沢木耕太郎の『テロルの決算』って、暗殺された浅沼稲次郎社会党委員長と右翼テロリスト山口二矢を描いた傑作ノンフィクションなんだけど、同時に手っ取り早く戦後社会党史を学べる本でもあるんだよね(そういえば沢木は横国時代は後に神奈川革新県政を担った長洲一ニのゼミ出身だったりする)。
— キタトシオ (@kitatoshio1982) July 19, 2022
本作はもはや伝説。沢木耕太郎の最高傑作がついに電子書籍化!
あのとき、政治は鋭く凄味をおびていた。ひたすら歩むことでようやく辿り着いた晴れの舞台で、61歳の野党政治家は、生き急ぎ死に急ぎ閃光のように駆け抜けてきた17歳のテロリストの激しい体当たりを受ける。テロリストの手には、短刀が握られていた。社会党委員長・浅沼稲次郎と右翼の少年・山口二矢――1960年、政治の季節に交錯した2人のその一瞬、“浅沼委員長刺殺事件”を研ぎ澄まされた筆致で描き、多くの人々の心を震わせたノンフィクションの金字塔。第10回(1979年)大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
ひたすら歩むことでようやく辿り着いた晴れの舞台で、61歳の野党政治家は、生き急ぎ死に急ぎ閃光のように駆け抜けてきた17歳のテロリストと、激しく交錯する。社会党委員長の浅沼稲次郎と右翼の少年山口二矢。1960年、政治の季節に邂逅する二人のその一瞬を描くノンフィクションの金字塔。新装版「あとがき」を追加執筆。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。 --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
沢木/耕太郎
1947年東京生まれ。70年に横浜国立大学経済学部卒業。若きテロリストと老政治家のその一瞬までのシーンを積み重ねることで、浅沼稲次郎刺殺事件を描ききった『テロルの決算』で79年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『一瞬の夏』(81年 新田次郎文学賞)、『凍』(05年 講談社ノンフィクション賞)など常に方法論を模索しつつノンフィクションに新しい地平を開いてきた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1960年10月12日の大洋対大毎の日本シリーズの第2戦、西本監督がスクイズのサインを出してゲッツーに終わり、永田オーナーに「バカモン!」と叱責されて決裂した日ですね。
— イエデビ【黄色い悪魔】 (@yelldevi) 2022年7月20日
同書では「まさに浅沼刺殺の瞬間、球場では西本監督が抗議の真っ最中だった」との挿話をインサートし、時代を描写しつつ「世界はどんな大事件が起きても、別の所では別の事件が起きている」ことを描いた。
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年7月20日
その上手さに舌を巻いた(一方、ちょっと「あざとい」とも思った)https://t.co/4sKMfoDVJ7
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浅沼氏刺殺のときも、まさかそんなことがと右翼の大物たちは驚いたという。左右の差はあれど60年前と反応は同じ。
— イエデビ【黄色い悪魔】 (@yelldevi) 2022年7月20日
犯人の少年より一切空気を読まない幹部自衛官の父親が面白かった
— 憑かれた大学隠棲:再稼働リプレイスに一俵 (@lm700j) 2022年7月20日
ある意味完璧な自由主義者ですよね、お父さんは。
— キタトシオ (@kitatoshio1982) 2022年7月20日
入社式の日に会社をやめた沢木耕太郎的な成分(ギミックかもね)がたっぷり詰まった傑作!
