何度も 告知しましたが スカパー無料放送の「アントニオ猪木 異種格闘技戦特集」は ご覧になられたでしょうか。
自分はこれで初めて、 あの伝説の「ミスター X 戦」を 見ることができました… 聞きしにまさるね(笑)。あと解説者も プロだった(笑)
…背中に大きく「X」と書かれた空手着は、 黒帯を胸元近くやたら高い位置で結んでおり、帯の結び方すら知らない様子。これではまるで天才バカボンの着物だ。
「梶原一騎さんは当日、会場に来てリングサイドでこの試合を観戦していたんですけど、穴があったら入りたいような気分だったでしょうね。なんとか代役が奇跡的に良い試合をしてくれることを期待したけれど、 ミスター X があの格好で出てきた瞬間「これはダメだ」と思ったらしいです」
「ミスター X の正体については、 いろんな人に聞いたんですけど、結局わからなかったんですよ。それは正体を隠し通したというより、名前を言ったところで誰も知らないくらい無名だったということでしょう」
だけれども。
見方を変えれば…あの 覆面の下の男の視点から見れば、これは案外、悪くない 極上のファンタジーストーリー なんじゃないかな?
ということで以下妄想する(笑)。名前も適当に…ビリーさんとでもしておくか、あのデブの名前を
「Hey、ビリー!!!そんなへっぴり腰のパンチじゃハエも殺せないよ」
「ケッ、ガキのくせに、このジムじゃ先輩だからってでかい口を叩きやがって…でもまあ、確かに我ながらなかなか上達しないな…だからこそ空手って面白いんだけどな!」
「うん、ビリーは技術はどうあれ楽しくやってるのがいいよね」
「まーた、上から目線で言いやがって! しかし本当にそうだぜ、こうやってサンドバッグを叩いてればこの腹もいつかは引っ込むかもな、100年後ぐらいに!ガハハ」
「おい!ビリーいるか!!い、いたあ! ちょっと来てくれないか、すごく重要な話があるんだ」
「何だいトレーナーさん?」
「実はな…ちょっと前にあのモハメド・アリとミックスドマッチを戦ったジャパニーズレスラーがいただろ?実はうちのジムにいた男がな…ここだけの話、真剣勝負でなくフェイクファイトということではあるが、謎のマスクド・カラテマンとして、そのレスラー…アントニオ・イノキと戦うプランがあり、うちのジムを通じて契約も済ませていたんだ」
「ホーそりゃすごい!俺はボクシングもプロレスも大好きだし、そのイノキとアリの試合も見たよ。フェイクかリアルかは知りませんが、どちらも恐ろしく強そうでした。痛そうなキックもあったし」
「そうか…エヘン!ここからが本題なんだが…その男は確かにイノキのプロモーションと契約したんだがな、いろいろ条件の問題とかがこじれてな…男が一方的にキャンセルして失踪しちまいやがったんだ。うちとしては何としても代役を立てなきゃいけないんだが…100キロ以上の体格を持つ黒人のカラテマンとなると、そうそう該当者がいなくてな…」
「そりゃ大変ですね……なんか目が怖いんですが…」
「そこでビリー、コングラチュレーション!君に大チャンスが巡ってきたんだ」
「NONONO!!!!俺はどっからどう見ても、まだサンドバック叩き始めたばかりの素人ですよ!そんなのトレーナーが一番よく知ってるだろ!イノキは怖いよ!アリ戦でも容赦なく相手を蹴ったり肘を落としたりしてたぞ!」
「すまん・・・だがやるしかねえんだよ、今回のファイトにはジャパニーズマフィアとの繋がりが深いセンセイ・カジワラという人のコミックが関わっていて、すでにストーリーが展開されている。ここで誰もいなかったら、その先生の”フェイスが潰れる”らしいんだよ。そうするとどうなると思う…俺たちの小指はペナルティとしてカットされるのさ。頼む助けると思って」
「いやだよ、死ぬよ」
「…大丈夫だってそこは心配するな、オールOKだ……ここだけの話、ミスター・イノキはファイターでもあるが、グレートアクターでもあるんだ。『俺はブルームスティック(ほうき)が相手でもいい試合ができる』、と豪語してるぐらいでな。だから、実際のリングでは、お前は何もしなくてもミスター・イノキがうまいことやってくれるから何の心配もいらない。ちょっと死ぬほど痛いくらいだ」
「だから、いやだあああ!!!!」
そんなふうに泣きわめきながら、脅しすかしでいやいやとリングに立ったビリーだったが……
ミスターX 四角いジャングル そこで待っていたのは1万人の観客の熱狂と熱視線!
荘厳に流れる、米国国歌の吹奏。
もちろん結果としては、伝説として語り継がれるズンドコ試合になったわけだけど、それでもイノキのコントロールによって、一応形にはなった。
ミスターX四角いジャングル 何を言われるかと思ったが、とりあえず試合が成立して払い戻しもしなくて済んだからプロモーションの人たちは、俺の立場も分かってくれていて感謝こそされ、…内心はどうあれ………怒られることもなかった。
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その後米国に戻った俺は、普通にサンドバッグを叩くのが趣味の…ちっともスキルは上達しないが…平凡な1人のデブに戻った(アメリカではこれぐらいの体型は珍しくないし)。
その後、自分が戦った猪木についてのニュースなどはやっぱり気になるようになってきた。
インターネットの普及のおかげで太平洋を隔てたアジアの国の資料もすぐ読めるようになると、俺がリングの上で向かい合った男がいかにあの国でスーパースターであり、その後ステイツマンになるほどのカリスマと知名度を持った男であったか…それが、わかるようになった。
俺は、とんでもなくすごい体験をしたのかもしれない…。
ちょっと酒の席で自慢したりもするが、残念なことにあの時忌々しいマスクをかぶったから、「お前が、1万人の観客の前でプロレスラーと戦った?そんなわけがないだろ!とんでもないホラを吹くな!」と大笑いされるだけのようだ。
まあ確かに我ながらあれは夢だったんじゃないか、と時々疑うような不思議な体験だった。
そして昨年、そのファンタジーな1日を俺に与えてくれた顎の長いジャパニーズが亡くなった、というニュースもインターネットで見ることになった。
俺はアメリカの片隅で、あなたと戦った試合を思い出にしながら、まだ何とか元気にやってるよ!貴方は俺のことを、ほんのちょっとでも覚えてくれていたかい・・・・?
(了)
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