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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

再び…物議の橋下徹発言と反戦歌「教訓1」、そして「トリューニヒト演説」(銀英伝)を対比させると解りやすい

こう言う話って、なんとしても実際の戦火の下にいる人からしてみれば空理空論的なものになってしまい、その点で語るのに躊躇してしまいがちだが、法哲学倫理学的な議論は、いずれにせよその種の批判は免れない。覚悟して、少しだけ語ろう。


話は、以下の、再びの橋下徹発言について。

橋下氏は「祖国防衛のために命を落とすということが一択になるのは、僕は違うと思うんですね。ウクライナの方々が一生懸命戦っていることには本当に敬意を表しますけども、本当にそれだけなのかと」と指摘。

さらに「ロシアが瓦解するまで、ちょっと国外へ退避してもいいじゃないですか。祖国防衛、そこで命を落とすっていう、それしかない状況に皆なってしまうと、国外退避することが恥ずかしいことだ、やっちゃいけないことなんだ、売国奴だという批判をおそれてしまうような空気は、僕はおかしいと思う」と述べた。

さらに「ぜひ若者にはどんどん声をかけて、日本に来させてもらいたいんですよ。国外退避も選択肢の1つとしてあるんですよ」
blog.livedoor.jp

及び、それについたブクマコメント。
[B! 戦争] 橋下徹「祖国のために命落とすのは違う。ウクライナ人はプーチンが死ぬまで国外退避して20年後にもう一回ウクライナを建て直そう」 : 痛いニュース(ノ∀`)

自分もそこにコメントを付けた。この記事は基本、その拡大版にすぎない。

まず…

【1】橋下徹氏の議論って、まんま「反戦歌」である『教訓1』じゃん、と。

コロナ禍で女優の杏氏が、カバーを歌っても話題になったから、70年代フォークが元とはいえ知ってる人も多いでしょう


www.youtube.com

www.youtube.com

命はひとつ人生は一回
だから命を捨てないようにネ
あわてるとついフラフラと
お国のためなどと言われるとネ
お国はおれたち死んだとて
ずっと後まで残りますヨネ
失礼しましたで終わるだけ
命のスペアはありませんよ
青くなってしりごみなさい
逃げなさい隠れなさい

この歌に共感して、歌詞をまるごとツイートに転載した国会議員もいる(というか上の歌詞は、そこからの孫引きである)…小池晃議員(日本共産党)。



今回のこの記事の姉妹編、ほぼコンセプトを同じくする数日前の記事で、こう書いた。

もともと橋下・維新を「新自由主義」とくくっていいかといえばそれもズレるとは思うけど、たしかに重なる面もある「新自由主義」とは近代を肯定するものであり、橋下徹個人、そして維新も、かなり”進歩的”/”左派的”と言っていい主張が、部分的に発現するキメラであります。
反原発論や、自治体の中でも非常に早く『ヘイトスピーチ規制』の条例を制定したりしておりますな。
そのへんとも通じる何かなのかもしれない。
m-dojo.hatenadiary.com


「教訓1」を、どんな層がこれまで好んで歌ってきたかを考えれば、「橋下徹氏と維新はかなり”進歩的”/”左派的”と言っていい主張が、部分的に発現するキメラ」というのが、わかってもらえたかな。


「教訓1」は、突き詰めるとその矛盾も含め興味深いので、その「杏」さんカバーの折にも語っている。
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【2】一方で、銀英伝1巻の「トリューニヒト演説」は、たとえば…「今回の橋下発言を批判するはてブコメント」に、より近い(よね?)

「はたち過ぎて銀英伝をたとえに出すのってどうよ」という名言は重々承知だが、だってはてブのほうから寄せてきたじゃんねえ(笑)


全文いくぞー!!

「お集まりの市民諸君、兵士諸君!今日、吾々がこの場に馳せ参じた目的はなにか。アスターテ星域において散華した150万の英霊を慰めるためである。彼らは貴い生命を祖国の自由と平和を守らんがために捧げたのだ」

「貴い生命と、いま私は言った。まことに生命は貴ぶべきである。しかし、諸君、彼らが散華したのは、個人の生命よりさらに貴重なものが存在するということを、あとに残された吾々に教えるためなのだ。それは何か。すなわち祖国と自由である!彼らの死は美しい。小我を殺して大義に殉じたからこそだ。彼らは良き夫であった。良き父親であり、良き息子であり、良き恋人であった。彼らには充実した幸福な長い生涯を送る権利があった。しかし彼らはその権利を棄てて戦場におもむき、そして死んだのだ!市民諸君、私はあえて問う。150万の将兵はなぜ死んだのか?」


「そう、その解答を私はすでに述べた。彼らは祖国と自由をまもるために生命をなげうったのだ!これほど崇高と称するに値する死があるだろうか?自分のためにのみ生きること、自分のためにのみ死ぬことがいかに卑小であるかを、これほど雄弁に吾々に教えるものがあるだろうか。祖国あってこその個人であることを、諸君は想起しなければならない。それこそが生命にもまさって重要なものなのだ。銘記せよ、この事実を!そして私は一段と声を大にして言いたい。祖国と自由こそ、生命を代償としてまもるに値するものだと。吾々の戦いは正義なのだと!帝国との講和を主張する、一部の自称平和主義者たちよ。専制全体主義との共存が可能だと考える、一部の自称理想主義者たちよ。迷妄からさめよ!諸君の行為は動機はどうであれ、結果としては同盟の力をそぎ、帝国を利することになるのだ。帝国においては反戦平和の主張など認められない。自由の国であるわが同盟だからこそ、国策への反対が許されるのだ。諸君はそれに甘えている!平和を口で唱えるほどやさしいものはない」


