まず、トマトスープさんの「ダンピアのおいしい冒険」がこのマンガがすごい!2021にランクインしたことに改めてお祝い申し上げたい。
【お知らせ】
— ダンピアのおいしい冒険 告知 (@oishiibouken) 2020年12月10日
宝島社「このマンガがすごい!2021」オトコ編にて、「ダンピアのおいしい冒険」が6位にランクインいたしました。
ありがとうございます!🌵🐢🌵🐢 pic.twitter.com/epT3MVSYrB
【祝】宝島社「このマンガがすごい!2021」オトコ編、第6位ランクイン!!トマトスープ先生おめでとうございます!#電子書籍 も好評配信中◎
— イースト・プレスの電子書籍 (@eastpress_ebook) 2020年12月10日
『ダンピアのおいしい冒険 1』著者:トマトスープhttps://t.co/rd670kF8Ekhttps://t.co/lXKAqu0JiG
自分は過去にいくつか応援記事を書いていて、そこにさらに付け加えることはあまりない
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だけど、ただ一言申すなら、ビッグコミックスピリッツに、最近は中世欧州の天動説・地動説を題材にしているような「チ。」の連載も始まり、大変注目されている。
そういう点で前も書いたように「天地明察(のコミカライズ)」や「風雲児たち 蘭学革命編」などと合わせた「知を追うものを主人公に据えた歴史漫画」という大きな固まりで同作品を捉えると面白いと思う。
動かせ 歴史を 心を 運命を ――星を。舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想がガンガン火あぶりに処せられていた時代。主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。合理性を最も重んじるラファウにとってもそれは当然の選択であり、合理性に従っている限り世界は“チョロい”はずだった。しかし、ある日ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは、異端思想ド真ン中の「ある真理」だった――
命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか? アツい人間を描かせたら敵ナシの『ひゃくえむ。』魚豊が描く、歴史上最もアツい人々の物語!! ページを捲るたび血が沸き立つのを感じるはず。面白い漫画を読む喜びに打ち震えろ!!

- 作者:みなもと太郎
- 発売日: 2017/12/11
- メディア: コミック
さてもう一つ。ダンピアの魅力はその「知の追求者」…、当時最先端の博物学者であり冒険ルポライターであったインテリの彼が、野蛮の象徴たる「海賊」でもあることだ。海賊には ONE PIECE やら ディズニーシーで、ふわっとしたイメージが強固だが、真面目に考察すれば暴力・軍事力・法と正義・国家・支配……と言った物を考える非常に便利な鍵となる。
それは今現在の、それらの典型と一部で重なり、一部で別物だからだろう。
そんな海賊の真面目な研究書もたくさん出ているんだけれども、 自分が最近読んだ一般向けのわかりやすい入門書が桃井治郎「海賊の世界史」でした。
古代ギリシアのヘロドトスは英雄と言い、ローマのキケロは「人類の敵」とののしった。ヴァイキングは西欧を蹂躙し、スペインとオスマン帝国が激突したレパントの海戦は海賊が主役だった。イギリスが世界帝国を築く過程ではカリブ海を跋扈するバッカニア海賊が裏面から支えた。19世紀にアメリカの覇権主義で消えた海賊だが、現代にソマリア海賊として甦る。キリスト教とイスラームの対立、力と正義の相克など、多様な視座で読み解く、もう一つの世界史。海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)
- 作者:桃井 治郎
- 発売日: 2017/07/19
- メディア: 新書
どうも自分は、やはり「海賊」が実感として分かりづらい面がある
領域を支配せずに、権力が成り立つのか?
そもそも船の1艘2艘、数十艘ぐらいが、本当に国家の軍隊に匹敵するような脅威たり得るのか?
が実感でつかめないのですよ。このへん、前にも書いたかな。ヴィンランドサガはその実感を補う力があったけど、この本も、そういうスキマを埋めるものでした。
以下、少し要約…
・海賊の歴史はトゥキュディデス、ヘロドトスの時代から記述されている。
・古代ギリシャのサモス島支配者ポリュクラテスが始祖かもしれない。
・キケロ、アウグスティヌスらが語った「アレクサンドロス大王と海賊」という逸話があるそうだ。
『大王が海賊に「海を荒らすのはどういうつもりか」と問うた時、海賊は少しも悪びれずに「陛下が全世界を荒すのと同じです。ただ私は小さい船でするので盗賊と呼ばれ、陛下は大艦隊でなさるので皇帝と呼ばれるだけです」』
・時代は下ってカルタゴとローマが地中海でガレー船を操り覇権を競う。航海技術で一日の長があるカルタゴに対し、ローマが敵船に食い込んで、乗り込むための渡し橋となる「コルウス」を開発、船同士の戦争を、白兵戦のような形で戦うことで対抗した。
コルウス:古代ローマ艦隊が使用した跳ね上げ式で旋回可能な桟橋。普段は船首に立ててあり、敵船に落とすと先端の鉤が食い込み橋となり、兵を乗り込ませる事ができる。海の上で陸戦を行う発想で、カルタゴの強力な艦隊に大勝利。考案者はアルキメデスとも言われる。pic.twitter.com/gmbWJ1ze89
— 世界の武器防具百科!! (@emonok1) 2020年11月12日
コルウス 海戦のノウハウがなかったローマ海軍が海上での戦いに陸戦での理屈を持ち込むための道具。敵の船に乗り込んで接近戦すればもう陸戦だぞ!なおコレ搭載すると船のバランスは悪くなって転覆しやすくなるけど、まあ勝てなきゃしようがないね。 pic.twitter.com/tPx0bC3S7J
— 偏見で語る兵器bot (@heikihenken) 2021年3月30日
最終的にはローマがカルタゴを滅ぼすがまさにその後の地中海で、ローマに最後に立ちはだかるのが、東地中海に拠点を置く有象無象の海賊たち。
最後にこの海賊たちを屈服させ、海にもローマの平和を打ち立てるのが、カエサルと対立するポンペイウスである。
・キケロやアウグスティヌスは、この地中海における海賊の隆盛と、ローマ国家によるその鎮圧を観察し、「国家と海賊はどのように違うのか」を論じている。これが一種の政治学や国際法学の先駆けである。

