twitterで書いたものを、あらためて文章を整理し、ブログ記事にします。
鄭問先生の「東周英雄伝」から一本、あらためて紹介したい。すでに1枚画像を紹介したけど、のちに秦の始皇帝となる王に仕えた老将・王翦を描く傑作「貪財将軍」から。
史記等が出典だけど、だいぶアレンジもあるようだ。
なぜ王翦のこの回を紹介したいかといえば・・・・・・・・、つい数日前にだいぶ話題になった【魔王を倒した後の勇者の処遇 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1092793 】
の、ひとつの「解」だと思うからです。
というか、そのまとめでも既に彼を紹介してる人いるね。
話の始まり…
のちに始皇帝として歴史に名を遺す…この時代はまだ「秦王」が、対楚戦争の兵力を部下に問う。
王翦は「60万」と言うが、野心的な若将軍が「私なら20万で」と請け負う。
当然、秦王は若将軍に好感を持ち、彼を指揮官に任命。王翦は引退するが、若い将軍に「家を安く売ってくれ」とねだったり、金に細かいと悪評が… pic.twitter.com/9IDJ7Biplc
4:だが、やはり若将軍の兵力見積もりは甘く、初戦で勝っても占領を保てず逆襲される(米のイラク戦争だ…)。
秦王は、査問していたヤン・ウェンリーに要塞防衛を慌てて命じた自由惑星同盟のように(喩えがヘン)、引退の王翦に出馬を要請。王翦は、その立場を幸いに交渉して「兵力60万」を実現した。そして…
ここから真骨頂、「貪財将軍」の題通りの展開だ。
王翦は、天下に聞こえた名将軍とは思えないぐらい「私が勝った時は恩賞としてこれこれとドコソコを頂戴ませませ」と細かく注文。
秦王は「勝てばそんなの好きなだけ授けるに決まっておる、細かいのう」と呆れつつ了承。
王翦は戦場からも「恩賞よろしく」と何度も…
だが、王翦の狙いは別のところにあった。
ほぼ秦の総兵力ともいえる60万の軍を麾下に収めた将軍、望めばクーデターだって可能だ。そして、王がそう疑えば、逆にいつ王翦は粛清されるかもしれない…
歴史上、どっちもよくある話。実際、王翦を讒言する大臣もいた。
しかし!!
元来疑い深いはずの秦王なのに、この「王翦のクーデター」説をからからと笑い飛ばす。
「あんなに細かい恩賞とか、セコい小利にこだわる奴は、かえって大それたクーデターなんかしないよ」と。
理路はともかく(笑)、結果的に戦争に一番必要な軍と政の信頼関係が保たれ、戦争に勝利したのであった…と。この皮肉な逆説と人間観。
もちろん私が見るところでも、面白さの根本は原典たる中国古典に依拠すると思うけど、やはりご覧になられたような圧倒的な絵の迫力がそれを増幅させているのではなかろうか。また若将軍の邸宅の話とか、たぶんドラマのアレンジ・肉付けもかなり上手いようだ。
どの場面が史書の通りなのか、どこから故人の創作場面か、これは古典に詳しい人ならすぐ指摘できるだろう。
俺が教養がないからわからんだけだ(笑)。
墨子の回なら、結構わかるんだけど…どちらにせよ、こんな数千年前のロマンを再現してくれる天才が鄭問でした。
あらためて、RIP。(了)
しかしまあ、・・・・・・・・自分でつなげてるだけなんだけどさ(笑)、ファンタジーRPGの設定から話題になったことが、こうやって中国古典につながるとは。その古典の生命力に舌を巻くし、結局今の物語、ストーリー、エンターテイメントだって、当然に古代や中世のそれと共通するのだろうな、と思うのでした。
そして、それを流麗な絵にした故鄭問を、あらためて追悼。
予告 時間に余裕があればもう一遍「墨子」の回を紹介したい。
台湾の漫画家・鄭問さん58歳で逝去。〜「東周英雄伝」「深く美しきアジア」など日本でも有名 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1095265