長期連載であり、いまはアニメも放送されている「ヴィンランド・サガ」、アメリカ大陸で開拓村を作ってからの話で大きな転機を迎えている。
そのためには前回までの話を説明しなきゃいけないのだが……過去の俺グッジョブ、昨年10月に書いてたな!
ヴィンランドサガ 武器と自衛を巡る挿話
箇条書きで要約
・トルフィンは非武装・現地人との友好路線を取り、基本的に成功していた。
・しかし現地人の「精霊使い」はトルフィン開拓団から繋がる、近代文明の恐ろしさを幻視し、開拓団を止めねばならぬと決意する(当然、他の人は理由が分からない)。
・そのために、この精霊使いがやった戦略は、まず斧でトルフィンに切りかかる事。
・本当ならトルフィンの技術で無傷のまま収拾できた。しかし、開拓団の”野党”イーヴァル兄弟が禁止の剣で精霊使いの腕を切り落としトルフィンを”護った”。
・開拓団は武装自衛派(男性中心)とトルフィンの平和路線支持派(女性多し)に二分される……
そして最新回。

このように、「防衛力強化」はリーダーの意思ではないのだが、着実に進んでいる。
そんな中で……


これが何を意味するかは、わかるだろう……。
ときに、作劇的に面白かったのは、前回の記事でもちょっと書いたけど
武装派政策を主張する一団…この国の「野党」たるイーヴァル兄弟たちも「トルフィンはいいやつだ、立派なリーダーだ」「あいつが好きだ」ということは認める、というところまで来た
のだな。イーヴァル兄弟、特に長男は強硬な武闘派だし、仕切りたがりの先天的に偉そうなトラブルメーカーだが、基本的には悪人ではなさそうだ。
というか、その武装論も、一聴に値するような論理性、常識性を持っている。
ヴィンランド・サガ 武器なしでの新国家は可能か
m-dojo.hatenadiary.com ヴィンランドサガ 武器なしでの新国家は可能か(アフタヌーン2020年7月号)
普通にディベートするならトルフィンが負けと判定されてもおかしくない。というかトルフィンの非武装論は、その壮絶な前半生に裏打ちされた一種の宗教的感情ーーいや宗教より、もっと普遍的な”祈り”といってもいい。だからここは曲がらなかった。
だけど兄弟らはこっそり剣を持ち込みーーーとなるのだけれど、そこで今回、弟ストルクが、こんな本音を語る。

素朴に「村の危機」と「やむを得ず我々は防衛するのだ」と信じていた長男が、むしろそのことに動揺する。
このストルク、確かにイーヴァル兄を「トルフィンに代わるリーダー」と位置付けてはいるし、ところどころで重要な参謀だったけど、その一方で上の「トルフィンはいい奴だしいいリーダー、彼は好きだ」だということを、兄弟の中で積極的に語ってた側だった。というか全体的にちょっと「抑え役」キャラだった。
そういう、ちょっと地味、穏やか、理性的な役を割り振っていたあまり目立たない人間を「実は陰謀の首謀者」みたいに物語内でドン!とクローズアップし、ほとんど役割的にも一変させる、ここが個人的には盛り上がりました。
しかし、そこで「戦争を防ぐためには、戦争に導こうとしている奴を暗殺することが許されるのか?」みたいな問いが……「プラネテス」の時代から、ちょっとテーマが野心的すぎてそれを消化しきれずに、なんかむき出しすぎることが時々ある(それを欠点と取ることもできるし、彼のワンアンドオンリーの個性であるということもできるだろう)作者だが、今回はどうなりますかね。
「浅沼委員長を倒すことは日本のため、国民のためになることであると
堅く信じ殺害したのでありますから、やった行為については法に触れる事ではありますが
私としてはこれ以外に方法が無いと思い決行し、成功したのでありますから、
いま何も悔いる処はありません」山口ニ矢