まず、2018年のこの過去記事を再掲載するので、読んでいただけまいか。
少しばかり、仕事のような義務感を感じつつ、まとめてる。
幸村誠「ヴィンランド・サガ」アニメ化〜作者含む感想と反響 - Togetter https://togetter.com/li/1210384
一大の快事なり。海外独占配信をAmazonが行うそうで、北欧やイングランドの人に見てもらうのも楽しみ(ニンジャスレイヤー的需要をされるかもしれんがね…) / “幸村誠「ヴィンランド・サガ」アニメ化〜作者含む感想と反響 - Tog…” https://t.co/WAK5iEIt3l
— gryphon(まとめ用RT多) (@gryphonjapan) 2018年3月20日
Amazonで世界配信というのがすごいことで…
実はこの作品、単行本の何巻だったかは忘れたが 折り返しカバーに書く作者のコメントの中で「北欧のテレビ局がこの作品の取材に来た」と報告されてるのを読んだことがある。
それは、日本人が「〇〇国でサムライや忍者を主人公にしたドラマ(漫画)が人気作品になっている」と紹介されれば興味を持つに決まっているので、それと同様だろう。
そして…細部の描写はたぶん当事者の国々の国民から見れば違和感も多々あると思うが(笑)、それでも日本国が漫画を海外に送り出すとすればヴィンランドサガはイチローやダルビッシュが 行くようなもんでね、こちらとしても自信を持って送り出すことができる。
まあメジャーリーグで例えると、満を持して送り込んだがうまくいかなかった例も多々あるんだけど(笑)
ところで…、その話とはまったく関係なく『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』という本を読んでいたのですがね。
そこで「クヌート王と波」の逸話がオバマ批判に絡め紹介されてました。
本の内容としては、アメリカでしばしば左右が奇妙な一致を果たす「アメリカが世界の警察官になる必要はない」と言う議論に反駁し、アメリカは絶対に「世界の警察官」の 役目から降りてはならないと熱く論じる本である…ので、オバマ時代に書かれたこの本は当時の政権を強く批判している 。
著者の文脈としては「クヌート王が波に止まれと言っても止まらないように、世界情勢はアメリカが何かを言うだけでその通りになったりはしない」という例えとして使ってるんだけれども、 その主張の当否はさておき、こういう例えに使われるぐらい有名な逸話はではあるらしい。漫画でも印象的なあの場面、創作じゃなく有名なエピソードなんだ・・。だが!!!クヌート大王は当時の北欧人の中でも群を抜いてキリスト教への信仰が篤かった。波打ち際に玉座を運ばせて自らの力では波を止められないことを認め、「王は無力であるが神は全能の王である」と十字架に王冠を掛けたといわれる。
— Watanabe (@nabe1975) 2016年11月11日
「クヌートと波の説話」として知られる逸話である。 pic.twitter.com/YwyUsqfF3p「ヴィンランド・サガ」でのクヌート王と波の話の扱われ方は、神への態度一つとっても大きく異なっている(そも、王のキャラクター造形自体がかなりオリジナル感つよい)。
もとは敬虔なキリスト教信者だったが、むしろ、神を信じるがゆえに現実の不幸、醜さに絶望し、神を疑う。
そして「神ではなく人間の力によって楽土を作らねばならない」と決心し、その結果として歴史に名を遺す英雄王になるが、その一方で気弱な王子時代には思いもよらなかったであろう残酷な謀略、暗殺、戦争を平気で行いえるようになる…
だいたいキリスト教圏ではこれは「ステップ1」で、ここからさらに会心し、ヨブのように「神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか」となるのがゴールなのだが…なんだかんだと非キリスト教国の漫画家にて、プラネテスで哲学的思考を漫画になしえた幸村氏は、王と神への問いにどんな回答を与えるか。
まったくもって、
元ネタを知ることで作者・幸村誠氏の才能が逆に引き立つのでした。
前に一度、「印象的な悪役」を列挙するお遊びをしたことあるけど、その時ヴィンランド・サガはそういうのが多すぎて選ぶのに難儀した(笑)
だが、一人となるとクヌート王(覚醒後)だろう、と。5:【悪役列伝】「ヴィンランド・サガ」クヌート王子
— gryphon(まとめ用RT多) (@gryphonjapan) 2017年9月12日
アシュラッド、トルケルも一代の個性的悪役だが、1人に絞ると彼か。数巻に渡り「弱気で優しい坊ちゃん」を描写させ、ある事件を機に冷血の大悪役に。プロレスでは「ヒールターン」と言うが、この手は使える。
理想を持った「悪の哲学」も見事。 pic.twitter.com/BvcL2Lgr2L
以下、今回の放送が「世界配信」されてるという前提で。
ウィキペでもここにスペースを割いて説明されている。
クヌートが波を止めようとするくだりは割と有名な説話でWikipediaにも載ってる
— バジト (@t0t0_bajitofu) June 5, 2023
現代の英語圏でも例え話として用いられるらしくて、「Canute tide」とかでツイート検索してみると実例が出てくる#VINLAND_SAGA pic.twitter.com/21REQTLptb
クヌートと波の説話
クヌートと波の説話(英語:King Canute and the tide)とは、12世紀の歴史家であるヘンリー・オブ・ハンティングドンによって記された、クヌートの信心または謙遜に関する創作された逸話である。
彼は世辞を述べる臣下らに対して自然の力(迫り来る潮汐)をコントロールできないことを明示し、世俗的な力は神の全能の力の前では無力だと説明している。この逸話は、避けられない出来事の「潮流を止めようとすること」の無益さを指摘する文脈にて頻繁に暗示されているが、大抵の場合はクヌートが超自然的な力を持つと自ら信じていると偽って伝えられており、ハンティングドンの話と実際には逆のことを物語っている。
ja.wikipedia.org
「波の説話」はオリジナルがやや改変されて、本来は「部下の崇拝を抑えて神をあがめさせるためにあえてやった行為」なのに「うぬぼれたクヌートが自分が可能だと信じてやった行為」と一般に思われてるみたいだね???
