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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「映像を作って公開」のコストが、ここまで簡単になった話(今井哲也「ハックス!」)

■「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」漫画化記念のプロモーションビデオを作っちゃいました
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120522/p2

からの続きです。この2つのエントリは連動しているので、こっちを読む前にぜひリンク先もご覧ください。
で、。
上のプロモーション・ビデオ(自称)を含め、自分は
http://www.youtube.com/user/gryphonjapan
で何本かそういうのを作っている。権利とかコンプライアンスとか、そのへんについては言わんとすることはわかってますのでちょっとそこは置いといてください。

これがたしか、youtubeデビュー作だ。やっと2年目。

この前に「Windowsムービーメーカーというアプリケーションが無料で入手できるよ」とこのブログのコメント欄で教えてもらって、作りはじめたんだっけ。
あ、過去のエントリにあった。製作自体は2008年が最初で、自分のサイトにデータをおく形式だ。

自分のブログ記事で振り返る、動画に興味を持つ→投稿できるようになるまで
■「マンガノゲンバ」や投稿動画で見る「漫画紙芝居」の面白さ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20071002#p7
■続・業田良家慈悲と修羅」の話題。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080320/p4
■初めて動画を作ってみたぞこのやろう(ウルトラマン博覧会の様子)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080321/p3
■僕も「煽り映像」をYOUTUBEに投稿できるように。「宇宙を夢見た男たち(栄光なき天才たち)」を映像化
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100602/p4

そこからなーんの技術的進歩もないわけだが、それでも、静止画像が音楽に乗って次々と変わるだけでも、かっけー、youtube△、と感じるには自分的には十分であるな。
しかし、それに話はとどまらない。技術は進歩に進歩を重ねてしまった・・・わけではなく、ある意味「枯れた知識の水平思考」でそうなるわけだが・・・ということで

ハックス!(1) (アフタヌーンKC)

ハックス!(1) (アフタヌーンKC)

という本を紹介します。
amazonより。

阿佐実みよし、高校に入学したばかりです。新入生歓迎イベントで、すっごいアニメを観てしまいました。なんかこう、子どもの頃みたくワクワクしちゃうような。なんでもそれは、この高校の先輩達が作ったそうなんですよ!……えっ? アニメって自分達で作れちゃうんですか?だったら、みんなで作ったらきっとすっごく楽しいですよ!こうしておる場合ではないですよ私達!!

実は自分、「ハックス!」って題名なんだから、当然ネットを利用した犯罪・テロリズムに興じる「恐るべき子どもたち」と権力の攻防戦を描いた話だろう・・・、と思って、内容を確認せずに買ってしまいました。この種の誤解は久々で、熾烈な二国間の冷戦・諜報戦を描いていると誤解して紫堂恭子の「辺境警備」を購入したとき以来(笑)。
いやー、タイトルで釣っちゃいけませんね(俺が言うか?)。
 
そして、予想とは全然違うテーマだが、実に面白かった(まだ1巻だけですが)のも「辺境警備」と一緒でした。


少し前「部活をテーマとした漫画で、文系の部活を描く作品が増えている。なら、甲子園や花園出場!という目標のかわりに、技術の向上や『素晴らしい作品を作るために頑張ろう!』がテーマになるのかと思いきやそうはなってない。悪く言えばだらだら、よく言えばまったりとした、そんな日常〜を描く作品が増えている
という、実に一見さんには受け入れやすい、世間一般に通るような解説記事がどこか?にのってそれなりに話題を呼んだ。 これ、いい悪いの価値判断はおいといて、流れとしてはそうでしょう。「究極超人あ〜る」が或る意味元祖なんだから、先祖がえりといえば言えるんだけど。


あ、関連検索でこんなのあった。
あのベテランにして、こういう気風にかなり親和的とおぼしき超一流漫画家ですら、さいしょにアジャストするのは難しかったみたいだ。その後軌道修正をしたら対応できちゃうのがすごいが。一流選手にはリングもオクタゴンも関係ないぜ!的な。

