「〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語」という本の紹介の続き。
ただ、普通に続きを書く予定だったが、104章から始まる、この探偵譚を現代のイギリスに置き換えた「シャーロック」の話が非常に興味深かったので、番外編的にそこに特化して紹介したい。
むしろ、ホームズ物に興味ない人こそ読んでほしい。世界の「二次創作」「BL」の現状を紹介する変わったレポートとして。
〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語
- 作者:マティアス・ボーストレム
- 発売日: 2020/01/25
- メディア: 単行本
前回の、ふつうの同書紹介(前半部)はこちら。
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105章より。
…二〇一〇年七月に「SHERLOCK/シャーロック」の第一回が放送されると、数時間後にはネット上のさまざまなコミ ュニティに二次創作が投稿されはじめた。
二次創作やファンダムと呼ばれるファンの活動は、ずっと 昔から存在していたが、基本的にはコピーで製作した同人誌 を仲間内で配布したり、手紙を通じてやりとりしたりという、 表に出ない活動が主体だった。しかし一九九〇年代終盤から 1000年代にかけて、コンピューターやインターネットへ のアクセスが容易になると、こうしたファン活動の多くはネ ット上に場を移した。若きハリー・ポッターが颯爽と登場し たのは、ちょうどそのころだ。J・K・ローリングの「ハリ ー・ポッター」シリーズの人気は、特に二〇〇一年に最初の 映画が封切られたあとはとどまるところを知らず、それとと もにファンの活動も、ものすごくさかんになった。ファンはただ読んだものについて語りあうだけでなく、自分で物語を つくろうとした。
ネット上でのファンダムがさかんになりはじめたこの時期、 著作権者はファンに対して非常に厳しい態度を取ろうとして いた。ワーナー・ブラザースは、ファンがハリー・ポッターをほめたたえ、その結果宣伝すらしているのだとは考えず、 自分たちの権利を侵害しているものと見なした。彼らはハリー・ポッターの二次自作を少しでっ掲載しているホームペー ジのオーナーに書面で停止命令を送りつけ、ハリー・ポッターシリーズを想起させるようなドメイン名を持っている世界じゅうのティーンエイジャーに警告状を送って、ドメイン名をワーナーに引きわたすよう指示した。映画会社が警官を連れてファンのコンベンションに乗り込み、販売ブースの並んだ会場を何時間も閉鎖するということもあった。ネット上のコミュニティも、へたな投稿をしようものなら、コミュニティごと削除されかねなかった。著作権侵害をめぐる戦いはしばらくしてようやく決着を見た。裁判において「フェアユース」とは何かという判例が確立し、その定義が拡張された。営利目的の使用ではなく、創作によって元の作品を変容させている場合、元の創作者は通常、それを権利侵害として追及することはない、というものだ。権利者はファンによる二次創作を許容しはじめ、徐々にファンと協力、交流し、活動を奨励さえするようになった。ファンダムは、本や映画やテレビドラマが成功しつづけるため――すなわち人気を維持し、視聴率をあげ、口伝えにニュースを広めるために、重要な要素になったのだ。
ハリー・ポッターのファンは10年たってももちろん存在していたが、何千、何万というファンが、熟在するべきつぎの対象を探しもとめていた。一九六〇年代からイギリスでは「ドクター・フー」のシリーズがドラマとしてカルト的な人気を誇っていた。BBCが、16年間の海を経て2003年に新シリーズの放送を始めると、ファンが急増した。二〇〇八年には脚本家のひとりスティーブン・モファットがメインになる。マーク・ゲイティスもこのとき一緒にドラマ「ドクター・フー」の脚本を書いていた。それもあって。「シャーロック」の最初トレーラーを見た「ドクター・フー」のファンは一気にこの新しいドラマに押し寄せ、新たなファンダムを形成した。
なるほど、なるほどだ。
前回記事でも述べた中核部分だが、「物語」というのは本質的に作者のものではない。少なくとも、最初は(法律の範囲で)作者のものであっても、そこにとどめておくことはできない。
それを世界で最初に証明したのが、そもそも「シャーロック・ホームズ」と、それを”作者以上に”愛したシャーロッキアンなのだ。