「私はあえて言おう。銀河帝国専制全体主義を打倒すべきこの聖戦に反対する者は、すべて国を損なう者である。誇り高き同盟の国民たる資格をもたぬ者である!自由な社会と、それを保障する国家体制をまもるため、死を恐れず戦う者だけが、真の同盟国民なのだ。その覚悟なき卑劣漢は英霊に恥じよ!この国は吾々の祖先によって建てられた。吾々は歴史を知っている。吾々の祖先が流血をもって自由をあがなったことを知っている。この偉大な歴史をもつ吾々の祖国!自由なるわが祖国!守るに値する唯一のものを守るために、吾々は立って戦おうではないか。戦わん、いざ、祖国のために。同盟万歳! 共和国万歳!  帝国を倒せ!」


いわゆるOVA版…「石黒版」での、トリューニヒトを演じた声優はシェイクスピア役者でもあり、朗々たる演説はまさにその経歴を生かした見事なものである…とも聞く。

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もう一回リンクを張るので、少なくとも橋下徹氏の主張と、ハテブでの橋下批判のいくつかと、どちらがよりトリューニヒト的か、どちらが反トリューニヒト的か比べてみるといい
https://b.hatena.ne.jp/entry/blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/2014580.html



【3】というか、トリューニヒトのあの演説は「内容・思想的に間違っている」のか?「正しい内容だが、言行一致してないから駄目」なのか?

原作で、この人物がどう振る舞ったかはみんな知ってる前提で省略するが(笑)、要は上の演説の主張を自ら裏切るような、言行不一致ぶりだったんですな。
それなら批判され、嫌われるのは作品世界的には当然。しかし…

むかし、山本七平氏が、戦前に国会議員でありながら、徹底して天下国家ではなくひたすら地元への利益誘導(インフラ整備)のみに努力した政治家の事績を研究、その人が私財を投げうって奔走したことを指し「いわば彼は『清潔な田中角栄である。それをどう評価すべきだろうか」と書いたことがある。
それと同様に、思想的な意味でこの演説を検討するなら二次創作的に「自分の行動も、演説通りだった『言行一致のトリューニヒト』」を想像すると、問題はクリアかつ、超難問になる……
たしかに、トリューニヒトが、もし言行を一致させるタイプのタカ派政治家であり、最後はハイネセン像の真下で銃をとって帝国軍との銃撃戦の末に散ったら、かの演説はどう評価されただろうか。
今回も日本人70人がウクライナ軍への義勇兵に志願したそうだが、
彼らが帰国後、政界に打って出たら?
togetter.com

ああ、書いていると架空の人物を例にしているから書けることもあるな。実際に今現在、「命の危険と指導者と兵士」の話ではもっと具体性のある固有名もあるだろうけど、そちらの名前は敢えて出さない。


【4】「命を懸ける対象」によって変わってくるのだ、という議論もあるだろうな。

そもそも、銀英伝ではヤン・ウェンリーという主人公が、トリューニヒトのような演説を唾棄しながら…これはトリ氏の人格や言動不一致のみならず、命を懸ける対象が「祖国」「国家」だったから、彼は好まなかった、と表明している。だが彼も、結局テロに遭遇して命を失うまで戦い続けた。ただ、彼は「独裁政治では持ち得ない美徳を持つ民主共和政治」に忠誠を持ち、その政治システムを滅ぼさないために命を懸けたし、ここが肝心だが、兵たちに命がけの戦いを命ずる立場にもなった。


これまた、橋下徹の立場に近いか、遠いか。

追記 あーだけど、橋下徹も「俺は命がけだったぞランキング」では普通の人以上になるんだった…

times.abema.tv


橋下徹氏(以下、橋下):襲われるのに備えて、早歩きでないとだめですからね(笑)。

僕の場合、"殺す"という手紙も届いたし、殺人予告はしょっちゅう。1通目はみんな大騒ぎになったけれど、そういう手紙があまりにも多いから、みんなも"こんくらいだったら大丈夫かなあ"って慣れていった(笑)。

好き好んで知事になった僕自身が狙われるのはいいけど、関係ない子どもが対象になったときはやっぱり辛かった。昔の人はそういう中で政治をやっていたとも思うが、僕はやっぱり現代社会の政治家だし、子どもの命まで犠牲にしてまで…と思った。子どもが殺されたら取り返しがつかないし、政治家を続けようかどうか真剣に考えたこともある。

そして僕個人を守るというよりは知事というポジションを守るのがSPの仕事。リスクを負っている国民のみなさんは他にもたくさんいるし、知事の子どもが殺害予告を受けたからといって、そこに護衛を付けるわけにはいかない。それでも僕の周辺を監視する中で通学路を見ることもやってくれていた。本当に府警はよくやってくれたと思う。


(略)

橋下:秘書がSPさんたちも交えて飲んでいた時に、雑談の中で"本当に命をなげうつんですか?"って聞いたら、みんな真剣に"自分の命は二の次です"と言っていたらしい。俺、命を捨てられるような男かなと思った。

僕が補助金を切ったことでものすごい反発があった地域に選挙運動で行ったら、襲いかかられた。"やられた!"と思った瞬間、SPさんが壁を作ってくれた。相手が凶器を持っているのかどうかもわかんない段階で壁になってくれた。本当に刺される覚悟でやってくれているんだと思った。申し訳ないというか、なんとも言えない気持ちになった。それぞれに家族も居るわけじゃないですか。だけど、そんな府警の給料削ったのが僕だからね。

(AbemaTV/『NewsBAR橋下』より)