- 作者:キケロー
- 発売日: 1961/07/25
- メディア: 文庫

- 作者:アウグス ティヌス
- メディア: 単行本
・ローマによって一時期一掃された海賊が、そのローマの衰退によって再び動き始める。一つがヴァンダル王国を作ったヴァンダル族のガイセリック王。
本拠地のカルタゴを出航する時「どこに向かいますか」と問われて「神の怒りのある所へ」と堪えたという(自分達の襲撃は神の怒りだ、というわけだ)
彼らの略奪はすさまじく、まさにアウグスティヌスはこのヴァンダル族に街を包囲されている中で生涯を閉じたという。
そして455年、ヴァンダル族は西ローマ帝国、首都ローマに進撃し、14日間徹底的に略奪する。未だに文化や芸術を破壊することは「ヴァンダリズム」と呼ばれるのである。
#いやなトリビア
— アプロ (@rUyaCVtIiRxgC9M) 2020年2月23日
民族大移動で地中海を半周しカルタゴに落ち着いたヴァンダル族(青いルート)の覇王ガイゼリックは、「永遠の都」ローマに攻め込む前にローマ教皇と東ローマ皇帝に硬軟織り混ぜた事前交渉を行い、
・ローマ市は無血開城する
・ローマ市街を破壊しない
・ローマ市民を傷つけない
と(続く pic.twitter.com/ZHqWJTmkqV
取り決めた。
— アプロ (@rUyaCVtIiRxgC9M) 2020年2月23日
不安げな市民の前に現れたヴァンダル族の大艦隊は取り決めた通り礼儀正しく徹底的に略奪を行い、最後にローマの皇族・貴族を人質として連れ去った。
ガイゼリック的には
「市民を傷つけていないからセーフ」
だったようだ。
なお、連れ去らるた皇女の一人は彼の息子と結婚させられた。 pic.twitter.com/8ulcL0UWA0
そして時代は下りアラビア半島を席巻したムハンマドのイスラム帝国は拡大を続け、東ローマ帝国と対峙することになる。当然その舞台は地中海であり、キプロス島やクレタ島などの激しい争奪戦が行われた。

ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
- 作者:七生, 塩野
- 発売日: 2014/07/28
- メディア: 文庫
「トリポリのレオ」と呼ばれたイスラム海賊の親玉はいまでもその有名を残す。またそれ以上に例えば2、30人程度の小規模の海賊が小さな村を略奪するようなことが無数にあった。
そんなイスラム海賊が地中海を席巻する時、 北方の海の支配者だったのがご存知バイキング。
彼らも11世紀には傭兵の仕事を通じて地中海にまで進出、シチリアを配下に収めた。
要はこのノルマン人の地中海進出がイスラム勢力により地中海支配に大きな転機をもたらしたのである。
そこからキリスト教諸国のレコンキスタ、十字軍などによって相当にイスラム海賊勢力は押し戻され、その後トルコ対スペインと言う巨大な勢力の対決となる。バルバロッサ兄弟はこの時代の大海賊だ。
・そしてダンピアの時代につながる、新大陸の海賊の時代が始まった。
この時、船も大型の「ガレオン船」に変わっていく。
そして、単純な略奪強盗ではなく、『敵対国の船なら、戦争行為の一環だから OK。 ウチのところの船は絶対にやるなよ!』という「私掠許可」といった複雑な枠組みも生まれてくる。
誰が思いついたか知らないがこの「私掠許可」ってのは確かにうまいアイデアだ。
泥棒強盗は必ずどこかに現れる。そいつらに対して「我々を襲うのは許さんが、あの敵の連中に対してなら盗んでも奪ってもいいぞ」と許可を出して一種の戦力にするなんてのは、まあかなりえげつない手法だと思います。
こういうことがあるから、国家と暴力を考える材料として海賊は有益なのだろうな。
大航海時代Ⅱプレイ録06。
— たむを(もがみくま吉) (@o_tamu0439) 2020年5月17日
初の海戦デビュー。
尚、現在イギリス王国はイスパニアと事を構えている為、獲物も自然イスパニア商船隊となる。
オットー士爵は正式な私掠許可証を持つ(下級)貴族であり、誰彼構わず噛みつく狂犬では無いのである(*`Д´)
さらばステファン・ペロン、君の名は心に刻もう。 pic.twitter.com/ubJErP9MBW
・そしてイギリスの私掠船として、スペインの艦船を追っかけ回しながら世界一周を果たしたドレイク、カリブで「正統な支配者である原住民と同盟し、悪のスペインを討つ!」なんて建前を掲げて略奪しまくった「バッカニア」(ダンピアもこの一味)、その中でも特に有名なヘンリー・モーガン、ウィリアム・キッドなどなどが活躍した。
ウィリアム・キッドは対フランスの私掠許可状を持っていたが、知らないうちに和平が結ばれてそれが無効になり、絞首刑になるという皮肉な結末を迎える。

彼が財宝を残したのだという伝説が、その後の海賊物語の大きなモチーフとなる。
・海賊の時代の終わりとは、ウエストファリアの和約を経た『主権国家』の確立とほぼ重なる。主権国家体制とは国家による暴力の独占の体制ということだ。
それへの別れを惜しむかのように……
カリブにも18世紀初頭は、まさに活気に満ちて、それでいて平等な「海賊共和国」的な体制が生まれていた。
それは当時の欧州の厳格な身分制社会、絶対王政と比較するとさらに明らかである。
一人1票、勤務中のケガに対する補償金、戦利品の分配、休日…などが掟に明記されているのだ。

しかしイギリス国王ジョージ1世が「1718年9月までに投降せよ」という布告を出すと、海賊共和国はそれに従うか闘うかで大きく分裂する。
そして「黒ひげティーチ」や、女海賊アンとメアリ、バーソロミューロバーツなどが次々と敗れ、カリブ海の海賊と、その奇妙な「共和体制」は消えていくのだった。
・その後も、北アフリカなどではイスラム系の海賊は長く残り、その海賊…あるいはその海賊に影響力を持つ地方のベイ(知事)たちから安全を買う和平条約(貢納)もおこなれていた。
だが、空気を読まない「アメリカ」 という国家が建国され(笑)、『その海賊たちへの貢納を払うのは正義にかなうか』が国内の激しい政局に関連した不毛な対立軸になっていく(笑)
結果的に18-19世紀、アメリカは軍艦で北アフリカに対する武力攻撃を行い、知られざるアメリカの、初期の対外武力行使「トリポリ戦争」などを経て同地域の「バルバリア海賊」と呼ばれる略奪勢力は一掃される。
これによって海を拠点として国家と対峙した武装勢力である「海賊」は、ソマリアやマラッカ海峡での近代海賊行為をのぞいては、一旦歴史から退場する・・・・・・・
といった話を「ダンピア」と重ね合わせ楽しく読みました。
海賊が意外なほど民主的であるというのはダンピアが船長のリーダーシップを疑うため信任投票を行うシーンなどでも登場しますね。


「ダンピア」を愛読する人も、その世界を良く知る手がかりとして「海賊の世界史」手にとられてはいかがでしょう。