマスカラスのスカイハイが「入場曲」の文化を作った 、という話をしてまして
・今や結婚式からプロ野球にまでそれが飛び火している、
・ジグゾーというスカイハイを歌ったバンドが日本からの印税収入というか人気に驚いている
・だがバンドメンバーの一人は「相撲の入場曲」と勘違いしていた…

みたいな話をして「ジグゾーはもう少し日本と、プロレス界に感謝すべきだろう」と怒ってるんだけど、しかし そういうふうに、いかにもスカイハイで入場曲が始まったような書きかた(と自分で認めている)を延々とやった後で「間違っているぞという読者諸賢の声は私の脳裏にも響いています」と、自分で認めてる(笑)。
そしてスーパースター・ビリーグラハムが国際プロレスで「ジーザスクライストスーパースター」のテーマ曲を使ったのが先だったことや、ジャンボ鶴田もチャイニーズカンフーをスカイハイの前に使っていたとか、ドイツのハノーヴァーでは個々人が入場曲を使うのでマイティ井上ストロング小林が日本のレコードを持って行った、マイティ井上ちあきなおみ「四つのお願い」、 ストロング小林は「上を向いて歩こう」…だったという、 G スピリッツみたいな小ネタを披露している。
これは、こんな本を参考にしているそうだ。

1000のプロレスレコードを持つ男 清野茂樹のプロレス音楽館 (立東舎)

1000のプロレスレコードを持つ男 清野茂樹のプロレス音楽館 (立東舎)

  • 作者:清野 茂樹
  • 出版社/メーカー: 立東舎
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

そういう話をちゃんと知ってはいても、ミルマスカラスのスカイハイが入場曲の元祖…的な扱いをすることで、大づかみにプロレス論を語ると。そんな書き方の本である。好みは分かれよう。


私が特に気に入ってるのは、
このプロレス的視点を他のテレビ番組に応用した推論妄想の部分で…例えばマラソン中継で途中でスポンサーのライバル企業の本社ビルや巨大看板があるところでどのようにしてごまかすのか、

とか、

タレントが突然素人の家にお邪魔して冷蔵庫を開けるとモザイクがかかっている…というのはスポンサーへの配慮、ケーフェイである… と見せかけて、あえてモザイクをかけることでこれはヤラセじゃなくて本当に素人にお願いして突然撮影したんですよ、だから冷蔵庫にやばいものもあるんですよという、そんな効果も狙ったのじゃないか…

ジャイアント馬場さんが「クイズ世界は SHOW BY ショーバイ!」で回答ボタンを押したら怪力でボタンが壊れた…というのは プロレスラーの力をアピールする仕込みだったんじゃないか、

そんなエビデンスのない妄想部分でした。


と同時に、このブログでかつて先行してあつかった話題を、京都大学国際日本文化研究センター教授が語ってくれるところもいくつかあって感謝した。

絶対王者が元々はプロレス用語だったのに、 今や完全に世間的に定着した話(235P)。
これ、おれ書いたおれ書いた。おれ先書いた。
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そして……

やっと本題です。ドロップキックと辞書、から考える。辞書の語釈と項目選定について

そしてもうひとつ。
「ドロップキックと辞書」についてだが…これは元々井上氏の方が先にどこかの媒体で書いていたそうだ。
自分は逆方向からこれを論じてるんだけども、そこまで井上氏の論を見てもらった方が早い 。

以下、引用。

プロレスまみれ (宝島社新書)

プロレスまみれ (宝島社新書)

  • 作者:井上 章一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 新書

国語辞典の世界では

…みなさんは、「ドロップキック」という言葉を、ごぞんじでしょうか。プロレス好きの人なら、すぐわかりますよね。ああ、とびけりのことだな、と。「今の若い人は、以前ほどプロレスを見ません。とびけりだと、思いつけない人もいるでしょう。しかし、私と同世代の方なら、とりわけ男性なら、たいてい知っているはずです。いや、四〇歳ぐらいの方でも、わきまえておられるんじゃあないかな。少なくとも、現役の馬場や猪木を見たことがあるという世代の人たちなら。
この「ドロップキック」という言葉が、しかし国語辞典には、ほとんどでていないのです。私の見た範囲だと、二〇世紀の辞典はこれを、ひとつも掲載していません。少なくとも、プロレスの用語としては。ただし、ラグビーの言葉としてこれを収録した辞典なら、たくさんあります。たとえば、「ラグビーで、ボールを地面に落として、はねかえるときにけること」、と。これは、「広辞苑(」第四版)の語釈です。
そして、「ドロップキック」をおさめた辞典は、こういう説明しかしてきませんでした。プロレスのとびけりを、辞典の編集者たちはにぎりつぶしてきたのです。このことを、私は力道山研究者の岡村正史から、知らされました。
―おかしいと思いませんか。言葉のひろがりは、ぜったいプロレスのほうが上まわっているんですよ。なのに、辞書はラグビーの「ドロップキック」しかのせていないんですからね。
学校でラグビーのルールをならったことがありましたよ。「ドロップキック」とにいう用語も、その時おしえられました。みんな、くすくすわらっていましたよ。プロレスの技と同じ名前になっているってね。国語としては、プロレス用語のほうが、ルより普及しているんじゃあないでしょうか。ラグビーなんかの用語としてよりも。
たしかに、そのとおりです。私は、こう見きわめました。日本の国語辞典は、プロレスを不当に見下している。ラグビーのほうが、プロレスより品があるという価値観にながされ、国語としての浸透度を見そこなった。国民の口にする頻度から目をそむけ、ラグビーだけをとりあげている、と。