— イエデビ【黄色い悪魔】 (@yelldevi) 2022年7月20日
そういえば、ついでに思い出した一文があった。山口ニ矢の母親は事件後「こんな大それたことをした以上、息子は死んでほしい…」と言い、彼の獄中自殺後それを悔やみ続けたのだけど、二矢の右翼運動家時代「たまに帰宅すると、いつも彼の好物のすき焼きが出た。前日の食卓がすき焼きでも、そうだった」
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年7月21日
そう、あの「山口ニ矢の父親」の肖像を残しただけでも、あの本は古典的名著の名に値する。
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年7月20日
円地文子が連合赤軍をテーマに、やはり「息子の犯罪」に毅然とした個人として立ち向かう親を描いた「食卓のない家」を描くのは、当然ながらこの事件の起きたずっと後。https://t.co/Rf39Xf0wl4
警察に取り調べられてるのに「大学の夜学の授業からあるからもう帰ってもいいですか」っていう場面が最高でしたね
— 憑かれた大学隠棲:再稼働リプレイスに一俵 (@lm700j) 2022年7月20日
ああ、昔「テロルの決算」と「食卓のない家」一緒に紹介する文章書いてたわ。
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年7月20日
このときも加害者家族のことが話題になっていたのだっけ…。
過去記事「米国では犯罪加害者の家族に、励ましの手紙が殺到する」&小説「食卓のない家」を再紹介https://t.co/Bcb3ZpiL5H pic.twitter.com/mKkPs9Be5Z
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呉智英の書評を孫引きする形で。
(略)……「食卓のない家」を紹介させてください。これは、連合赤軍事件の”戦士”を息子に持つ会社員を主人公にしたもので(※この原稿が書かれた当時の)4年前に出たものだが、今でも版を重ねている。初め新聞小説だったものだから、物語展開にいくつか無理が見られるが、ここに描かれた父は(略)立派である。
『食卓のない家』に描かれた父は、息子に対しては、獄中に面会にも行かず、弁護士の斡旋もせず、世間と会社に対しては、過激派の父という非難に少しも屈することなく、自分は自分、息子は息子、息子の思想は思想、刑罰は刑罰、という徹底的に毅然たる態度を貫き通す・・・(後略)。この書評は
に載っている。
沢木耕太郎「テロルの決算」も”テロリストの親”のその後と世間を中心に読み直したい。
のだが、手元にない。
有名な本だから、もし手元にあって、上の話題に興味があるなら、特に主人公の山口二矢少年が実際に事件を起こしたあとの両親の記述に集中して読み直してほしい。
実は、山口の父親は自衛官なのだが、それで思うような「右翼思想を父が子に伝えた」みたいなことは全然なく、リアルに上の「食卓のない家」のような、毅然とした個人主義を実践する人だった、と若きルポライター沢木は取材の上で結論しているのだ。しかしそれだからこそ二矢の行動に関係がある、ともいえる。同時に母親は典型的な日本人?で「こんな大それたことをしたのだから、二矢は死んでくれればいい」と・・・このあとの展開をうろ覚えで書くのもなんなので、実際に読んだ人に任せたい。
そして最後に「犯罪容疑者の加害者家族」の話で、
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年7月20日
有賀リエ先生@aru_rie の新作『工場夜景』につなげる。
有賀リエ連作集 工場夜景https://t.co/KL96Da2gaShttps://t.co/yF2EI1gGDo
いや、実際、もし「工場夜景」の主人公ふたりの周辺の人物が「山口ニ矢の父親」のような思想と人格の持ち主だったら、漫画としては盛り上がらずに十数ページで話が終わってしまうのだが(笑)、本当に理想的なふるまいなのであります。
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ただ、絶賛した上でひとこと保留をしておくと、このノンフィクションは少し文学として完成され過ぎている。いや、事実関係の装飾とかそういうのではないのだが、そういうものがなくても、あまりに文学的に美しいノンフィクションは、それ自体で何か引っかかりを持つに足る。
猪瀬直樹や立花隆のノンフィクションだと、こういう懸念を持たないですむんだけどね(笑)批判や皮肉ではない。
今回の安倍晋三暗殺容疑者は、ぶっちゃけ日本の判例的にいえば、まず死刑はありそうもない。有期刑だろう。十何年かあとに出獄する。
その容疑者と家族との関係は、また「テロルの決算」のそれとは全く違う関係性がある。
にしても、その後どうなっていくか。それは誰にもわからない。
「それからのジェロニモ」を思ったりもする。