長期連載の漫画やドラマなどにはクリスマスは格好のネタとなるので「クリスマス回」とでも言うべき1ジャンルが存在していることは言うまでもないでしょう。傑作名作あまたありますが、その中で自分が一番印象に残っていて、この季節に度々思い出すのがMASTERキートンの「ノエルの休戦」です。最初に出た通常の単行本では5巻に収録されている。
たぶん、全18巻のキートン作品の中でも、三本の指に入る傑作…だと自分は思っています。
今回、このクリスマスイブに、画像も含めて少し紹介させてもらいます。
・あるクリスマス…そこはドイツなので「ノエル」と呼ばれる…の夜、キートンはビジネスマン3人の奇妙な集まりに招待される。3人はいずれもドイツに外国から赴任してきた電子機器のビジネスマンで、普段は熾烈なセールス競争を行っているようだ。 1人はキートンと同じ英国人か、アメリカ人かな?名前はアンダスンだし(ブクマで「我が国のチキンチェーン」のことを話してるからアメリカ人だろう、との指摘があった。成程)。もう一人はフランス人のモレル。そして遅れてやってきた最後のひとりは、そのセールス業界のナンバーワンである日本人、山本だった。
この山本が見た目も態度も語る言葉も、いかにもステロタイプな日本人…ペコペコ何度も謝り、善い悪い、自分の好き嫌いもはっきり言わない。そんな彼に、アンダースンは少しイラつき皮肉を飛ばし始める。初めは黙って聞いていた山本だが、これも日本人らしく(笑)、我慢の限界に達すると、途端に大激怒し、盛大に啖呵を切る 。
そして座が白けたとなったら、またも日本人らしく、深く深くお詫び。そして、彼を残して妻子が日本に帰省している、がらんとした山本の自宅に行き、飲み直しとなるが…
気まずい雰囲気が続く一座に、我らがキートンが「ノエルにふさわしい仲直り方法がある。それは決闘だ」と、とんでもない提案をし、雪の降り積もる庭先に4人全員が出てくる。
さすがにいい大人の3人は「決闘なんて…」と困惑の表情だが、 キートンの言う決闘とは『雪合戦』だった!宣戦布告なく雪玉をぶつけるキートンにアンダスンは反撃。
その戦火はたちまち拡大し、4人は我を忘れての大決闘を展開する。
そして山本とモレル、アンダスンとキートンの2対2に自然と分かれた彼らは、お互いに創意工夫を凝らした『新兵器』を投入し……
最後の展開、結末も、実に粋でスタイリッシュなんだが、
そこは実際に読んでいただくということで。
これが印象に残るのは、当ブログで追っているテーマの一つである『大人のおとぎばなし』にそのまま当てはまるようなストーリーだからだと思う。
ストーリーを因数分解すれば、「大人が何かのきっかけで夢中になって子供がやるような遊び、ふるまいをする楽しさ」を描くおはなしであり、これははっきり言って、マスターキートン、ほか浦沢直樹作品では『定番』みたいなもんなんだ。この前、ラグビーに絡んで紹介した一編もそうだし、折り畳み自転車を途中で購入してまで、アイクリーム屋台の自動車をおっかけていく―なんて話もあったな。休暇中も仕事や家庭を忘れられなかったビジネスマンが、一緒に大物狙いの釣りをしていくうちに、呼び出し電話の伝言に「やかましいって言ってくれ!」ってかえすのは…あれはパイナップルARMYだったかな?
そんな風に定番であるんだけれども、この「ノエルの休戦」は、仕事仕事に追われて温かい家庭や、本当に親密な友人関係もなかなか築けない、中年のビジネスマンが、『子供らしい遊び』というマジックによって、それを打破する―――という流れを、山本というあまりにステロタイプな日本人ビジネスマンなどを描くことによって見事に書ききったから、傑作になったのだと思う。実はこれが民族的・国民的ステロタイプというものの一つの効用でもあり、 「ヘタリア」もそうだけど、ステロタイプというものの功罪は少なくとも物語の創作という面からは、慎重な検討を要すると思う次第です。
ちなみにこの時のステロタイプとして「メイドインジャパンの商品とビジネスは圧倒的に強く、世界を席巻する」というのも描かれていたのですが……、1990年初版発行の、この当時の、歴史的な風景として、今はただただ懐かしい(笑)。
そんなことで、自分の中で最も印象に残ってる漫画の「クリスマス回」、MASTERキートン「ノエルの休戦」を本日、12月24日に紹介させていただきました。
皆さんが印象に残っている『クリスマス回』は何がありますか?
「大人のおとぎばなし」について
【大人のおとぎばなし】は準タグです。この単語でブログ内を検索すると、関連記事が出てきます。
ある程度まとまった一覧。今回の記事も一覧に加えよう。
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