いま、感慨ひとしおです。
というのも、これから書く話は、なんと…11年ごしの疑問だったからだ。
まず、回答を書く前に、疑問を一からおさらいしておこう。
まず「ポパイ・ネクタイ裁判」というのがあり、その判決に…
http://park2.wakwak.com/~willway-legal/kls-c.case.006.html
「一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということはできないからである。」
この判決を読んで2008年、こんな疑問を持ったんです
…法律のシロートが、ばっと字面を読んだ限りではですね、
ストーリーまでパクるならアウトだが、「それ自体が思想または感情を創作的に表現したものということはできない」と裁判所が認める”キャラクター”をお借りして、それで独創性あふれるストーリーを作るのは、道義性はともかく法的には問題なし、と感じられるのですが、どうなんでしょう。
つまりオリジナルでは敵味方に分かれて熱いバトルを繰り広げているキャラクターを借り、オリジナル性あふれる恋愛模様(同性同士)を描くような作品とかはOK・・・かな?(笑)
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著作権やキャラクターに関する、あれこれを論じるときに、ついでにこの話を振ることも何度かあった。
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問題ない、と語る方も何人かいらっしゃったが、明確なものとは言い切れなかった。
だが、こういう本が最近(二版が)出た。
……たしかにキャラクターは著作物ではないといわれます。しかし一口にキャラクターといっても、いろいろあります。 言語の著作物である小説に登場する人物が、いかに特徴のあるキャラクターであっても、その人物像そのものが著作物として保護されないことは、その 言語的表現そのものを利用しない限り明らかです。
例えばよく例に引かれますが、 大佛次郎の「鞍馬天狗』は特色あるキャラクターですが、ほかの作者が鞍馬天狗を登場させた小説を書いたからといって、それのみでは大佛次郎の著作物の著作権を侵害したことにはなりません。
これに反しアニメなどに登場するキャラクターは、例えばファンシーキャラクターとして商品化の対象と……
もちろん、いくつかの例外と言うか除外される例もある。
これも事前の予想、推定が当たったんだけど、
・「言語の著作物」である小説などの場合、その言い回しを丸々オリジナル小説から借用してはいけない(口癖とかは、真似しなきゃいけないだろうけどな…どのへんが境界なんだろう)
・アニメや漫画は、造形自体が創作物なのだから、それを真似したらやぱり著作権にひっかかる。だから逆に、本当に美化しまくったり、デザインを変えたりして、元の絵とは別にしつつ、そのキャラだ、と言い張ればいいのか(笑)
・そのキャラクターを「商標登録」したり、誰かがキャラ拝借で書いた二次創作を「著作権法違反」ではなく「不正競争防止法違反」で攻める手法がある。その人形やグッズがビジネスになるような超有名キャラはだいたい、商標登録されている。ちなみに商標は更新し続ければ永遠に保持できる。でも、円谷プロもたとえば「ウルトラマン」は商標登録しているけど「獅子舞超獣シシゴラン」は登録してるかなあ…
と、言えるようです。この本によると、座頭市=カツシンのそっくりさんが昭和40年代に活躍していて、とある無名プロダクションが、このそっくりさんに目を付けて、彼を主役にオリジナルの「座頭市」を作ろうとした、という話が載っている。この時筆者(二瓶氏)は弁護士と相談し、「著作権問題とするのは難しいが不正競業の問題として仮処分の申請をしようとした」とのこと(99P)。
話自身も面白いが、むしろそんな例ですら著作権で問題にするには難しい、という点がこのエピソードでは重要だろう。
さて、とにもかくにも11年越しの疑問に結論が得られた。万感胸に迫る思い。
この本では、ほかにも自分がこのブログで提起した著作権にまつわる疑問に、ストレートな回答が載っていた事例が数件あったので、あとで要約してそちらも紹介したい。
・テレビの映像を批評の為「引用」できる?
・ある番組に出た登場人物の発言を、「ニュース」として他の番組で使える?
・ある歴史番組(例:「NHKスペシャル 映像の世紀」など)で古いフィルムの映像が流れたとき、この映像そのものは著作権フリーで使える?
・書籍の名言を、劇中で朗読したり、「商品名」を創作物の中で描写できる??
などなど。
※ただ、最後に付記しておくが、この本の著者2人(二瓶和紀、宮田ただし)とも弁護士ではない。出版や映画の、そういう部門の担当者、という経歴だ。だから「専門家」であることは間違いないが。
「やれやれユリアン、こうなってくると私たちも、仕事が増えてしまいそうだね。『ヤン・ウェンリー』は商標登録されているのかな…いま、下の検索サイトで調べたら未登録のようだが。しかし、それなら某大手投稿小説サイトはある時期から二次創作を排除したというが、今後『小説に限って、二次創作大歓迎!』なサイトとかもあらためてつくっても、成功するかもしれないね。」
j-platpat「提督、必然性もないのに、最後に僕たちが出る必要があるんでしょうか」
(了)
追記 2013年に、赤松健氏が言及してた
はてなブックマークの「関連記事」は便利なもので、この記事を紹介してくれた。
その時に気づけば、悩まなくて済んだのだけど、まあ考えた時間もなかなかに有益だったので悔いはない。
その上で、これはこれでありがたく資料としてリンクしておこう
重要追記その2
2020年の判決。
知財高裁の判決が掲載されました。同人誌の法的位置づけについては以後これがリーディングケースになると思われます。https://t.co/QK5S59ABkh
— スドー🌰 (@stdaux) October 7, 2020スドー🌰
@stdaux
”漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的
表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない…
スドー🌰
@stdaux
したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。”
スドー🌰
@stdaux”シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである”