「ダンピアのおいしい冒険」で知られるトマトスープ先生の「天幕のジャードゥーガル」が単行本になったとか。
後宮では賢さこそが美しさ。13世紀、地上最強の大帝国「モンゴル帝国」の捕虜となり、後宮に仕えることになった女・ファーティマは、当時世界最高レベルの医療技術や科学知識を誇るイランの出身。その知識と知恵を持ち、自分の才能を発揮できる世界を求めていたファーティマは、第2代皇帝・オゴタイの第6夫人でモンゴル帝国に複雑な思いを抱く女・ドレゲネと出会い、そして……!? 大帝国を揺るがす女ふたりのモンゴル後宮譚!
おれはもう昨年9月の連載開始時とか、ことし3月には話題にしてたけど(後述)、とマウントを取りつつ、この前冒頭回がtogetter形式でまとめられて、そっちではてなの反響あった。
togetter.com
上の二つのリンクは同じ作品の掲載です
togetterブクマ
[B! マンガ] 奴隷だったイランの少女がモンゴル帝国の後宮に仕えることに…「奴隷少女が学者一家に拾われる」マンガがおもしろい
そこに書いた、当方のブクマコメント
特に女性にスポットを当て「周囲の無理解等を乗り越え知の世界に踏み込み、活躍する」というのがジャンル化しつつありますね。平安女流文学者ものや「天球のハルモニア」など
ということで、「天球のハルモニア」紹介……といっても、講談社コミックDAYSが、この作品も第一話をネット公開している。集英社や小学館や秋田書店も、一話公開はちゃんとやってるっちゃやってるけど、コミックDAYSの雑誌横断性にはどこも及ばないはずだ(ジャンプラ検索してもジャンプ作品以外は出ないでしょ、サンデーうぇぶりもしかり。)。
コミックDAYSあっぱれあっぱれ、みんなコミックDAYSを目指せよ、としか言いようがない。
そのコミックDAYS1話公開システムに甘えて、リンクを張れば「こんな作品です」の紹介は済むんだよね。
いや!第2話も無料か!
comic-days.com
天球のハルモニア
光城ノマメ/しまな央
「女性の幸せは、素敵な男性に見初められて結婚すること」と信じられていた十八世紀末のパリ。布地店の娘・ソフィーは寝ても覚めても数学のことを考える日々を過ごしていた。最初は家族にも理解されなかった夢のはずが、彼女の“夢中”な姿は周りを巻き込み、いつのまにか誰もがソフィーを応援してしまう!
あと、今現在公開中の5話(2022年8月22日現在)へのリンクも張っておこう。
comic-days.com
そして1巻が出たばかりのようだ
一生夢中になれる何かと出会った人は、最強だ。「女性の幸せは、素敵な男性に見初められて結婚すること」と信じられていた十八世紀末のパリ。布地店の娘・ソフィーは寝ても覚めても数学のことを考える日々を過ごしていた。
その姿を心配した父は、女性としての幸せを与えようと娘を夜会へ連れて行く。「問題を起こさないように」と念を押されたソフィーだが、大人たちが興じるカードゲームの“数”を見つめているうちにイカサマを発見してしまう!実在の数学者ソフィー・ジェルマンをモデルにした、少女が目指す数学者という夢――その道程を目撃する物語!!
