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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

川路利良、またの名を「日本のフーシェ」。西郷がナポレオンなら、つまりフーシェは…(だんドーン&ナポレオン覇道進撃)

まちに待たれていた、「ハコヅメ」秦三子氏の新連載。
どこかで歴史ロマン系になる、という話を聞いていたのだが、川路利良が主人公と聞いて、警察漫画「ハコヅメ」の次作的にはつながりもあってニヤリとさせられていた…
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だが、同時にネット掲載されたインタビューは、もっと大きな衝撃だった。
「連載が遅れた理由を語る」というのは、前回のヒットを受けてのプレッシャーとか、資料調べが難航とか、そういう創作秘話のたぐいかと思っていたのだが…

『だんドーン』の内容や描くきっかけを語る、いわゆる新連載インタビューではない、という泰さんの強い気持ちが伝わってくる言葉。当初予定していた連載開始時期である昨年10月から8か月遅れで『だんドーン』は始まった。泰さんが話したいと思っていたその「理由」は、「夫が突然亡くなってしまったから」だった。

「開始号も決まっていたので『表紙はどうしようか』と編集さんたちと話していたところでした。夫が亡くなってすぐに編集さんとチーフスタッフに連載をどうするか相談し……読者の方にはただ待っていただいてる状態になってしまった。新連載を楽しみにしてくださっている方もいたので、ずっと申し訳ないと…(略)」
(略)
「朝、胸の痛みを訴えてその日の夜には亡くなってしまったので、なんの心構えも準備もできていなくて。『今私が冷静に対応しないと夫を亡くしてしまう』と思い、精一杯人工呼吸と心臓マッサージをしたんですが……私がついていながら助けられなかった、という気持ちが強かったですね(後略)」
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かけるべき言葉も見当たらないが、それでも心境をほんのわずかでも察するに、あまりある…。




それでも覚悟を決めて始まった、幕末から明治にかけての、たしかにあまり知名度が高いとも言えない、だが確実に、今にまで影響を与える「仕事」をした人間。
川路利良を描く。

だが、この川路利良には、有名というか端的な異名がついている。

「日本のフーシェ」。

「警察組織」を作り上げて(それも、たしかに元の政治家の国、フランスの制度を模倣した)、それを見事に使いこなした人物である以上、それほど裏表のない、ごく単純な見立て・異名である。

だが、第一話で、一つも出てこないこの「日本のフーシェ」という言葉から、逆算・逆光のように連想が行くコンセプトがある。

西郷隆盛は日本のナポレオンである」という。

だんドーン 西郷隆盛は日本のナポレオン…つまり…


ここで補足するなら、「ナポレオン」は島津斉彬のような英邁君主だけが知っていた特殊な知識でなく、既に伝記が日本語で描かれている、知識層には知られた人物でした。
考えr手見ればペリー来航の1853年から見ると、半世紀も前の伝説の人物ですもんね。
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王は何処にか起こる 大西洋
太白 精を集めて 眼に碧光あり
天 韜略を付して 其の腸を鋳る…

向かう所前無く 血玄黄たり

だが、その実「西郷=ナポレオン」と比す対比って、あまり聞かない。なんだかんだと西郷はいわゆる「日本教の聖人」であり、権力や地位に恬淡とした晩年から照射されて知られがちだ。ナポレオンは逆によくも悪くも最後の最後までファイティング・スピリットに満ち溢れていた野心家だ。



つまり……第一話で「西郷=ナポレオン」と比較する構図をここまで鮮明に出したのは
(ネタバレ注意…って史実だからしょうがないだろ!)