椎名高志先生、"けいおん!"を理解する
http://togetter.com/li/18557
「いや、だから必死についていこうとしてるの。でもどうしてもあの子たちががんばらないのが納得できない。そんな作品じゃないことはわかってるのに、くやしい・・・」(※覚醒前の感想です)

自分は「けいおん!」知らないので、上の批評が当たっているのかは1人称では断定できませんが、なんとなくそういう評判は聞く。これも世の流れ。


ところが、1巻を読んだ限りではこの今井哲也ハックス!」は、さらに一回転して「とにかく一から、自分たちの好きな分野で、すごいものを作りたい!!」というところをメインテーマにして、文科系部活動を描こうというのです。
実に生産的で

「文系は作者の気持ちでも考えてろよw」
「理系は質量を無視した滑車で遊んでろよw」

とか言い合っているより健全ですな。・・・あ、文系と文化系は違うな。


とか書いてるうちに、肝心のことを伝え忘れて脱線していた。このハックス!の登場人物たちは、「アニメ作り」を目指しているのですよ。もう少し具体的にいうと、はじめはそれこそ、その部はまったりだらだらな部活なのですが、まったく空気を読まず、ついでにアニメの凄さに触れたばかりでむやみやたらと前向きな主人公と、IT技術に詳しいエキスパートの新一年生2人が入部し、またフィルム時代に先輩が作った「伝説のアマチュア・アニメ」を発見したことで、そういう実作指向が芽生えてきた部活・・・というのが1巻の段階であります。

ただ、このエントリで紹介したいのはその最終目標である「すっごいアニメ」ではなく、最初に彼らが『作った』アニメ。
主人公の、むやみやたら子さんこと「阿佐美みよし」さんは、ノートにパラパラ漫画を描く能力という地味な才能を発揮するのだが、もう一人のITエキスパート「美少年」くんはそれを見てこういう。

「このパラパラ漫画を1枚ずつデジカメで撮影して」
「それを画像ビューアで0.1秒間隔で連続表示すれば」
「ほらアニメだ」

と。その後、『AVImovie』というのにする描写があるけど、これはムービーメーカーの操作とたぶん通じるものがあるんだろう。

ああ・・・そういえばそうだった気がする。最初にデジカメを買って、プレビューのフリーソフト(当時はWindowsに備え付けのプレビュー機能は無かった気がする)で見ているときに「これでコマ送りすれば、ものが動いているように見えるなぁ」と一瞬思ったはずだ!デジカメ購入の時期から逆算すると1999年〜2001年くらいの間か。
うーん、基本はパラパラ漫画や、プラモを少しずつ動かす人形アニメか・・・。
というのは昔、「ひらけポンキッキ!」かな、カリキュラマシーンだったかな。へんな粘土の不定形のばけもの(子どもにはそう見えた)が動いて、ときどき戦ったりしていた。子供心に、異様に怖かった。片方がたこっぽかったから、「人類の脅威・たこ」というのをそこで刷り込まれたのかもしれない。

さらにいえば、むかし読んだ学研まんが後期のものに・・「トリック撮影のひみつ」みたいなものがあって、「紙コップをすこしずづ輪切りにして、その光景を1枚ずつフィルムに納めたら・・・ほーら紙コップが地面に沈んでいくように見える」というのがあってね。

だから『コマ送り撮影による動画』という概念自体は知っていた。
しかしそこから
「自分が書いたパラパラ漫画を1枚ずつ撮ったり、プラモを少しずつ動かしながら撮影したデジカメ画像で、動く映像が作れますよ」ということをこの作品のようにストーリー仕立てで提示されると、自分が学研漫画を読んだ時代「まず8ミリカメラが必要です」といわれてその時点で挫折するような、そんなハードルとは明らかに違うわけで・・・
 
