【記録する者たち】
今回、この女性を紹介するのは三つのきっかけがある。
一つは、世界的ニュースになったダーイシュの偶像破壊。
アッシリア石造破壊〜 犯罪集団ダーイシュによる、極めつけの悪夢をみる - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150228/p3
一つは、ごく小さい範囲の野望だが「すべての総合格闘技の映像記録を集めてやる!」と宣言した、UFCから連想した「アレクサンドリア大図書館」の話。
格闘技の「アレクサンドリア大図書館」は創られるか?ファイトパスの壮大なる野望に拍手。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150213/p1
で、こういうのに関連して
ウィキペディアの「アレクサンドリア図書館」
をみていると
ヒュパティア の「虐殺」という記述が出てくる。
なんのことだろう?
まったく分からないまま読んでみる。
ヒュパティア(Ὑπατία, Hypatia、350年〜370年 - 415年3月)は、ローマ帝国アエギュプトゥスの数学者・天文学者・新プラトン主義哲学者。ハイパティアともヒパティアとも呼ばれる。
アレクサンドリアのテオンの娘であり、ヒュパティアは400年頃アレクサンドリアの新プラトン主義哲学校の校長になった。彼女はプラトンやアリストテレスらについて講義を行ったという。キュレネのシュネシオス(その後410年頃にキレナイカ地方のプトレマイスの司教となる)との間で交わされた彼女への書簡のいくつかはまだ現存している
古代の女性学者!!!数学、天文学、哲学者!!
これだけですげーじゃありませんか。
ん?だが雲行きがあやしいぞ…
キリスト教との反目
新プラトン主義の他の学校の教義より、彼女の哲学はより学術的で、その関心のためか科学的で神秘主義を廃し、しかも妥協しない点では、キリスト教徒からすると全く異端であった。
それでも、「考えるあなたの権利を保有してください。なぜなら、まったく考えないことよりは誤ったことも考えてさえすれば良いのです」とか「真実として迷信を教えることは、とても恐ろしいことです」という彼女のものであると考えられている言動は、当時のキリスト教徒を激怒させた。
その時すでに彼女は、キリスト教から見て神に対する冒涜と同一視された思想と学問の象徴とされたのである。これは、後にヒュパティアの運命を大きく変える。
そしてキリスト教徒の集団により、414年、アレクサンドリアからのユダヤ人の違法で強制的な追放がなされ、緊張はその頂点に達する中、ヒュパティアの虐殺事件が起こる。
415年、四旬節のある日、総司教キュリロスの部下である修道士たちは、馬車で学園に向かっていたヒュパティアを馬車から引きずりおろし、教会に連れ込んだあと、彼女を裸にして、カキの貝殻で、生きたまま彼女の肉を骨から削ぎ落として殺害した。[1]
ギリシャ語で「カキの貝殻(ostrakois;oystershells)」という言葉が使われているが、これはギリシャではカキの貝殻を、家の屋根などのタイルとして使用していたことに由来する。英語では、「タイル(tiles)で殺され、体を切断された後、焼却された。」と訳されている。[2]
キュリロスは、アレクサンドリアから異教徒を追放した功績者として大いにたたえられた。その死後、彼は教皇レオ13世により「教会の博士」として聖人の列に加えられている。
うわ、えぐいわ…といいながら、なんで「カキの殻」かいまいち分からんのだが、地中海での牡蠣の貝殻は、日本よりずっと馴染み深いものなのだろう。屋根瓦代わりにもつかってたんだって。
食べて美味しいが、殻はごつごつしていたい。手を切ったりするとすごく痛い、ということで、敢えて苦痛を与えるために拷問具として使用したのだろう…
その指導者とされる人が「聖人」であるというのは、またも
宗教における「見なしの自由」のいい材料になる話ではあるが。十字軍の侵略者、ルイ聖王も、戦国時代に刀槍を振り回した高山右近に続き…
宗教における「見なしの自由」を擁護する…彼の為でなく、我が為でもなく。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20111109/p3
戦国乱世で弓と槍を振るった武将・高山右近をカソリックは「列福」「列聖」するか…の話。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140814/p5
十字軍を率いたルイ9世は”聖王”、カソリックの正式な「聖者」でもある件。(〜宗教における見なしの自由)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130816/p2
ただ、司祭キュリロスについては異論もあるようで、仁徳天皇の「民のかまど」的な信頼性かもしれない(笑)
ウィキペディアの「キュリロス」
ノウァティアヌス派の排斥や、ヘレニズム哲学者のヒュパティアの殺害に対して、キュリロスが関係していたかどうか議論がある。歴史家たちは、彼が責任を問えるほどこれらの事件に関わってはいなかったと考えている。
まあ、「仁徳の民のかまど」も信憑性は不明な神話だという前提さえおけばいいだけで、このヒュパティアも、
「宗教的偏狭」
「女性の知的活動は男性に劣る」
に対抗するアイコンとなったそうです。
劇的な虐殺の詳細と共に、博識で美しい女性哲学者としてのヒュパティアの伝説は、後世多数の作家(例えばチャールズ・キングズリー/Charles Kingsley)の『ヒュパティア 古い相貌の新たなる論敵』(1852年)など)の文学作品を生み出した。
米国インディアナ大学では、「ハイペシア叢書」(a Hypatia book)を女性問題の図書として刊行している。
この虐殺は415年に発生。
ことしは、彼女の虐殺から1600年の節目ではないか!!!!