にしても、日本の出版社やアニメ会社が基本的にいま身につけている。宣伝にもなるという兼ね合いや、クリエイターたち自身もそれが好きだという心境から、なんか明文では言えないが見て見ぬふりをする。逆に聞かれると「聞かれたら答えなきゃいけないだろ!だから聞くな!!」と言い出すようなバランスは、どうやって定着したのだろうな。
その一方で海外で、本当に明文としての「フェアユースの定義」が拡張されたというなら、その道も興味深い。
にしても。
”二次創作欲”とは人類普遍のものであり、ネットは、それを可視化させただけじゃないか…という話は、以前も書きました。
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この話の通りだったかもな、…と読んで、意を強くしました。
そして世界はシャーロックを通じ「BL」を再発見する
さすれば、水が低きに流れるかのように、万物の法則に従って…(法則かよ)
‥‥ファンはシャーロックとジョンを愛しただけでなく二人を自分のものにしていった。ネット上にはそれまで以上に二次創作が溢れ、伝統的なシャーロックホームズのパスティーシュとはかなり趣を異にするスピンオフが数多く書かれた。そうしたストーリーのメインテーマは二人の関係で、 しかも大抵は「スラッシュ」と呼ばれる方がいい一歩踏み込んでいる。「スラッシュ」永遠男同士の同性愛は使った二次創作を指す言葉だ。それがシャーロックとジョンなら「ジョンロック」、シャーロックとモリアーティなら「シャリアーティ」と呼ばれる。「マイストラーデ」というマイクロソフトというレストラーデの組み合わせもある。可能な組み合わせは無限だろう。
「無限」て。
海外、ことに欧米での二次創作もBLも、今回が元祖じゃないこと自体は知ってますよ
以前「スラッシュ」ということばも、それが「スタートレック」でさかんだったことも教えてもらったんだ。
だが、ここで書かれているように、やはりハリーポッターやシャーロックは、そういう活動を世間に知らしめるほどのインパクトがあったのだろう。
日本でいえばキャプテン翼と聖闘士星矢のようにね!!!!(ずばりの比喩でしょ?どやどや?)
そんな話も、ちゃあんと追ってきています。
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…ファンの中には、ベネディクト・カンバーバッチ演じるシャーロック・ホームズと、マーティン・フリーマン演じるワトソンの同性愛シーンが見たいと思っている人が多いそうで、脚本の筋書きや、2人が絡み合っている絵などを描いてBBCに送ってくる視聴者があとを絶たないという。
「オー・マイ・ゴッドという感じで、一瞬にして白髪になるようなものが送られてくる。それは単に、ホームズとワトソンが手を繋いで公園に座っているとか、そういうものではない。それは言っておこう。非常に生々しい性描写もあって、2人がやっていることの半分だって僕は試そうとしたことすらない」と……
movie.walkerplus.com
そしてイラストと、動画編集と……これが、令和の風景。(海外に令和も何もないが)
‥ファンの創作欲は文字以外の手段でも発揮された。世界中の才能ある絵描きたちが、、腕利きの編集やはファンビデオを作る。これはドラマのシーンを細かくつぎはぎして新しいストーリーラインを作るというもので、オークワ YouTube に投稿されているファンの素晴らしい思い付きがシャーロックファンの枠を超えて広く拡散されることもある…
これのはなしな。
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にしても、こういう運動の「最先進国」に、はからずも日本が位置付けられているであろうことは、何の調査の裏付けもないけど(笑)、直感でそう思う。世界のBLを統括する国際機関がもしあったら、本部は東京に置かれ、議長は常に日本から選出、分担金も7割ぐらい日本が占めて拒否権もあるぐらいのレベルかと思う。
本邦の二次創作関係者、BL関係者さまは、ぜひとも新興国を善導してあげてください。
この記事が読まれているので、ついでに…実は小説などの場合、二次創作の大半はOKになるかも?
法律的な議論もおまけに。実のところ、「シャーロック」や「ハリー・ポッター」という【キャラクター】を、自分の創作物に登場させるだけでは、著作権侵害にはならない、というのが実は有力な意見なのです(たぶん、ほぼ事実)。
詳しいことはリンク先をお読みください。
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