というか本気で、これは小学校で子どもたちに教えて作らせることができる水準の、簡単な課題レベルになってませんか?つうか子どものほうがプラモ動かしやパラパラ漫画のプロだ(笑)。
うむ、今はパソコン教育もずいぶん普及したし「自分でアニメを作ってみよう!」としてパラパラ漫画を描かせたり、プラモを持ってこさせるっていいかもしれない。
こんなのも、子どもは喜んで作りそう。




思い起こせばほぼ30年前・・・って俺は知らないけどさ(笑)、いま連載中の島本和彦アオイホノオ」でも、一応映像系の学校に通っている人ですら、アニメーションを作るためのハードルはえらく高かった。「七人の侍」よろしく、動きのある絵をサラサラと描ける異能の大天才(庵野秀明)、桁外れの豪邸にすむスポンサー的な大金持ち(岡田斗司夫)、それらをコーディネートできるプロデューサー感覚を持つ男(名前忘れた…誰だっけ??有名な人らしい)・・・いずれも後世、名を残したつわもの達がチームを組んで、やっと一本のSF大会OP用の短編アニメが完成できる・・・・という(ふうにこれからなっていく)話だった。

ハックス!での「アニメ作成」のお手軽さ・簡単さは、やはり30年前とは比べ物にならない。
2巻以降はそれでも才能の開花やチームワーク、異能同士の衝突や挫折なども描かれるのかもしれない。そういう部分は、けっきょく今も昔も変わらないからだ。


だが、OPアニメを作るときにまず天才・異能たちを集めるところから始まる、80年代の「アオイホノオ」と、「まずこのデジカメでノートをとって・・・とりあえず作品一本、世界中に公開してみる?」というテン年代の「ハックス!」と。

アオイホノオ (8) (少年サンデーコミックススペシャル)

アオイホノオ (8) (少年サンデーコミックススペシャル)

時代をうまく生かして、どちらも面白いストーリーになっていくことを期待したい(※ハックス!が今連載続いているのかどうかも調べてません。本日当たり続刊を買おうかなあ、てな感じで)。

ああ、ちょっとだけ作品の話を続けると、主人公をさっき「むやみやたら子さん」と表現したぐらいで、とにかくすごいものを見たら「すごい!」と感動して「自分も作りたい!」と直線的に突き進んで・・・ついでにひたむきすぎて人の話を聞かないし、まったく会話がかみ合わない(笑)。この前のエントリの時に知っていたら「個性かそれとも・・・」な記事( http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120429/p3 )の例にあげていたよ(笑)。
でも、それが珍しく「熱血文化系部活動漫画」を成り立たせているのだから結果オーライなのでしょう。そういえば「げんしけん」第一期も、なんだかんだといってみんなで力を合わせ、苦難を乗り越えて同人誌を一冊作る、というのがクライマックスでしたね。

げんしけん(5) (アフタヌーンKC)

げんしけん(5) (アフタヌーンKC)

話は自分のyoutubeに戻る

上に書かれたような、動画(私のようなスライド+音楽も含む)の製作と、それを一般(どこころか全世界)に公開するような大それた行為。それが、何のスキルも無くてもボタン一つで可能であり、あとはどれだけツラの皮が厚いか、だけである・・・
…という状況、いいか悪いかで言えば、間違いなく「いい」ことだと思う・・・自分のはさておき、多数の才能がこれによって容易に進化し、また発掘されるようになった。
「野に遺賢なくんば、万邦あまねくやすし」は真実で、才能がある人は公の場に出たほうがいいのだ。

なんだかんだといって、以前は漫画の単行本発売は音や映像では紹介できなかったが、いまは出版社がちょっとやる気を見せれば

という公式の漫画単行本プロモーション・ビデオだって作れるのだから。


でも・・・、やっぱり一方で「俺程度のスキルやセンスでも、動画やスライドでPV作れて公開できちゃうって・・・」というね、核の力を手にした人類がそれにおののくような戦慄を、ちょっと感じていたりもするのです。
ま、そんな作る側の感想も念頭に置きながら、よろしかったら

を再度ごらんください。