文芸市場の「半分」を占めるまでに成長した、ウェブ小説の歴史。多くの人がウェブ小説に漠然とした印象を持ってはいる。しかしその歴史を扱った書物はほとんどない。2022年現在、世間的には、ウェブ小説といって真っ先に思い浮かぶものは「なろう系」「異世界転生」というイメージだろう。実際にはウェブ小説は、1990年代には「分岐する物語」「集団創作」志向を持ち、「自費出版」「ケータイ小説」などのかたちでも展開、小説家になろうや他の思想の異なる「ウェブ小説投稿サイト」の隆盛といった数多の試みと多様化を経て現在に至る。本書は「ウェブ小説の書籍化の歴史」を主に扱う。今や日本の文芸市場の「半分」を占めるまでに成長したウェブ小説の歴史を、ネットビジネス史と出版産業史的な視点から紐解く。
以下、本書目次より抜粋
はじめに
第1章 1990年代ウェブ小説の書籍化
―分岐・集団創作・マルチメディアの夢第2章 2000年代前半のウェブ小説書籍化
―自費出版・掲示板文化・ガラケーサイト第3章 2000年代後半
―第二次ケータイ小説ブーム第4章 2000年代年代後半
―アルファポリス、エブリスタ、小説家になろう補章 2000年代までの隣国のウェブ小説動向
第5章 2010年
―初の異世界転生書籍化と「ウェブから書籍へ」の流行の波及第6章 2011年
―「新人賞からウェブ投稿へ」という投稿先変化の萌芽第7章 2012年
―なろう系文庫レーベルと複数のテキスト系サービスの出現第8章 2013年(1)
―MFブックス、ビリギャル、櫻子を当てたKADOKAWA第9章 2013年(2)
―多様化する女性向けウェブ小説と出版社系サイト/電子小説誌の苦戦第10章 2014‐2015年
―なろう系がラノベになり、ライト文芸にウェブ発が合流する第11章 2016‐2018年(1)
―なろうダイジェスト版禁止、成年向けと児童への広がり第12章 2016‐2018年(2)
―SFと純文学におけるウェブ小説書籍化の明暗第13章 2019‐2022年
―日本式の「ウェブ小説書籍化」は終わらない
まず、基本のコンセプトが面白いし、応援したくなるものだ。
「ウェブ小説」は、いろいろなところから芽が出て、育って、大きな果実も花も付けて、そして太い幹となり、巨大な森を造成した。
…だが、その「歴史」は、誰もまとめるものがおらず……、どこの誰も手を付けなかった。つまり、「通史」がそもそも描かれていなかった。
だから、それに挑戦し、記録に残そうとした。
これだけで、その志がいかに素晴らしいことかと、称賛するしかない。
【記録する者たち】の面目躍如だ。
上にコピペしたようにAmazonには各章のタイトルが転載されていて、それだけでも興味を引くが、
さらに各章に付された小見出しだけで実に興味深いし、これを読んでみたくなるのではないか。画像で紹介しよう
実際に読んでみたが、実に面白かった!
ただ、どんなふうに面白かったかが、多すぎてちょっと書ききれないので後にする(笑)…※いずれそのうち。
だが、そこからちょっと自慢したいことがあって。
自分がこの「ウェブ小説」に持っていた疑問や謎が、この本では数多く「回答」を示してくれた。だから俺的にはすごい高評価なんだけど、逆に言うと、俺の「疑問」って、結構的を射た、芯を食った問いだったんじゃなかろうか、と自画自賛するのですよ。
実際、おいらが今まで発したウェブ小説、ウェブ小説投稿サービスへの「問い」を共有していただくと、この本をこれから読もうかという方にも一種の「補助線」となると思うのだ。あらためておさらいしておく。
・いったいどうやって、ウェブ小説は始まったの?
・いま勝ち残っているウェブ小説投稿サイトは、何が優れていたの?
・そういうウェブ小説に一種の「傾向」が生まれがちなのはなぜ?
・同じような動きは世界各国にあったんじゃないの?諸外国のウェブ小説はどうなってるの?
こういった疑問に、「30年史」は、かゆい所に手が届くように答えてくれている……。と同時に、上のリンク集では、当方の疑問に対してブクマやコメント欄などなどで、いろいろなご教示が寄せられ、自分なりの「仮説」的な答えを構築できたりもしていた。
その「仮説」と、この本による「答え合わせ」が、ほうほう、なるほど……といった感じで、自分的には大変スリリングだったのでした。
それぞれの内容に関する記事を、あとで改めていろいろ書きたいと思うけど、まず最初にこういう本が面白かったという報告と、そのテーマに関する拙ブログの関連記事紹介という形で。
ちなみにネット小説史研究では、このへんのまとめも欠かせない
kazenotori.hatenablog.com
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