実の所、主人公としてのソフィーは余り女性とか関係ない、結構色んな所で見る「数学オタク的畸人」キャラの典型な面もあり、そっちの面から見た「愛すべき数学(学問)オタクな畸人伝」として見ても楽しめよう。そういう「畸人」自体も、階級的な振る舞いや「空気を読む」が重視される時代においては、またひとつのマイノリティだったりするのです。
ja.wikipedia.org
そして同時に…、テーマがテーマだから、ちょっとした「数学パズル」も、試験などの体裁をとって頻出する。
数学・・・・・・・・本能的に忌避感がわきますが(笑)、といいつつ「数学パズル」となると、やっぱりちょっと興味がある。
5秒ぐらい考えて、結論に至る前にそのまま読み進めて、解答が出てきたら「あー、そーいうことね、完全に理解した(自分もそう思ってた)」ってのを繰り返してるだけだけど、それでもやっぱり「数学パズル」に楽しさはある。
たとえば……
主人公(※女性ですが、諸事情で男装です)は、一つの解を出すが、
次の回では別の人物が・・・・
ほか「智を追う女性たち」、平安文学者系、あるいは黒博物館の新シリーズ(メアリー・シェリーが主役)など
この前「天幕のジャードゥーガル」を紹介した時は、この映画と合わせて論じた。
山崎直子氏(宇宙飛行士)推薦
「彼女たちの挑戦は、壁を超える勇気を与えてくれる」2017.9.29(金)全国ロードショー!
アカデミー賞R作品賞ノミネート『ドリーム』原案。
コンピューターのない時代に活躍した“黒人女性計算手”たちの物語。全米大ヒット映画原案、知られざる感動の実話!
ニューヨークタイムズ・ベストセラーリスト第1位!
『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌 2016年ベストブック!
『ウォール・ストリートジャーナル』紙が選ぶ、2016年最も期待の1冊!
名作『ライトスタッフ』に匹敵!――『ボストン・グローブ』紙1943年、人種隔離政策下のアメリカ。
数学教師ドロシー・ヴォーンは、“黒人女性計算手”としてNASAの前身組織に採用される。
コンピューターの誕生前夜、複雑な計算は人の手に委ねられ、彼らは“計算手(コンピューター)”と呼ばれていた。
やがて彼らは宇宙開発の礎となり、アポロ計画の扉を開く――!
差別を乗り越え道を切り拓いた人々の姿を描く、感動の実話。映画『ドリーム』原作。
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映画ということでは、「智を担う、知を追う」女性のまさに歴史的アイコンであるヒュッパティアを描いた映画もあったり。
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◆アカデミー賞監督 × アカデミー賞女優!
アレハンドロ・アメナーバル:『海を飛ぶ夢』(アカデミー賞外国語映画賞) レイチェル・ワイズ:『ナイロビの蜂』(アカデミー賞助演女優賞)
◆ヨーロッパ映画史上最大級の製作費をかけた、スペクタクル史劇!
◆本国スペインのアカデミー賞(ゴヤ賞)7部門受賞! 同国映画史上最高の興行収入を記録!
◆ローマ帝国末期の動乱の時代、エジプトの都市アレクサンドリア。歴史に翻弄された、実在の女性の数奇な運命。
◆今まで一度もスクリーンに登場することのなかった、“歴史に葬られた、ある事件"とは―<ストーリー>
4世紀、ローマ帝国末期のエジプト、アレクサンドリア。宗教をめぐる市民の対立から街が荒廃する中、類まれなる美貌と明晰な頭脳を持った女性天文学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、分け隔てなく弟子たちを受け入れ、講義を行なっていた。
彼女は訴える。「世の中で何が起きようと、私たちは兄弟です。」
生徒でもあり、後にアレクサンドリアの長官となるオレステス(オスカー・アイザック)、そして奴隷ダオス(マックス・ミンゲラ)は密かに彼女に想いを寄せていた。
やがて、科学を否定するキリスト教徒たちと、それを拒絶する学者たちの間で、激しい対立が勃発。戦いの最中、キリスト教指導者は知る。
この都市の有力者たちに多大な影響を与えているのは、ヒュパティアだということに。そして攻撃の矛先は、彼女に向けられたのだった―
こういうのを「ポリコレ」の視点で云々する人がいて、実際に企画通過の経緯なども含め間違いなくその要素はあるのだろうけど、白い猫でも黒い猫でも、のたぐいで、そういうテーマで面白い作品が出ても、そうでない(あるいはそれに反する)テーマで面白い作品が出ても、面白ければよろしかろうと思うのです。
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そして再来年の、紫式部の大河ドラマ化を見据えつつ、平安女流文学者を再解釈した物語がいろいろ描かれています、そしてこれからも描かれようとしています
34歳。陰キャ。サブカル女。シングルマザー。しかし彼女には才能があった――!! 世渡り下手の才女・紫式部は、夫を失って以来、悲しみを癒すべく創作活動に打ち込んでいた。描き上げた作品が話題になり、界隈で神作家として知られはじめ、ついに宮仕えのお声がかかり…。慣れない人間関係に翻弄されながらも任された仕事は中宮さまの家庭教師――!? D・キッサンが描く平安コメディ最新作は紫式部!!