この逸話が最新回の「辺獄のシュヴェスタ 」に登場してました。
http://spi-net.jp/monthly/comic032.html
死と隣り合わせの時代を生きる!
サバイバル歴史大作!!16世紀、神聖ローマ帝国。罪なき賢者が「魔女狩り」という名の迫害に遭った時代。
激流のごとき変革の刻を生きるひとりの少女――エラ。彼女が、聖母を形どった拷問具「鋼鉄の処女」と共に辿る苛烈な運命とは…!?
新人作家、驚異の初連載! 次にあなたを滾らせるのはこの漫画だ――!!
第一話の試し読み
http://spi.tameshiyo.me/HENGO01SPI
簡単に言えば、主人公の少女は保護者を魔女狩りで失い、その際に一種の「裏切り」も余儀なくされ、身寄りが無いということで修道院に”保護”される。
だが、人権思想もない修道院では、なんというか恐ろしいほどの恐怖政治が敷かれている。その凄惨な生活の中で「協会に逆らってはいけない」「自分の頭で考えてはいけない」という例として、名前とかは出ないまま、この「牡蠣の貝殻で惨殺された女性学者」の話がほんのちょっとだけ登場します。
この漫画はどうも、スピリッツの今のイチ押し漫画のようです。
偶然最近知った話とつながったので、長すぎるメモ代わりとして書いておきました。
そういえば、そもそも表題の「辺獄」(リンボ)は、(キリスト生誕以前の)異教徒だが偉大な知性や徳を、「地獄に落とすのもどうもまずいし、かといって、キリストの救い無しで天国に行けるとしたらもっとまずいし…」という、カソリックのゆでたまごなみの必死の後付け設定(おお、最初の話題とつながる!)で生まれたものだっけか。
そのへんは、こちらをご参照ください。
「日本人、ザビエルに突っ込む」話に関する参考資料など - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130209/p3
追記 映画「アレクサンドリア」というのがあり、その主人公だって!
ブクマから
id:seven_cz 映画『アレクサンドリア』の主人公の話。映画よりさらにエグい死に方についても。
アカデミー賞監督アレハンドロ・アメナーバル × アカデミー賞女優レイチェル・ワイズ!
ヨーロッパ映画史上最大級の製作費で描く、歴史スペクタクル!
<ストーリー>4世紀、ローマ帝国末期のエジプト、アレクサンドリア。宗教をめぐる市民の対立から街が荒廃する中、類まれなる美貌と明晰な頭脳を持った女性天文学者ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、分け隔てなく弟子たちを受け入れ、講義を行なっていた。彼女は訴える。「世の中で何が起きようと、私たちは兄弟です。」生徒でもあり、後にアレクサンドリアの長官となるオレステス(オスカー・アイザック)、そして奴隷ダオス(マックス・ミンゲラ)は密かに彼女に想いを寄せていた。やがて、科学を否定するキリスト教徒たちと、それを拒絶する学者たちの間で、激しい対立が勃発。戦いの最中、キリスト教指導者は知る。この都市の有力者たちに多大な影響を与えているのは、ヒュパティアだということに。そして攻撃の矛先は、彼女に向けられたのだった ―