ふむ。自分は、逆に「ドロップキックがこれだけ世間的に知られているのに、辞書では無視されてきた」ではなく、「ドロップキックという言葉は圧倒的な世間的知名度を誇っているけど、今後は徐々に通じなくなるのではないか?」という視点で一度論じました。
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もちろん、井上氏も分かっている.
その後の流れも語っている。

…そして、このことをいくつかの機会に、雑誌などへ書いてきました。ひょっとしたら、それが目にとまったのかもしれません。二一世紀初頭には、プロレスの「ドロップキック」へふれた事典も、刊行されました。
日本国語大辞典」(第二版二〇〇一年)が、たとえばそうです。そこには、こんな語釈もそえられていました。「プロレスリングで跳び上がって両足で相手を蹴る技」、と。ただし、ラグビーのルールにつづく、二番目の含意として。
広辞苑」は、二〇〇八年にでた第六版でも、プロレスから目をそむけています。「ドロップキック」の語釈は、ラグビー用語としてのそれだけで、おしきりました。ただ、二〇一八年の第七版では、プロレス用語のほうも紹介しています。まあ、こちらもラグビーを一番目においた、次点の解説でしかありませんけれどもね。
21世紀になって、プロレスがさかんになったわけではありません。むしろ逆で、下火になった時代だと言うしかないでしょう。そんな低迷期をむかえて、プロレスの「ドロップキック」は登場をゆるされました。国語辞典は、ようやく見おとしていた語釈に気がついたということなのでしょうか。
もうひとつ、「パイルドライバー」という言葉も、検討させて下さい。こちらも、プロレスファンの方がたなら、聞いただけでわかりますよね。ああ、あの技だな、と。そう、脳天杭打ちのことです。
さい
ですが、これをプロレス技として解説する国語辞典は、一冊もありません。今でも、ないはずです…「パイルドライバー」を、たいていの辞典は建設用語として紹介しています。「コンクリト杭・鋼管・H型鋼などを地中に打ちこむ建設機械。杭打ち機」というように。まあ、今ひいたのは『広辞苑』(第七版)の語釈ですが。

辞書に何が載っているかいないか、記述はどうか、はもっと注目されていい争点。

もっとも、広辞苑の新版のときのように、これはすごいことなんですよ、これ自体がニュースですよと売り込まれ、自称されるのも鼻につくんだけど(笑)それでも、そういう面はある。

自分もここ10年15年以上、たとえば同性婚の概念が辞書の「結婚」に入っているのかどうか、とか、「任那」という記述が各辞書ではどうなっているのか、「怪盗」の語釈は…、二次創作やBlは辞書に入るか?などを注目して、ブログに書いてきました。それを芸人としてネタにするサンキュータツオさん、なんてかたも登場しているし、飯間浩明氏も辞書編集の中の人から、積極的に現場に降り立ってくださっている。


そのへんの問題…「辞書に何の項目が載っている?」「その記述でいいのか?」を、もっともっと、みなさんも各人の興味のある視点からチェックしてみると面白いのでは、と井上章一氏の新刊「プロレスまみれ」の記述をもとに語っておきます。

おまけ1 辞書にこの語釈ある?の一例「大喜利

news.biglobe.ne.jp

むかし自分も、そのことに気づき、三省堂国語辞典編者に直訴した、という話。

そもそも、現行辞書での「大喜利」の概念はちょっと、2017年現在に皆が「大喜利」で思い浮かべるアレとは、ずれてない???

https://www.weblio.jp/content/%E5%A4%A7%E5%96%9C%E5%88%A9

三省堂 大辞林 索引トップ用語の索引ランキング凡例
三省堂
おお ぎりおほ− [0] 【大切り

大きく切り分けること。また、切り分けたもの。 「魚を−にする」

歌舞伎で、一日の興行の最後の一幕。江戸歌舞伎では二番目(世話)狂言の最後にあたる。切狂言

寄席の最後の出し物をいう。

物事の終わり。 「要するに誰の恋でもこれが−だよ/牛肉と馬鈴薯 独歩」 〔② ③ は縁起をかついで「大喜利」とも書く〕

では、直訴!!!(先方にとっては、迷惑な話だな…)


ありがとうございました。



ウィキペディアは、けっこう知恵を絞って説明してるが…
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%96%9C%E5%88%A9

どこかに、日本のコメディに興味を持ってる人が「OH-GIRIについて説明している英語の文献はないかな?」と言われたら、ここですよハイ、と紹介できるような英語のページとかないでしょうかね。
そこから大喜利世界化計画の一歩が踏み出せる……
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