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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

銀英伝雑談(1)ラインハルト暗殺未遂の元ネタの一部は、荊軻と始皇帝ですわな

NHKのノイエ銀英伝で「さらば、遠き日」が放送されたらしい(自分はあとで見る)。twitterのトレンドに浮上してたから。
こっちは「石黒版」

今回が最終回…ではなく、次回が最終回らしいね。


togetter.com

んで、まあ、タイトル通り。そんなことだいたいみんな知ってるだろうけど、名作というのは大したもので、次々と新しい世代の読者視聴者がいるから、既に知られていることを念のために書くと、一部にはウケる(笑)。

刺客の依頼を受けた荊軻は、用心深い政に謁見するための策を考えた。その策とは、一つが、燕でも最も肥沃な土地である督亢(とくごう、現在の河北省保定市涿州市・高碑店市)を差し出すこと。もう一つが、もとは秦の将軍で、政が提案した軍の少数精鋭化に対し諫めたために政の怒りに触れ一族を処刑され、燕へ逃亡してきていた樊於期(はん おき)の首を差し出すこと
(略)
荊軻は直接、樊於期に会い「褒美のかかっているあなたの首を手土産に、私が秦王にうまく近づき殺すことができたならば、きっと無念も恥もそそぐことができるでしょう」と頼んだところ、樊於期は復讐のためにこれを承知して自刎し、己の首を荊軻に与えた[2]。
(略)
「風蕭々(しょうしょう)として易水寒し。壮士ひとたび去って復(ま)た還(かえ)らず。風蕭蕭兮易水寒 壮士一去兮不復還」
という詩句は、史記の中で最も有名な場面の一つされる。

これを聴いた士たちは、だれもが感情の昂ぶりの余りに凄まじい形相となった。そして荊軻は車に乗って去り、ついに後ろを振り向くことは無かった。
(略)

荊軻は地図を持って政に献上し、政は地図を開き始めた。地図が開き終わる所に匕首が巻き込んであった。荊軻匕首をつかみ、政の袖を取って政を刺そうとした。しかし、間一髪の所で政の袖がちぎれ、政は逃れることができた。

政は慌てて腰の剣を抜こうとしたが、剣が長すぎて鞘に引っかかり抜けなくなってしまった。群臣と衛兵たちも慌てたが、臣下が政の殿上に武器を持って上がることは法により禁じられており、破れば死刑であった。

荊軻匕首を持って政を追い回し、政は必死で柱の周りを逃げ回り、剣を抜こうとするがあせればあせるほど剣は抜けなくなる。群臣たちは素手荊軻を……

ja.wikipedia.org

と、ラクしてウィキペディアで紹介したが、格調高き原文はこちら。(ただし十八史略版)

欲遣軻。
軻を遣はさんと欲す。

軻請得樊将軍首及燕督亢地図、以献秦。
軻樊将軍の首及び燕の督亢(とくこう)の地図を得て以て秦に献ぜんと請ふ。

丹不忍殺於期。
丹於期を殺すに忍びず。

軻自以意諷之曰、
軻自ら意を以て之を諷(ふう)して曰はく、

「願得将軍之首、以献秦王。
「願はくは将軍の首を得て、以て秦王に献ぜん。」
https://manapedia.jp/text/3852

軻奉図進。
軻図を奉じて進む。

図窮而匕首見。
図窮まりて匕首見(あらは)はる。

把王袖揕之。
王の袖を把りて之を揕(さ)す。

未及身。
未だ身に及ばず。

王驚起絶袖。
王驚き起ちて袖を絶つ。


軻逐之。
軻之を逐ふ。

環柱走。
柱を環(めぐ)りて走る。

秦法群臣侍殿上者、不得操尺寸兵。
秦の法に群臣の殿上に侍する者は、尺寸(せきすん)の兵を操るを得ず。
https://manapedia.jp/text/3854

・警戒厳重な敵の帝に謁見するために「仇敵の遺体」の首実検をしていただくとの名目を使う


・献上する貴重なもの(銀英伝では遺体そのもの、史記では、献上が全面降伏も意味する国の地図)に、暗殺の武器を忍ばせる


・皇帝の安全のために「味方も家来も武器所持禁止!!」を徹底しているために、いざ襲撃に直面された時は護衛に武力が無い。

この3点を踏襲しただけで、元ネタ認定して問題ないと思うのだが、まあこんな場面がちりばめられれば、そりゃ中国で人気が出ますわねえ。
また3点目は実際、これはクーデターなどにも敷衍されるのだけど、権力が権力を維持する時、どこまでを…そして内・外のどちらを警戒すべきか、という普遍的な問題であり、おそらく永久に結論は出ない
上前淳一郎のコラム「読むクスリ」で以前読んだ中に、大工さんの回想で「家を建てる時、警察の人は『絶対に外部から侵入できないように』、消防の人は『すぐに内部から外に脱出できるように』と注文します」というのがあった。(※もし夫婦とかだったら、両方を満たすことは絶対にできんぞこれ)


ちなみに、この話は…物語の構造や文章の工夫から、ある「仕掛け」「特異な誕生の経緯」「トリック」…というべきものがあって、それを若き日の宮崎市定が推理し、仮説を立てている。
これがとんでもなく面白いので、ぜひそれを紹介した過去の文章をついでに読んでいただければ。

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関連話、続く予定。

※その後書いた「2」

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