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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「ナックル」でオヤジ野球選手がもう一花~「男の自画像」(柳沢きみお)を最近の「グラゼニ」で思い出した

モーニングの「グラゼニ」だいぶ長期連載になってるなぁと思って調べてみると2010年12月に連載がスタートしたらしい。東日本大震災より前に始まった作品なんだな。
しかしこれが最近も、また面白くなってきている。


思い起こせば主人公の凡田夏之介は、第一話で 自分のことを「26歳独身、プロ8年目で年収1800万円。これではとても一流選手とは言えない」 と自己紹介していた。

comic-days.com
しかしその後、プロ野球のあらゆる人間模様を一身を持って紹介するためか、彼は大激動のプロ人生を歩む。先発転向からメジャー挑戦、東京のドームを本拠地とする超人気の伝統球団、腕のケガとトミージョン手術、そこから一転して東北地方のパリーグ球団まで…そして最多勝利のタイトルまで取り年俸は「億」を突破し一流の仲間入り。
そして家庭を持った彼は、すでにベテランとなり、体力は衰え引退の声がちらつく…しかしそんな中で、凡田夏之介は、最後の一花を咲かす(かもしれない)武器を手に入れる

それは何か?今なお”魔球”として扱われることもある変化球「ナックル」である。

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グラゼニナックルボール

このナックルを身につけるまでの一連の経緯や、ナックルはそれを取れる捕手がいなければ「パスボール量産機」になってしまうというところと、二軍の外国人選手が厳しい外国人枠の中で上に上がれるかというドラマを重ねて表現してるところはさすが野球マニアの原作者だけある、と思う。

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グラゼニ ナックルと変化と捕手

ただこの展開を見ていて、別の「ある作品」 を思い出す人もいるだろう…。

今回ちょうどいいことに、それを紹介するのに絶好の機会が巡ってきた。

いま(2021年6月2日現在)電子書籍セールにより一冊99円(全6巻)で Kindle で購入可能な野球漫画。柳沢きみお「男の自画像」である。

※コメント欄より

bleem!

いつも更新を楽しみにしております。自分も「グラゼニ」のナックル編を読んで「男の自画像」を連想しました。さて、「男の自画像」Kindle版ですが、愛蔵版が更に安く一冊22円でセールになっているようです。

これか?




プロ野球で記憶にも記録にも残る活躍をした選手が、下り坂からの復活のために「ナックル」を手に入れた……という「 グラゼニ」より、さらにシビアに…、肘を痛めてプロ野球球団セネターズを引退、それでもちゃんとした企業で管理職の地位を得て安定していた 並木雄二 。

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

だが毎晩のようにマウンドに立つ夢を見る彼は、自分がまだ燃え尽きていないことを知り、突然辞表を出して会社を退職。孤独な・・・・いや、かつてバッテリーを組んでいた今は焼き鳥屋のオヤジである益山の協力を得てカムバックロードを歩み始めるのだ。

と言っても、 さすがに引退して36歳になった元ピッチャーのサラリーマンが、再びプロ野球の一軍選手として活躍する……というのはそのまま何の工夫もなく描いたら、あまりに荒唐無稽すぎる展開である。

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

それを「根も葉もある嘘」にするために登場したのが、連載されていた当時は より神秘的な魔球としてのイメージもあったナックルだった。と言うか当時実際にナックルボーラーとして、メジャーで 48歳まで活躍していたフィル・ニークロ という選手がいたらしい。
ja.wikipedia.org

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

描写の深さ細かさは野球マニアの漫画「グラゼニ」には及ばないものの、この辺をうまく消化したことで単純な中年の哀愁や喜怒哀楽を描く人生論作品というだけじゃなく、まっとうな「野球漫画」足り得たと思います。



といっても柳沢きみおらしく…(と言いつつ、この「柳沢らしさ」ってかなり定義しにくいんだけどな)、かなり主人公は色々と、苦悩と言うか内省する。
そもそも夢を追ってプロ野球カムバックに挑戦しはじめた時、並木は妻との仲は冷え切っていたが、二人の子供をとても可愛がっている。
その子供たちの生活を保障できるか、といえばどう考えてもサラリーマンの地位を投げ打つのは無謀な挑戦だったし、妻も怒って実家に帰るわけである。


そして、 それでも夢を追って無謀な挑戦のはじめた並木の光に、周りの人間は眩しく照らし出される。特に同じように夢を途中で断たれた元プロ野球選手たち…惜しみなく協力する益山はまだいいが、例えばすでにヤクザになってしまったかつてのライバルもいる。

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

ふと知り合った、超一流の打撃を持ち スカウトもされていたが、それを断って草野球を楽しむような若き在野のスラッガーもいる。

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

またナックルボールを磨き上げ、十分にプロで再び通用する技術と肉体を作り上げた並木を翻弄するかのように、プロ野球チーム内の複雑な人間関係と、それと裏腹に、一定数の選手と新契約を結ぶなら、それと同じ人数が解雇されると言う単純でシビアなプロ野球のシステムが立ちはだかる。

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

それでもなお、もう一度プロ野球に挑戦したいと思い、全てを捨て、そしてもっと大きなものに執着する男の姿。
なんとか一軍に這い上がった彼は、ある時、強豪ジャイアンツを相手に(※80年代の実在選手が多数登場している)思いもしなかった「完投勝利」を目前にするが…

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引退し会社員になった男が再びプロ野球へ… 柳沢きみお「男の自画像」

並木がサラリーマンを打ち捨ててもう一度プロを目指す36歳という年齢は、一般世間では決して年配とは言えない。だから読む年齢、読む世代ごとに、様々な読まれ方があるだろう 。

ちょうど時代的には前後するんだろうか、浦沢直樹が本格的に世に出る前の、短編連作「NASA!」もプロ野球選手と同じように、子供の頃は誰でもが憧れる「宇宙飛行士」、その夢をあきらめない姿勢の中年男性を描いて印象に残る。

この二作品を読み比べるのも悪くない。


これらはすべてが、前に何度か書いた「大人のおとぎばなし」と定義するに足る。

【大人のおとぎばなし】は※準タグです。この言葉でブログ内を検索すると関連記事が読めます.

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