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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「大人のおとぎばなし」…という物語についての、私的なまとめ(創作系譜論)

この言葉を筆者が知った、沢木耕太郎流の「大人のおとぎばなし」とは

原文を採録しておこう

男たちのためのオトギバナシとしてのハードボイルドに不可欠なのは、女よりもむしろ男であるように思われる…男が男に出会う。すべてはそこからはじまり、終わる…マーロウは、女に惚れられることによってではなく、そのような男たちに男として認められることによって輝きを増すのだ。
(略)
男と男の間に流れる磁気のようなものを暗示し、瞬間的な相互理解という、男にとってのひとつの神話的な世界を垣間見せるものになっている。
だが、瞬間的な相互理解というモチーフは、何もハードボイルドだけにあるものではなく、西部劇にもあれば日本の時代物にもある、1960年代から70年初めにかけておびただしく作られた東映任侠映画でも、義理と人情に引き裂かれながら耐えに耐え抜くというモチーフと並んで、男が男を男として認めるというモチーフが必ずどこかに織り込まれていた。それは象徴的には、雨の中をたったひとりで殴り込みに行こうとする高倉健に、途中の柳の下で待っていた池部良がつと番傘を差し出し、一緒に並んで歩いていくというシーンに凝縮されていた。これが飽きもせず繰り返し作られ、しかも多くの男性ファンに好まれたのは、それがやはりオトギバナシにすぎず、女性のもとに王子様がやってこないように、現実にはほとんどありえないことをよく知っていたからにちがいない。
(「バーボン・ストリート」収録「死んじまってうれしいぜ」文庫版36-37P)

バーボン・ストリート (新潮文庫)

バーボン・ストリート (新潮文庫)

ある時はひと気のない深夜のバーの片隅で、またある日は人いきれのする賑やかな飲み屋で、グラス片手に飲み仲間と語り合った話の数々―スポーツ新聞の文章作法、ハードボイルド、テレビと映画、賭け事にジョークetc…。そんな話題を素材にして、ニュージャーナリズムの旗手が、バーボングラスのよく似合う15編の洒落たエッセイに仕立てました。講談社エッセイ賞受賞。

【創作系譜論】【大人のおとぎばなし


「大人のおとぎばなし」という言葉、そんなに独創的な造語じゃないんだろうけど、
この言葉の自分的出典は、前述のように沢木耕太郎「バーボン・ストリート」収録の一編によるもの。
自分はこのブログの中で、使ってるようであまり使ってなかったが、検索する限り5つのシチュエーションを紹介している。(※書いた当時の話。その後、追加しています)

なかなか定義もわれながら曖昧なんだけど、読んでなんとなくの雰囲気を掴んでほしい。

戦争中の敵国同士で、どちらもSFファン(片方が作家、片方が愛読者)。捕虜だったり、秘密交渉の相手だったりで遭遇する敵国民同士だが、SFファンであるということをお互いそれ以上に優先し、たちまち肝胆相照らす友となる.

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退職金をはたいて、それまでの高級車を売り払って、やや大きめの軽自動車を寝泊りしたりテレビも見られるような快適な「家」に改造し、日本中を回る旅に出る。どこへいく?いつ帰る?そんなの風任せさ。

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プロレスvsボクシング、どっちが強い?ファン同士、どちらも譲らない?…「じゃあ俺たちで戦って決着をつけるぞ!」「お父さんたち、お二人とも60超えた社会的名士じゃないですか!」

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ある硬骨の士が、上層部の怒りにふれて地位を解任され、彼のチームは解散。男は一人になった…と思いきや「俺たちは役職ではなく、あなた個人についていくんです」と部下。

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ヴィンランド・サガ」より
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信念と人情を貫いて仕事をする硬骨漢。上層部には理解されず睨まれ、不利益を被るけど「左遷」も平気。なぜなら本人も家族も、立身出世や業績考課なんて、ちっとも気にしてないから…

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熱狂的な野球ファンが、急な仕事のため、尊敬する選手の引退試合に行けなくなる。されど、「彼も仕事、私も仕事。好きな選手の引退を、同じように仕事することで送れるなんて贅沢じゃない」と考えて仕事に没頭する…

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「無遠慮な若者の『ずうずうしさ』で孤独な人との縁が生まれ、活気あるコミュニティが立ち上がる」

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「働かないふたり」くらげバンチより https://kuragebunch.com/episode/10834108156638414247

インテリが、非インテリに持論をとうとうと語る。非インテリは「お前のいうことはわからん」と突き放すが、肝心な場面で、彼が語ったのは、かつてインテリから聞かされた考え方だった…

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いい年をした大人たちが、子供っぽい遊びに夢中になる

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MASTERキートン 5巻 「ノエルの休戦」


粗野で無教養だが人情味豊かな人(「寅さん」や「ギャル」)が背中を押してくれる

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これを書いているわたくしは、漫画なり映画なり小説なりの、さまざまなお話が好きです。悲劇も喜劇もハッピーエンドもアンハッピーエンドも
ただ、そういう物語の「好き」の中で、上のような話が何か、ほかのものとは違った味わいがあると感じるのです。それを、沢木耕太郎氏の言葉を借りて「大人のおとぎばなし」を、まぁ仮称しているわけですが…
これが何なのか、について、これからじっくりと考えていこうかと思っています。



たとえば浦沢直樹氏って、画力だ重厚なテーマだ尻切れトンボだといろんな評価の切り口がありますが(最後が余計だ(笑))、自分にとって突き詰めると、浦沢直樹は、一部は原作者の手柄とはいえど、この「上質の、大人のおとぎばなし」を描ける作家だ、ということになると思う。
それはむしろ、初期短編集でわかる。

浦沢とくれば細野不二彦氏だが、彼も読み切り…あるいはそれ以上に、一話完結ものの中で時々、決め球のようにこの「大人のおとぎばなし」を描いてくる。ひとつだけあげろと言われたら「いとしのバットマン」で、川上哲治をモデルにしたような往年の名選手が登場する話や、東京ドームの冷房故障という設定を舞台に「魔法のヤカン」を描く話なんかがあったのう。


弘兼憲二も、実はそういう視点でいえば「こんにゃく侍」とかいろいろ描いているのだ。弘兼氏が描く大人のおとぎ話は、偶然恋愛した相手が、会社の大株主でラッキー!的な話だけというわけではない(笑)。

弘兼憲史短編集 (2) (講談社漫画文庫)

弘兼憲史短編集 (2) (講談社漫画文庫)

上の「球場ラヴァーズ」で派生して紹介した「刃牙外伝 猪狩vs斗羽」も、まさに大人のおとぎばなしの傑作ともいえる。