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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「広辞苑」編集一筋30年!! 増井元「辞書の仕事」(岩波新書)よりエピソード紹介

舟を編む」がベストセラー&映画化とされて、注目が集まった辞書編集のしごと。

ちゃんとそのブームにお堅い出版社も乗っかって、じぶんとこの編集者(その後取締役にもなった)に新書を書かせた(笑)。何本か今までも「ことわざの知恵」とか「四字熟語」とか書いてはいるようだが。あと「広辞苑一筋」というこの記事タイトルは煽りで、岩波国語辞典とかも編集してます。

辞書の仕事 (岩波新書)

辞書の仕事 (岩波新書)

いま、辞書に注がれる視線が熱い。数多あることばから何を項目として選び、有限のことばでどう説明するのか。地道な作業ながら、考えようによってはドラマチック。でも実際、どんなドラマがあるのか、ないのか? 辞書づくりにかかわるあれこれのエピソードを、『広辞苑』『岩波国語辞典』などその道30年の元編集者が楽しく語る。

もともとこの新書も短い文章の集積なので、こっちの紹介も、その挿話の引用集としたい。

増井元「辞書の仕事」より、印象的なエピソード

・「砂」は岩石学上「径2mm以下、1/16mm以上の粒子」と定義している。広辞苑にもその定義は載せている。でもそれが「通常」そう言うといっていいんだろうか?
 
・「目が点になる」を第5版から収録した。この元祖はたぶんさだまさしさん(異説もあるが「ググレカス」とのこと。著者がそう言ってる(笑))。ヒット曲集「昨日連」(1981)収録「吸殻の風景」の曲解説に出てくる。ほか1985年作詞の「恋愛症候群」の歌詞上にも。

 
・「荒海や佐渡に横たふ天の川」・・・・広辞苑は「よこたう」をもちろん収録してる。しかし動詞の活用としては・・・あやしいよね(笑)。若山牧水の「…咲きしづもれる山さくら花」の「しづ(ず)もる」は「明治時代の造語」と書いてやった(笑)
  
・この話は俺的に重要なので原文を引用。

広辞苑」ではおよそ100あまりの魚が「美味」ということになっています。

ついフォントを、でかくしてしまった。
ひまな人は、広辞苑における「美味」認定の魚をお調べありたい。
 
・ゴリラの専門に言わせると、大変繊細でデリケートな動物だそうです(まあ、科学本の岩波でもあるからな)。しかし、私の目の黒いうちは「ゴリラ」を「繊細でデリケート」の意味で辞書に収録することは無いっ!!
 
エスカレーター、ドライアイス、万歩計、魔法瓶、回転ずし、キャタピラ…この共通点は何でしょう?応えは「商標」、特定の商品名です。ではこれを辞書に収録するか?するんだけど、実は辞書に収録するとそれを根拠に「これは一般的すぎて商標ではない」と裁判の証拠に使われたりする。ちなみに「バンドエイド」も一般化した商品名だが英語で「Band-Aid-XXXXX」というのは「その場しのぎの、間に合わせの」という悪口の意味になってしまう(笑)
 
・言葉の意味(だけ)を解説することにはジレンマもある。
「通行の邪魔になる壁を打破する」「美しく装飾した花嫁さん」…言わないよね(笑)。でも、なぜ言わないのかの説明はむつかしい。顰蹙は「受けた」り「されたり」はしないで「顰蹙を買う」となる。こういうのはコロケーション(”言葉の相性”)という。これは辞書的には、泣きどころ。
 
・「不○○」「○○的」「○○長」「○○性」…何を載せて、何を載せないか。むつかしいよね。
    
・江戸時代の藩校は歴史上重要な、長州「明倫館」水戸「弘道館」などを広辞苑にのせていた。そしたら宮崎県日南市のある読者から「地元の藩校『振徳堂』(※小村寿太郎などが学んだ)は広辞苑に載せる価値がある」と力説する手紙が来た。しかも改訂のたんびになんども(笑)。それが理由じゃないが、ついに第6版に収録が決定。その方に著者が電話したら、この通称「日南さん」は残念ながら逝去していた。

「最初のお手紙から、20年が経っていました」

と著者はつづっている。
 
・青森の読者からはこんなお手紙が「岩波国語辞典を長年信用できる辞典として愛用してきたが、偶然『くんだり』の項目を見た。・・・『青森くんだりまで来た』という用例が載っていました。」「当地はたしかに『くんだり』と付けて呼ばれるのにふさわしい土地であろうかと存じます。しかし、もし教室の生徒の誰かがこの記述を目にしたならば、そのものはどんな思いをするだろうと創造すると、胸が痛むのです」
あわてて会議を開催したが「じゃあどんな用例を挙げる?」で会議は混迷、現在は用例を掲げていない。
この辞典の二版で「卒業」に比喩表現の用例をあげることにして「女遊びはもう卒業した」と入れたら、こちらににも厳しい批判が。
 
・弊社が某辞典を新刊するときに販売部からこんな要望が。
「うちの辞典は他社よりボリューム感がないんだよ。重厚にしてくれ」
「うちはいい紙使って薄くしてるだけで、ページ数は負けてないですよ。」
「でも見栄えがないんだよ。店頭で、客が信頼しないから、ここは厚くしてくれ」
で、しぶしぶそうやったら、厚い紙は品質(等級)が低いぶん、安く上がって大儲け!!会社的には万万歳だが、なんか複雑だった。
  
・「逆引き広辞苑」という企画が出たときは、データがコンピュータなんで、それを使えば1人ぐらいの人員でできる、ということがあった。正直、何に使うのかこっちも分からずに出した(笑)んだが、びっくりするほど売れた。韻を踏む詩人の支持なんかはあったのだが・・・刊行後、けっこう「何に使うんだ」という問い合わせ電話があったが、それへの回答には必ず「何か新しい使い方を思いついたら教えてください」と付け加えた(笑)
 
・わが岩波国語辞典で水谷静夫先生が考えた「右」の語釈。
「この辞典を開いて読むとき、偶数ページのある側を言う。」

いかがですか。
こんなことを考えても、知っても何がどうなるものでもない、と言われりゃそうなんだが、楽しめる人は楽しめるのでないでしょうか。
自分は楽しめました。

辞書関連記事。まもなく三省堂辞典改訂版発売、この件はどうなった?

 ↓

三省堂辞書が改訂され「チキン南蛮」も登場…さて辞書の「結婚」を「男女」とする記述は、どこが最初に改訂するか?? -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131119/p3
 
■日本の辞書における「結婚」の定義・・・いつ、どの辞書が「男女」の限定をはずすんだろうね。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121102/p2

第7版は、2013年12月10日あたりに販売開始。


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玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。

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要らぬ知識と屁のような理屈のワンダーランド!!!
今までにない新しい辞書を作るため、愛斜堂出版辞典部の5人は今日も編集会議に余念がありません!!