このまとめもバズッったっけ。
[B! togetter] キッサン先生のマンガ「34歳シングルマザーが同人誌書いてたらスカウトされた話」の疾走感が堪らん
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キッサン先生のマンガ「34歳シングルマザーが同人誌書いてたらスカウトされた話」の疾走感が堪らんb.hatena.ne.jp平安時代の宮廷(特に文学関係)を、現代感覚と現代用語で読み替えるっていうのは既に「ジャンル」のひとつだねえ。これもリスト化したい…けど、力が無いな(不完全を承知で、知ってるのだけで作ってみるか)
2022/04/28 11:46
で、ほんとに一覧つくったのだよ。
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「ありえない日々」、いまはここで連載中
zerosumonline.com
そんで、藤田和日郎の「黒博物館」最新シリーズ、「三日月よ、怪物と踊れ」では、女流SF作家の草分け、フランケンシュタインの怪物の創作者、メアリー・シェリーが、主人公として登場する。
もちろん、「伝記」的に正確な物語ではなく「伝奇」のほうです(笑)
ただかの有名な『フランケンシュタイン』の創作経緯などがマンガに描かれたのは嬉しかったな。
宴会の場でみんなで盛り上がって、創作の競作をしよう!となったけど
けっきょく描き上げたのは一人だけだった……って、なんとなく「あるある」な話のような気がします、19世紀でも20世紀でも21世紀でも(笑)
でもそれだけじゃなく
「女性が物を書いて、創作して社会で生活していく」のは当時は、今以上に大変で偏見も根強かった。
そんなところも描かれています。
以前、藤田和日郎は「月光条例」でシンデレラが目覚め、自立していく様を描いたりしてた。
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藤田和日郎作品は基本的にすごいマチズモな面があるけど、そのまま突き進んで「女性もマッチョであるべし!いやマッチョな女性はかっこいい!」という、そっちの方面に突き進んで、別方向に開花させた感もあるのであります。
今度の作品はどうなるかね。
ガス燈が霧ににじむヴィクトリア朝のロンドン。ロンドン警視庁〈スコットランド・ヤード〉の犯罪資料室「黒博物館」を、歴史的ホラーヒーローの「生みの親」が訪れる。彼女が閲覧を希望したのは、赤いブーツ…2年前、女王主催の舞踏会で起きた怪事件の遺留品だった。そして女は、一人のおぞましく、あまりにも奇妙な女剣士の思い出を語りだす。
第1シリーズ『黒博物館 スプリンガルド』、第2シリーズ『黒博物館 ゴーストアンドレディ』に続く大英帝国伝奇アクション待望の第3シリーズ、開演!
そして……
最終的には、これも「ジャンル」になる…なりつつあるし、今は「ブーム」かも、と思うのだけど、ただこれが発展していけば「智を追う”女性”」の物語というカテゴリーで論じる必要も無くなり、「ダンピアのおいしい冒険」や「チ。」(そもそもこれも主人公の独りは女性だし)「風雲児たち 蘭学革命編」などなどと完全に一体となった「智を追う『人間』の物語」として受容されるのでしょう。すでに今だって、そう受容していいのだろうけど。