西南戦争の時に明確に西郷の敵に回り、薩軍撃破に功績あった川路が当然ながら「日本のフーシェ」と呼ばれることと、意図的に連動させてるんじゃないだろうか。


そして、そのフーシェが、最後の最後にナポレオンを追い詰め、屈服させるさまは、ここで何度も展開を紹介していた「ナポレオン覇道進撃」で、いままさに描かれている最中。

ナポレオン覇道進撃 フーシェ、ナポレオンに勝利す

※シルエットで描かれた『この人』が「えっ、そんなことがあったの!?」と何とも意外。「教科書では、別のページに出てくる人」とでもいいましょうか…

そして…

ナポレオン覇道進撃 フーシェ、ナポレオンに勝利す




そして、末尾部分のこの描写にも注目。

だんドーン 川路利良 日本のフーシェ

このあと、
「情報工作と印象操作で西郷隆盛という英雄の虚像を作り上げて、それを革命の旗頭にする」
とあるのだけど、まあ史実的にいえば、島津斉彬という人物が不慮の死を遂げなければ、西郷は間違いなく、喜んでこの、1000年に一度の英邁な君主を補佐する優れた人物として活躍した(だけ)であり、この時点では仮に「情報で英雄を作って旗頭にする」なら、実質をともなう斉彬をそうすればいいだけなんである。
ゆえにこの構成ってのは、やや強引なのだけど、だからこそ、このテーマをちょっと無理があってもやり抜くんだ、という意思が見て取れる。


そしてこれって、個人的に自分が大好きな「心理・情報操作もの」「うわさや誤認の情報が独り歩きし、怪物化する」というテーマなんじゃないか、と期待するのです。

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そして、インタビューでは「桜田門外の変」を詳しく描く、と書いてた。

「(略)……小学生の頃から描きたかった『桜田門外』も、ようやく描けます」

 小学生の頃から、井伊直弼が暗殺された「桜田門外の変」に興味を?


「はい。ちょうど『桜田門外』のことを考えている時に、新聞で汚職か何かで捕まった政治家の顔がでっかく出ているのを見て。『あ、この人は井伊直弼にちょっと近いのかな?』と思って、その政治家の似顔絵を描いて月代を描き足して井伊直弼っぽいイラストにするというヤバイ遊びをしてみたんですよ(笑)。そうしたら、父親に見つかってしまって……『何をやっているんだ? そんなふうに絵なんか描いて気持ち悪い!』と辱められまして。それ以来『桜田門外』のことは心に封じ込めていました」


すごい。ということは、先行作品「風雲児たち幕末編」に、真向チャレンジする!ともいえる。(この作品を意識しているかどうかはしらんけど)
しかし、その先行作の完成度と迫力はすさまじいぞ…
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そういう「挑戦者」であるのと同時に、作者が「まずは文久二年を描き切らなきゃ」と思いつつ、病によって生涯を終えて未完となった「風雲児たち」の『後継者』でもあるのだ、自動的に。

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というか、このノリ(現代的な感覚による口調で、ギャグを多数盛り込む)はまさに「それからの、風雲児たち」……
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最後に二点。
革命の原則として「詩人の時代、謀略・戦略家の時代、実務家の時代」と主役が交代していき、その交代がスムーズであればあるほど成功する、と言われる。(司馬遼太郎説)

維新の「詩人の時代」は疑いなく、吉田松陰らが担った。さて川路利良は……今回のキャッチコピーも「激動の歴史のど真ん中に ひっそり隠れて しっかりと『仕事』をした男」である。
普通に言えば実務家、のほうなのだが、その前史、ジョブチェンジ前は謀略家、でいいのかね。そういう描き方をするのだろうかな。

だんドーン 「仕事をした男」


もうひとつ。そもそも、最初に紹介したようにいま「第一話」がネットで無料で読める。
だが、雑誌苦戦とはいえ、いまだに売れているはずの「週刊モーニング」で表紙とカラーを飾ってド派手な増ページで連載開始した、エース級の作品だぞ??
ってことで、実は講談社は1、2巻無料なども含め、こういうネットで無料開放してバズらせる系の戦略に凄く積極的で、それは超慎重派の小学館と比べるとよくわかる・・・・・・


この前「スキマ」の全話無料もそうだったけど、こういう戦略のどれが一番巧妙で、どれが一番損なのかは、まだ見定めがたい。そもそも無料でネットで漫画を見られる環境が生まれて、まだ10数年なわけで……


そんな戦略がどう変わっていくかもちょっと気になる所です。