昨年出た、香山リカ氏のこんな著書がある。
バブルに沸く日本で「表現の自由」を拡張したサブカルチャー、その象徴でもある漫画家・根本敬の世界に魅せられた精神科医が、サブカルとともに歩んできた自らの歴史を振り返りながら、90年代「悪趣味」ブームと平成末期の「ヘイト」の関連、表現することの未来と自由の可能性を解き明かす。
- 作者:香山 リカ
- 発売日: 2019/03/16
- メディア: 単行本
私は、31歳のとき書いた根本敬論で、「見てはいけない」と禁止されているものを見るのは「恋」と同じなのではないか、と書いた。「根本のマンガに登場する素材のうち、性倒錯者、糞尿マニア、守銭奴、乱暴者、貧乏な人などは、暗い世界とはいってもあくまで日常の了解がぎりぎり通用する」としながら、「妄想や幻覚、奇形、屍体などが自在に活動しだす時点」では、ついに「見てはいけない」の線が越えられている。私が、それを見たいというのは「恋」の視線なのだ、だから弾圧されることなどあってはならない、と書いた。あのとき「恋」という言葉で説明してしまった根本の漫画を、平成も終わるいま、もう一度、社会の中で考えてみたい。それがこの本の目的である。(本文より)
香山氏の論説を、時間やカネをかけて読む価値はあまりないと思っているけれども、ただこのテーマ設定は面白そうだった。
というのは、やはりこの論を掘っていくと、香山氏が今身を寄せている”陣営”や、自分の基盤を掘り崩していくんじゃないか?感があると思ったからだった。
実際、そういう面は読んでみて感じられた。
たとえば第一章の中では、バルテュスの「夢見るテレーズ」が、倫理に反する作品だということでNYメトロポリタン美術館から撤去せよ、という署名運動があることを紹介している。
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香山氏はこう語る
「だからといってその昔、芸術的価値があった作品が、社会の中で芸術ではなくなり規制の対象となる、ということがあってよいものだろうか」
「ポリティカル・コレクトネスと芸術との在り方についていま一度、考えることを迫るものであり、私は重い気分になるのである」
その後、根本敬について、香山流の作品論を語る。ここは読む必要とくになし。太田出版社は、この部分を全部カットして、本の価格を抑えるべきでありました。
それで第5章では、
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この種の議論に関して
根本ファンである私自身、それにどう反論してよいか、言葉を見つけられなくなったこともあった
(P255 )
みたいなことを言ってる。
ただ、その前に・・・・・・・・・191、192P
なにしろ「すぎやまこういちは右翼なので音楽を聴きたくないから、無音でドラクエをやっている」ほどの香山氏である。
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「サイコのお部屋」に罪悪感を感じ、涙ながらに反省の弁を述べる記述でもあるかと思いきや
「やや不謹慎なタイトル」
「今考えると……”鬼畜系”のバリエーションとも言ってもよい」
で、さらっと済ませてることに驚いた。
メンタルつえーな!!!!
まあ、超絶発言である「原発推進派は心の病気」もいまだに撤回しないし、
「原発推進派は心の病気」(香山リカ氏、2012)に、木村幹氏らがあらためて批判 - Togetter https://togetter.com/li/1256098
「日本人」や「50(歳代)」「オトコ」なる、どちらも自分では変更しようのない属性をひとまとめにして「劣化」であると認定…
50オトコはなぜ劣化したのか(小学館新書)
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……しつつ、自身をリベラルであり反ヘイトだと自認している点でまー、その、なんだなんですけどネ。
閑話休題、「ヘイト・悪趣味・サブカルチャー」だが、意外なオチが待っている。
最後に近くなり、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の「なんJ」というところに書き込んでいる住民たちが通報祭りをして、人種差別的youtuberの”凍結祭り”を行っている、ということを絶賛し、
という結論に到達する。
・・・・・・なんかに似てるなあ、と思ったら、まさに似たような例を思い出した。
「モンゴル軍がイスラム諸国を攻撃して滅ぼしている、との情報に接した西洋キリスト教国が、そのモンゴル軍こそ、東方にあると言われた偉大なキリスト教の賢王『プレスター・ジョン』が率いる援軍に違いない!!と誤認した」という故事だ。
……その後どうなったかは、ワールシュタットの地が知っている。
『実話BUNKA超タブー』vol.43、「吉田豪の人間コク宝インタビュー」のゲストは香山リカさんです! 彼女のことが好きな人にも嫌いな人にも読んで欲しい! 他にも面白そうな企画有り。 pic.twitter.com/WRRqyMMYj0
— 吉田光雄 (@WORLDJAPAN) March 5, 2019
へえ、そういう雑誌か…