1回の連載で複数のミニエピソードが入る回が多いから、このエピソードは1018話となる。
「働かないふたり」をここで紹介して褒めたのは2015年末か…早いものだ。
全部、再引用しよう。
■吉田覚「働かないふたり」
http://www.kurage-bunch.com/manga/hatarakanai_futari/
【紹介】
- 作者: 吉田覚
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/05/09
- メディア: コミック
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日本漫画史上、もっとも危険な思想を喧伝するプロパガンダ漫画だと思う。
漫画規制や表現規制も、これを踏まえねばいけないのでは。
つまり…「働かない生活って、やっぱりいいよな」と皆に思わせてしまう(笑)
ゲームをして、一本100円のレンタル映画を観れれば満足。
おかしでもそこにあればめっちゃ嬉しい。きょうだいでふざけあい、たまには友達も来る。
それが想像上のものであり、また「生活」「経済」を見ないからこそ成立することは承知のうえで、たしかにこれはユートピアだといわざるを得ない。
このあと、話が進んで、特におにいちゃんのほうは、たしかにニートなんだけども、非常に知的にもコミュニケーション能力にも優れている、ということが分かっている(じゃあなんで普通に社会に出て働かないの?といえば、そこがまた興味深いのだが)。妹さんのほうはふつうにコミュニケーション力が低い非社交的な性格であるけれども、それでも外見もかわいい(らしい)し、また非常に他者にやさしく、その優しさを愛する友人もちゃんといたりする。また、ここもありそうでなさそうな「大人のおとぎばなし」なのだけど、そういう形で仕事もせずに、だけど兄弟仲良く、そしてとても楽しそうに一日を遊ぶ姿…そこにたまに混じって遊ぶことが「癒し」となるキャリアウーマンがいたりするのだ。
ま、ま、 そんな背景を踏まえて……
今回たまたま目についたこの回が、典型的な「大人のおとぎばなし」なのだなあと思ったのでピックアップして紹介する。
さっき言った、ニートだけど知的さも社交性も人並み以上のお兄さんとその友人が、夫がなくなり、家にある多くの遺品を「断捨離」しようと思っている女性に、偶然力仕事が必要な家具の処理などを依頼される。
男手3人の力でぶじに多くの、無駄な家具を捨てることができた老婦人だが、終わってみると夫の思い出の品もなくなり、部屋もがらがら。意外なほどの寂寥感を感じてしまうが…
おにいちゃんが、亡夫の残した意外な趣味のものを発見した。それは大きな部屋に敷いて作るような、超巨大なパズル。興味津々の男どもだが、こんな大きなパズルを作れる場所はない。そこで…
ここからのお話は、実際にリンクに飛んでもらうこととしよう。
読んでいて、やっぱり構成が良くできていると思う。ぶっちゃけ、こういう種類の「いい話」を評価するとき、脳内の基準となる「ものさし」はMASTERキートンなんだけど(爆笑)、キートン度高くありませんか、この話。 主人公をキートンにして、あの調査会社の経営者でも、娘や親父を配置してもそのまま話になる。キートンの親父さん出てきたら、この老婦人を口説きにかかるから駄目か(笑)
まぁ、でもその一方で、自分がこれを「大人のおとぎばなし」と呼んでいるのは、こういう人情系の「いい話」も、ある種のベタやお約束、テンプレを多分に含んでいて、そういう部分の構造を解析できるんじゃないか、と思っているから、という面も少しある。
熱血スポコン、
ホラー映画
異世界ファンタジー、
ラブコメ……などなどは、多くの名作を、ツッコミ視点で構造的に分析して「テンプレ」「パロディ」にする試みがネットにも多いのだけど、MASTERキートン…というかビッグコミックは、読者層がそういうことを愛する層よりちょっと高めで、わざわざそういうことを言挙げする人が少ないような気がする。
(観測範囲の問題かな?もしそういう先行研究があったら教えてください)
そこをやってみたい、という壮大な野望の一歩、数歩。
今回の作品は「ある孤独な人が、自分の『趣味』『欲望』をストレートにぶつける『無遠慮なトリックスター』と知り合う。その無遠慮なわがままは、かつて孤独だった人にとって、迷惑ではないどころか、とても嬉しい、生活の張りになったのだった」
というのがキモで…ああ、たぶん初出に近い、原型は「若草物語」のピアノだ、たぶん(雑に仮説を打ち出すところがこの研究の醍醐味。)
ベスはピアノを弾くのが好きなので、ローレンス氏の持っているグランド・ピアノに憧れます。ところが、遊びに行った時、大きな声でローレンス氏に「やあ!」と言われたベスは、もうびっくりしてしまって、それ以来ローレンス氏の所へ行けなくなってしまいました。
それを聞いたローレンス氏がまたいいんですよ。マーチ家に訪問した時に、さりげなく音楽の話をするんです。すると、興味津々のベスがおそるおそる近づいてきます。
そして、「ピアノというものは使わんでおくとわるくなります。お宅の嬢さんのうち、どなたかちょこちょこきて稽古をしてくださる方はありませんかの?」(114ページ)と言うんですね。この場面がぼくは『若草物語』の中で一番好きです。
そしてこの骨法は、「男はつらいよ」にも引き継がれているし、藤子・F・不二雄の作品でも、何度かこういうモチーフが描かれたことがあった。エスパー魔美「ライオンじじい」の回とかね。タイトルは「スズメのお宿」か。
エスパー魔美だけをとっても何人か印象的な高齢者が出てきますね。「スズメのお宿」の、子どもたちから“ライオンじじい”と呼ばれている老人とか、非常に印象深いです。
— 稲垣高広(仮面次郎/koikesan) (@kamenjiro) 2018年9月17日
エスパー魔美
#41 スズメのお宿
21分
魔美は林の中で、子供の声がうるさいと言う頑固そうなおじいさんと出会う。このおじいさんは、林の中のスズメのお宿に住んでいる。早速仲良くなって魔美が肩を叩いてあげていると、おじいさんの過去が見えてきた。
「エスパー魔美 #41 スズメのお宿」の動画視聴・あらすじ | U-NEXT
まあ、しかしコミュニティ、人間関係というものは実際に濃密になれば、それはそれで煩わしい。かといって、それをゼロにして快適にやっていけるほど強い人間は少数派だ。だから「新たなコミュニティや人間関係が、主人公の行動を機に立ち上がる。それはどろっとしたしがらみなどではなく、すずやかで淡く、楽しいものになる」という話が喜ばれるのではないか、と思うのです。
ずばりいえば、この前「このマンガがすごい!」で賞を取った「メタモルフォーゼの縁側」はまさにその快感が、読者に喜ばれたのではないかと思うんですよ。
(もうひとつ、この話は『ある要素』があると思うけど、それは別の機会に。)

- 作者: 鶴谷香央理
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「大人のおとぎばなし」過去記事リンク一覧
こういうの、一度作っておくと便利だな(笑)ここまで読んでくださった方はちょっと跳んでいただき、自分がイメージして分類している「大人のおとぎばなし」について知ってください。
ただなぜか、一番の基準としている「MASTERキートン」の直接引用は無いな(笑)。「浦沢直樹」全ジャンルとして語っているからか。
今回の記事も収録しよう。
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