「わしに誇りがあるとすれば、民主共和制において軍人であったということだ。わしは、帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で、同盟の体制が非民主化することを容認する気はない。同盟は独裁国となって存続するより、民主国家として滅びるべきだろう。」-アレクサンドル・ビュコック(銀河英雄伝説)
これを、パロディ化してみる。
「わしに誇りがあるとすれば、民主制において医療従事者であったということだ。わしは、感染症の拡散に対抗するという口実で、日本の体制が非民主化することを容認する気はない。日本は独裁国となって存続するより、民主国家として滅びるべきだろう。」
ただ、そう単純には言いかねるのは、この老元帥はこうも続けたことだ…
「ワシはかなり過激なことを言っておるようだな。だが実際、建国の理念と市民の生命とが守られないなら、国家が存続すべき理由などありはせん」
この時、老将軍にこう問うなら、何と答えるだろう。
ではもし「市民の生命」と「建国の理念」のふたつにひとつ、となった場合はいかがでしょう?
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そして新型肺炎と検査拒否と隔離と
以前から「医学(広義において科学全体)の事実が、時として民主主義を超える」という可能性と言うか構造については書いてきましたし、それが一番大きく表れるのが感染症の防疫体制である、とも書いてきたはずだ。
もし、独裁非民主強権国家が、それなりにきっちりと仕事をする統制力を備えていた場合には、かなりの部分で民主国家、自由主義国家より「感染症の拡大を防ぐ」という点では、有利に作用する。
新型肺炎 2人検査同意得られず「説得も拘束力なし」安倍首相
2020年1月30日 12時05分安倍総理大臣は参議院予算委員会で、チャーター機の第1便で29日に帰国した人のうち、2人から検査の同意が得られなかったことについて「相当説得したが、法的な拘束力はないということで、残念ながらこういう結果になった。人権の問題もあり踏み込めないところもあるが、2便以降はかなり確かな形で確認をとっている」と述べました。
www3.nhk.or.jp
安倍首相、帰国邦人の検査拒否「残念」 新型肺炎、政府が対策本部
2020年01月30日12時42分安倍晋三首相は30日の参院予算委員会で、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、中国・武漢市からチャーター機の第1便で帰国した邦人のうち、2人がウイルス検査を拒否したことについて「大変残念だ」と述べた。第2便以降は、中国を出国する前に本人の同意を得るよう、対応を見直したことも明らかにした。
きのう帰国の3人、感染確認 新型肺炎、2人は無症状で―さらに210人が羽田到着首相は、不同意の2人について「長時間にわたり説得したが、法的拘束力はない」と説明。第2便については「もっと明確に(検査同意の)確認を取っている」と語った。
www.jiji.com
仕方が無いといえば、仕方のない話…なのだが、民主制と人権の原則を踏み外さない形で、感染症拡大のために政府にどこまでの「強権」を与え得るか。
まさに「緊急事態」とか「例外条項」の話とも隣接しているので、法律的な議論をいろいろと見てみたいところである。
大方針としては、自分はやはり、検査や隔離を推奨するべきとは思うが、たとえば「2週間の隔離に同意したもののみチャーター機に載せる」とすべきかといえば大変迷う。そこまでは、やはりしてはいけないのではないか、と考える。
ただ、ひとつの方策として「隔離や検査に協力する人にどんどんインセンティブを与える」という形が考えられるのではないか。下の過去記事にある「就職試験の条件が予防接種済みであることにする」みたいなもので、たとえばチャーター機の料金に関しても「隔離や検査で指示に従う場合は無料」とかね。
だいたい、新型肺炎もそれはそれで脅威ではあるが、「政府権力に、今以上の『強権』を与えれば感染被害はより小さくできそうだが、人権や自由の兼ね合いでその政策をとれない」という点では風疹、はしかというもっと明確な問題を日本は抱えているのです。
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この記事の中で、強権国家のほうが対感染症では有利、ということの典型パロディとしてこういうのを書いた。
「風疹完全撲滅法案大綱」
・天皇は全日本国民と共に風疹撲滅の根基を定めそがために天皇大権の発動にょりて三年間憲法を停止し両院を解散し全国に戒厳令を布く
・戒厳令施行中現時の各省の外に「ワクチン接種省」「接種拒否者取締警察」を設け、さらに無任所大臣数名を置きて改造内閣を組織す。
・戒厳令施行中普通選挙による風疹撲滅議会を召集し改造を協議せしむ。
・全国民は無条件に風疹ワクチンを、再接種も含め行うものとす。
・この拒否権は存在しないものとす。
・接種拒否者取締警察は、令状なくして無接種のものを逮捕する権限そのほか、必要とされる一切の措置を行えるものとす。
・・・・・・・・なんてことができるわけないだろ、とひとりでノリツッコミをしてもしゃーないのだが、