有賀さつきみたいな話だ(笑)
後輩の故有賀さつきが生放送で「旧中山道」を「きゅうちゅうさんどう」と誤読しかけ、上岡龍太郎氏が「中途半端な誤読やな!どうせなら一日中やまみち」と言わんかい、と言い、それが有賀の誤読と広まったんです。本当です。
— 山中秀樹 (@yamachutitan) June 4, 2023
ただ、クヌートは一般的なイメージとしては「バイキングの冷酷非道な覇王ではあるが、一方で熱心なキリスト教信者」ということでいいようである。
それを「ひ弱で軟弱な青年が、苦境の中で『神に反逆し地上に楽土を作る。/死の間際にあなたの救いなど要らぬと、神に宣言してやる』との境地にまで至り、冷徹な覇王となった」……と、いう人物造形となった。
そこは幸村誠の天才性と言っていいし、間違いなく日本でならスルーされるんだが……ただ、いわばジャンヌ=ダルク(キリスト教)とか、サラディン(イスラム教)とか、アショカ王(仏教)的に「信仰熱心」とされた歴史上のイメージが定着してる人間を、逆に一種の無神論というか、「神への反逆者」と造形するのって、あちらの信仰篤い、クヌートのおひざ元の、アニメファンにはどう受け止められるのかね。その三つの属性を併せ持つ人がどれぐらいいるかしらんけど(笑)。
ジャンヌ=ダルクを、「自分は神など信じていないが、フランスの国益のために敢えて神の命令を受けたと演じるのだ」…まあこれぐらいならありえるのかねえ。
あ、たとえば李舜臣を、「自分は実は日本の武士道にあこがれ、彼らのようになりたいとずっと思っていた。それだけ深く日本に憧れていたから、日本軍の戦法に精通し、彼らと互角に戦うことができたのだ」みたいなキャラクターにする、みたいな想像をできるかもしれない。
どっちも日本の漫画を超えて、ご当地のファンが見た時、受け入れてくれるだろうか、それともなんらかの異論が出てくるだろうか。
実在の歴史上の人物(1000年も前だが)を、敢えてひねって一般のイメージとは別(正反対)に描く。それぐらいなら波風は立たない(波よ鎮まれ!)だが「熱心な信仰者を無神論(神への反逆者)に描く」だとどうなるかねえ。
ムハンマド関連のあれこれの反発も想起しつつ……。
ただ、救いなのはこの「ヴィンランド・サガ」を外国作品であるにも関わらず楽しく見ている視聴者なら、知的にも相当に洗練されているだろう、ということだ。
最近のヴィンランド・サガ関連ではもう一本ほど書いておきたいことあり。あとで。
追記 作者自注
ありがたいなぁ…原作をたいへん尊重してくださって。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) 2023年6月6日
出ましたねクヌートの面白いやつ。波を止めると言い張る人。このエピソード、出典がパッと出てきませんが記録に残っているんです。クヌート大王の逸話として。
実際に波を止めてみせたとか、また波は止まらず「かくも神様は偉大で自分は非力である」と言ったとか、なんだか複数のパターンがあるようです。新しいパターンをワタクシが足してしまいました。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) 2023年6月6日
エイナルとクヌート。畑(土地)の価値観が合わない。クヌートにとって土地は数字であり地図であるのに対し、エイナルにとって土地は手触りであり匂いなんだと思うんです。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) 2023年6月6日
どっちが正解ってわけでもないんでしょうが、価値観のすり合わせをしない限り二人が仲良くなることはないだろうな…と思う。
黒いマントを羽織った、しかめ顔の、お疲れ気味の王様と仲良くなるにはどうしたらいいのか。
— 幸村誠 (@makotoyukimura) 2023年6月6日
…なんにせよ、笑わせるに越したことはないと思うのです。「あの波を起こしている者は誰?」みたいな大喜利が出たらチャンスなのです。瞬間的に面白いことを言う力を普段から鍛えよう。平和のために。
ダメだボク何も思いつかない、世界平和にほど遠い!
— 幸村誠 (@makotoyukimura) 2023年6月6日