コロナの影響で、ドラマやアニメ制作などは非常にスケジュールが狂ってきたものもあるそうですが、 シャーロックホームズを原案とした二次創作アニメ「憂国のモリアーティ」は順調に10月からの公開開始を予定しているそうです
19世紀末。産業革命が進む中、着実に勢力を拡大し栄華を極めたイギリス。
しかし技術の進歩と発展とは裏腹に、古くから根付く階級制度によって、
人口の3%にも満たない貴族たちが国を支配していた。
当たり前のように特権を享受する貴族。明日の暮らしもままならないアンダークラス。
人々は生まれながらに決められた階級に縛られて生きている。ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは、そんな腐敗した階級制度を打ち砕き、
理想の国を作り上げるために動き出す。
シャーロック・ホームズすら翻弄した“犯罪卿”モリアーティ。
犯罪による革命が、世界を変える――
https://moriarty-anime.com/
この作品については私いろいろ思うところもあり,
手放しで喜ぶわけではないのだけど,それでもそもそもホームズのパスティッシュが日本でアニメとして作られるというのはおそらく初めてのこと(ホームズを犬にするとかそういうのはちょっと別物)なので、 やはり応援したい気持ちがある。
そもそも自分が何度もブログに書くほどホームズもののパスティッシュや二次創作に興味があるのは「物語が広がってゆく」「それが現実の社会や歴史、あるいは別の物語世界とつながってゆく」ということに対して無限の興味と、楽しみがあるからです。
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だからこうやって色々書いてきたんだけど、そろそろ極めつけに一つの大傑作を紹介したい。
どうも「隠れた」大傑作と書かなきゃいけないところが残念だが……
「漱石事件簿」。
ホームズホームズと書いてきたがこの作品に出てくる人物はコナン・ドイルであり(彼が幻視する対象としてホームズが出てくるが…) そして同時代の南方熊楠、夏目漱石、森鴎外、そして少し下の世代のまだ何者でもない江戸川乱歩、芥川龍之介、石川啄木・・・・・・などなども登場してきます。
「事件簿」とありますが本格的なトリック・謎解きとは少し違う…正確には合計4話の物語があるなかで1、2話(これは前後編)はやや本格的な謎解き、第3話はほとんど謎解き要素はないなど濃淡がある。
というよりは、この物語の愉しみは、同時代の歴史上の人物が、一つの舞台の中で多数登場し、それぞれのキャラクターを生かした言動をすること自体にあるんです。あー、 自分のホームズパスティーシュ好きの核心部分が、描きながら判明してきたぞ(笑)。
うん、そうなんだ、同時代の歴史上の人物でも、同時代と目される架空世界の人物でもいいんだが、それが何かの舞台や何かの事件で多数集まり、それぞれの個性に合った見せ場が登場するなら基本的にはそれで十分なんだな。
ストーリー自体が波乱万丈の大アクションだったり精緻な謎解きがあればそれはさらにすごいけど、それは一種のボーナスポイントである。
その点においてこの作品はボーナスポイントもそれなりにあるし、いま認定した”本道”の部分「…歴史上の人物がひとつの舞台に多数集まり、それぞれの個性に合わせた言動をする」という点では100点満点中200点か250点を叩き出しているんだ。
・第1、2話なんか、こんな展開。
ヴィクトリア朝最盛期のイギリスに単身留学してきた南方熊楠。たちまちその学識を発揮し 大英博物館の仕事を得て孫文と親交を深めたりもする…だが、ある時同博物館で「ピルトダウン原人」の頭骨を見せてもらう 。
一瞥した南方は、何か期するものがあったのか現地調査を開始するが、その前に現れ、彼を自宅の「心霊降術会」家の食事会に招いたのは著名な小説家コナン・ドイルだった。
そこで心霊術のインチキを見破った南方は、ピルトダウン原人の一件の調査もさらに進めるが、 経済的な理由で帰国を余儀なくされる。
彼は、その調査結果を文書にまとめ、元芸人の日本人に「物事にとらわれず自在に考えられる人にこれを渡してくれ。そういう人間なら犯人もわかるはずだ」と託す。託された男がついに預けるに足る、と渡したのは、日本から英文学研究のためにやってきた神経質な小男、のちの夏目漱石だった…
いかがですか。これだけで面白くないですか。
第3話では、男性と女性の死体が上がり、二人とも、酒乱で実際に殺人経験もあるとされている黒田清隆公の関係者だと分かる。政治的に微妙な問題もはらむその調査を、陸軍内部で命じられたのは森鴎外。命じたのは山縣有朋…。
若き日の江戸川乱歩や芥川龍之介が絡んで…‥‥
最終第4話は「明治の最後の年、1911年1月24日」に東京小日向の養源寺で文人たちが集まる大規模な「百物語」が行われるという設定のオールスター戦。
その中で「そういえばこれも”怪談”じゃないかね」という形で語られるのが、そこに出席している森鴎外を名指しした「日露戦争で脚気が蔓延したのは、麦飯を食えば治ると言う報告を森さんあなたが無視したからじゃないか?」といった話や
「その前年に起きた、幸徳秋水の”大逆事件”…今この日に死刑執行が行われているこの事件、その正体は権力という”魔物”では」 といった話だ。
なおこの本は1989年12月に発売されたが、その年1月が昭和天皇の崩御により昭和が終わり平成が始まった「平成元年」。前年1988年は病気が続く昭和天皇の容態に従って各種のイベントなどが「自粛」しており、 論壇ではそれをめぐる議論も活発だった。その風景を重ね合わせているフシも見受けられる。
ただ何とも残念ながら、そもそもこの作品、多分皆さんの多くも「あー知ってるよ、有名な作品だもんね」とはならないのではないか…。この作品は書き下ろし企画だったらしい(あとがきにそう書いてある)のだが、書き下ろし漫画単行本という形式もそもそも日本ではあまり馴染みなく今でも定着が難しい。 歴史ものだから時代の変化はそれなりに受けない強みはあっても実際のところ入手しづらいだろう。何とかして皆さんも読んでくださればいいのだが・・・・・・・
と、思ったら検索すると、嬉しい大大誤算があった!!!
なんと何度か紹介したことのある漫画サイト「スキマ」でいま、全話無料公開されてるんだ!!!!
https://www.sukima.me/book/title/BT0000555159/
何時までかわからないが、これほどラッキーなことはない。
是非に是非に少なくとも当ブログの読者は1話だけでも読み始めていただければ幸いです。
伏してお願い申し上げます。
おまけ 森鴎外は大逆事件を描く「3つの短編」を書いていた?
同作品の最終話は大逆事件をテーマにしているが、こういうコマがある。
へえと思ったので、リンクを張っておく。本当に大逆事件を描いているかは、各自評価のほどを。
かのやうに
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沈黙の塔
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