とか書いている間に(というか前日か)国会その他でちょっと話題になったんだね
以前から、自民と維新の議員がこの議論に加わると、とたんにレベルが(逆に)落ちるという不思議な話
#モーニングショー
— 山羽明人🍛60はでんでんコード (@cIHtcCLzQtI7ZPX) January 31, 2020
やっぱり出た緊急事態条項。
こういう事態のどさくさに憲法改正を持ち出すなんて不誠実だ。
先にやるべきことも出来てないくせに
何をいうか!やるべきことをやれ。 pic.twitter.com/Y3uKDy02T3
コロナウイルスの流行を憲法改正と結びつける議論がありますが、本件はそうした性質のものではなく、そもそも政府の対応には物事の均衡性を持たせるべきです。
— 三浦瑠麗 Lully MIURA (@lullymiura) January 31, 2020
寧ろ地道に検討すべきは疾病災害などセキュリティに関わる私権制限をめぐる緻密な法律改正の議論であって、感情論ではないということです。 https://t.co/mEXU2vbstk
過去に読売新聞にインタビューに応じた内容を転載。
— 三浦瑠麗 Lully MIURA (@lullymiura) January 31, 2020
①“非常事態時に国家が最低限守らないといけないものは何か。曲げてもいいのは何か。それを切り分けるために緊急事態条項がある。緊急事態条項の目的に、国家の利便性や効率性を求める考え方があるが、根本のところがずれている。”
②”英米流のコモンローの発想に立てば、憲法に書かれていなくても、非常時に国家に許される措置について議論の積み重ねがあるものだ。これに対し日本では、コモンローと対置するように、成文憲法が全ての法規範の源という傾向が強い。であるなら、なおさら、憲法に緊急事態条項を書いておくべきだ。”
— 三浦瑠麗 Lully MIURA (@lullymiura) January 31, 2020
国民民主党の玉木雄一郎代表は、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、自民党内で憲法改正による「緊急事態条項」創設の必要性を訴える意見が出ていることについて、「悪乗りだ」と苦言を呈しました。 https://t.co/De2VIbs6ys
— 時事ドットコム(時事通信ニュース) (@jijicom) January 31, 2020
こちらのtwitterで言及頂きました
こういうことを書く人が続出してるんだけどhttps://t.co/qSmhikQgS4
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 1, 2020
検査拒否バカで浮かび上がったこの問題、人権の問題でも民主主義の問題でもないんですよね。ぼちぼち仄めかして書いて来てますが、法の支配と法治国原理の狭間の問題。
以下、たぶん関連だろうと思われるツイート抜粋
今のところ、三浦瑠麗氏の議論が方向性として唯一正しいルートで登山しているけれど、7合目ぐらいでずっこけて下山しているのが残念。
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 1, 2020
全然畑違いの議論に見えるかもしれないけど、法律知ってる人だったら思い出してほしい。刑訴法田宮説の往年のパワーワード「令状主義の精神」。井上説と岐阜呼気検査判例で既に葬られた旧説だけど、考え方として重要だと思うんですよね。
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 1, 2020
男女の社会問題みたいな話は正直気が滅入るので、再び憲法論でもやろうかと。新型肺炎の検疫隔離の問題が、「民主主義の問題」とは全く何の関係も無いことは、これは今一度考え直せば誰でもわかると思う。「民主政」とはどこをどう考えても無関係。#新型肺炎 #緊急事態条項
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 2, 2020
ただこれが人権の問題ではないということは、理解できない人も多いような。伝染病患者を隔離する・移動を制限するというのは、ただの内在的制約の問題で、人権問題ではないのです。
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 2, 2020
じゃあこれは一体何なのかといえば、まずは行政法の機能不全の問題。そこにこの角度で憲法的議論が、それも国家緊急権の論点という形で出現してきたというのが、この問題の実に興味深いところ。#新型肺炎 #緊急事態条項
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 2, 2020
以前のツイートで三浦瑠麗氏の議論が唯一的を射ていると言ったのは、コモンロー(英米法)という話に気づいたところを指しています。私は検疫なんて小ネタを国家緊急権マターにすることは理論的には反対ですが、今の日本の法哲学的状況だとありなのかもしれないと思ったり。#緊急事態条項
— Tommiesmurmuring (@paultommie) February 2, 2020