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”キック”の伝播と普及の謎「沢村忠を見て、不良の喧嘩にも『蹴り』が使われ始めた」?~【日曜民俗学】

ゴング格闘技、320号に中國武術・義龍会創始師範・廣瀬義龍氏のインタビューが載っている。


沢村忠に真空を飛ばせた男」外伝の第8回で、当然細田昌志氏が聞き手。




正直、この廣瀬というかたは存じ上げなかったが…
ここに、最近追っている「キックの伝播・浸透の歴史」について、そのものずばりの指摘があった。

「こういう機会ですから、作中で触れられ ていなかった、沢村さんの別の影響につい てお話しましょうか」


――是非是非、お願いします。


「今も名残はあるんだけど、練馬は「不良の激戦区」と呼ばれていて、60、70年代は 最盛期。同級生に不良が大勢いたので、他校との乱闘の折、助っ人として何度も駆り 出されたものです。その実体験を踏まえつ つ、社会文化学的見地から言うと、沢村忠の出現は不良の喧嘩を根本から変えました」


―― ......。


「いくら力道山が人気あるって言っても、 喧嘩の最中に空手チョップをするバカはいません。全員がボクシングスタイル。原田や海老原を真似てパンチを放っていった。それが沢村忠が現れたことで、パンチに蹴りが加わった。蹴りは有効な武器になった」


――ああ、なるほど。


沢村忠がビール瓶で壁を叩いている有名な写真があるでしょう。あれを見て不良たちが真似して、一斉にビール瓶で脛を叩き始めたんだから(笑)」


―アハハ!

キックの民俗学、不良の喧嘩も沢村忠が参考?

いやー、重大な案件ですよ。
このへんね、過去の記事を読んでもらうと解りやすいんです。
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「真空を飛ばせた男」でも極真の神村栄一が証言してる
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あと、そこからの余談つーかパロディ含む(笑)※これは、ついで程度に読んでくれればいい
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繰り返しますが、これは民俗学的課題です。
今現在、「キック」のイメージの中に、相手を脛で蹴る、という絵面も、ほとんどの日本人は入っている。
しかし、それは『キックボクシング』がテレビ放送され、一般の目に入るまで、おそらくは、だれも考え付かなかった。こんな単純な身体運動であるのに!!!


それが、他国の異なる文化が、大衆娯楽として紹介されたことで塗り替わり、普通にその身体動作が、日本民族の中に定着した・・・・・・・・ここになにがしかのロマンや、学術的興味を感じないですか?

「日本の走り方は基本的に「なんば走り」と呼ばれる独特のもので、現在の日本人の「走る」という動作は、近代体操の影響によるもの」

とか
「行進」や「ピッチング」も、学校での体育や、野球中継を見ているからみんな見様見真似程度には出来るんで、野球人気や学校体育の普及していないところでは全くできない………なんて話とも共通しているかな?


インタビューでは、さらに続く。

「また、戦隊モノも変えましたね。仮面ライダーなんか派手なキックが武器でしょう。あれも沢村忠の影響です。断言していい」



―言われてみれば。

ブルース・リーだって、絶対に沢村忠の影響はあったと思う。素顔の李小龍は勉強家で相当なインテリ。日本の歴史、文化、武道、芸能、風習とおしなべて学んだ人です。日本映画への傾倒もそうで、黒沢作品なんて片っ端から観ている。映画人だから当然かもしれないけど」


―割とよく聞く話ですね。


「その李小龍が、この時代に大ブームを起こした沢村忠を見てないとは考えられない。彼のスタイルに、少なからず影響を与えたと考えるのが自然でしょう」


――確かに......。並列で論じられない両者ですが、時代も接近しているので不思議はないです。ちなみに、廣瀬先生はいくつくらいまで沢村忠に熱中したんですか?


「中2くらい。あるとき試合を見てもしかして....。って。中学生ってそういうのに気付き始めるから(苦笑)。当時は『S年安保闘争』の真っ只中で、早い段階でマルクスレーニンにはまってしまったので、沢村忠どころではなくなったのもある」


―左翼運動から、どういう経緯で中国武術と出会うのでしょう?


「中学から学生運動に没入していくんだけど、親友に裏切られて身の危険に晒されるようになった。実際に死者も出ているし」


内ゲバですね。


「そういうところまで真似しなくていいのにね。それで、自分の身は自分で守らないと、と、夜遅くに自宅近くの森でパンチ、キックの練習をしたんです。完全な我流。そんなある晩、見知らぬ老人が『前から君の稽古を見ていたよ』と話しかけてきた」

最後のは意外な方向に行き過ぎというか、すこー--しドラマチックに過ぎて「梶原一騎はいってませんか?」という気がするんだけど(笑)、驚くべきことにこの後、氏はむしろ「梶原一騎の陳老人とかは、かなりリアルに描かれている」と、ああいう存在にかなり近いモデルがいる、と示唆しているから、ホントにそこが丸見えの底なし沼…

いや、その話も面白いが、そっちにそれてる場合じゃない。

この「キックボクシング」がアクション特撮、アクション映画…特に、「起点」というべきブルース・リーの映画に影響を与えた?? ともなれば、話はさらに大きくなり、民俗学というより巨大な文化論にもなっていきます。



ここから先は……どこかの誰かに要望だが(この話以前も書いたが)ウルトラマン仮面ライダーから、石原裕次郎小林旭などが活躍した日活アクション映画、そしてブルース・リーなどのカンフー映画、刑事もの、不良もの、もちろん漫画や小説・・・・を含めた「フィクション・エンタメの中の『キック』」を体系的に研究してもらいたい!
となると、相当な手間暇も時間もかかるだろう。こういうのにこそ「科研費」を使ってもらいたい

※冗談じゃなく、実際に「ミステリーの日本への普及の歴史」を調べるのに科研費が使われ、成果が新書になっているのだ



ん…そうなってくると、そもそも「キック」「パンチ」といった単語が、日本の中ですぐに意味が通じる言葉になったのは、いつ、どのようにしてか?なんて疑問もわく。

同様に日本語になった「チョップ」はもちろん力道山経由だろうが、例の日本テレビNHKでの初の「プロレス中継」は2夜連続放送だったが、1夜めは「空手打ち」と呼んでいたものを、アナウンサーと力道山が話し合って「プロレスなんだからかっこよく英語で行こう!」と空手チョップにした……というのは、BS日本テレビの回想番組でアナウンサー自身が証言している。

このtogetterにも、科研費が下りてしかるべきだったよ(笑)
togetter.com



………と、解答ではなく「問い」を発しておしまいとするのは、わたくしの力不足でありますが、この問いも、いささか文化史的・民俗学的に有益なものになったかとは、いささか自負しております(了)



追記 青空文庫内で「キック」を検索してみる

初出調べ、弐ノ型!!!
www.google.com

www.google.com

うー-ん、どれほどに人口に膾炙していたのかなあ、「パンチ」も「キック」も。ここから丁寧に検討しないといけないようだ。



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