これから、文章を書こうと思ったのだが、「そういえば、この本に記述される前の『通説』とは、どんな違いがあるのだろうか?」と思って、それ以前のプロフィールと比較するためにウィキペディアに飛んだところ…
いきなり
経歴
新潮社2021年2/25発刊「純情 梶原一騎正伝」を書いた小島一志によると…
(後略、実際にリンク先へジャンプありたい)
に、なっている。
それでは、もう不要かという話になって、大幅に軌道修正する。またここでも記述は略するので適宜、上記ウィキペディアをご覧いただきたい(2021年3月5日、午前1時半時点の記述である。今後変更があるかもしれないので注意…というか、断言調になっている記述を、今さっき自分が、このブログ記事の主旨に沿って追加変更した)
感想を述べる。
この話は、森達也が書きかけたが、内容的には未完成、結論が出ずに終わったグレート東郷伝の記述と共通している部分がある。
悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷 (岩波新書 新赤版 (982))
- 作者:森 達也
- 発売日: 2005/11/18
- メディア: 新書
もう15年も前に、この話を自分は書評で引用、紹介してたわ。
…森氏があたためているという「グレート東郷」についてのドキュメンタリーの骨子だ。
実は、ほぼ同じ内容の漫画を流智美さん原作、画は「Dr.コトー」が大当りした山田貴敏で、6年ほど前に「ビッグコミック」上で読んだ記憶があるのですよ。
ネタバレすると、グレート東郷が、マス大山が憤激するほど「国辱」的である、”悪くて卑怯な日本人”を演じたのは、母親が中国系で日系社会から差別されたための復讐だったというストーリーなのだが…(略)流智美に勝るとも劣らないプロレスの虚実の語り部、桜井康雄氏にも森氏は取材している。
「ああそれ。よく間違えられる方がいるんですよ」
「真実ではない?」
「違います。僕は東郷のことはよく知ってますから」
「グレート東郷も一時期、異国情緒を出すためにリングコスチュームとして中国服を着ていたこともあるんですよ。そういった情報が錯綜して、中国系と言われたんじゃないかと思いますけどね。彼は日本語をしゃべると、熊本弁が出ましたよ。」
さらに森は取材を続ける。国際プロレスで接点があったグレート草津。「(グレート東郷は)韓国だよ」
「・・・でも、彼も熊本ですよね。父親は熊本からの移民ですよ」
「だから移民で来たけど、韓国籍だよ」
(略)
「だから、俺は韓国だよって言ったんだよ」
「サラリと?」
「そう、サラリと。俺はコリアだよって」
斉藤文彦(オールスター・キャストだなあ)経由でアメリカのマニア情報。「母親の名はハツであると書いています」
ということで、梶原一騎より一回り以上年上のグレート東郷の民族的出自ですら謎に包まれておるほか、今回の「梶原一騎正伝」に似たような神話、謎部分も多い……。
逆に、これ以降の、そして日本での知名度は比較にならぬほどの人物で、弟がご存命である人物の戸籍関係ですら曖昧であるというのは一種の驚きだ。
そもそも、ウィキペディアにも引用された記述に関して、「そうである」と証言・主張する人と、「違う」と証言・主張する人、関係者の間でも二つに分かれているのだ。
そうである、という人。
横溝玄象(大山倍達からの伝聞としている)、黒崎健時、中村忠、芦原英幸、郷田勇三、向井谷匡史。
それを否定する人。
新間寿、佐山聡、毛利正司、松井章圭・・・・
どっち側の発言が、事実関係をめぐって信用に値するかは…「諸説あります」とか言えねえやな!!!
けっきょく筆者も「断定することはできない」と結論づけている。(同書100P)
※以上のことを、最初は書かれていなかったウィキペディア記事に盛り込んだ。これが更にどう編集されるかはわからん
だが!!!
この「梶原一騎正伝」の「第3章 89P-105P」に至る記述を踏まえると、梶原原作のある作品群の描写が、にわかに違って見えてくるのである。
読んだ当時でもそう思ったが、傑作「男の星座」のなかでも非常に重く、また考えさせる場面であり、つよく印象付けられる。
なにしろ上の画像、いつかブログで語ろうと思ってページを開いてパシャっと画像を撮ったのが2012年だったし・・・・・・・・・。やっと実現した
しかし、この場面は対象が「力道山」であっても、重く厳粛な場面だが………今回の「梶原一騎正伝」で「断定はできない」ものの「説」として明確に問われた梶原一騎のルーツ、系譜と併せて見ると・・・・・・・・
「書いた本人がそんなバックグラウンドを持っていたとしたら、それなのに、なお力道山についてこんな場面を描くだろうか?」
と思ったりするのである。ちなみに、場面としては出来過ぎていて、「実際に梶原一騎が、こんなやりとりを戦後の酒場でしたからこう書いただけ」とは、チト思えないのでその説は除外する(笑)
ただ…その逆に
「書いた本人がそんなバックグラウンドを持っているとしたら、『だからこそ』、力道山とそれに複雑な思いを抱く同胞…というシチュエーションに或る種の『仮託』をして、こんな場面を描いたのだ」
と言われれば………またそれも、あり得るかもしれない、と思ってしまう。
けっきょくこのエピソードでは、そんな複雑な心情を胸に秘めつつリングで精いっぱいの自己表現をする「力さん」を、さらに梶原一騎…じゃないや梶一太は尊敬し、愛情を持つようになるのだ…。
そもそも、グレート東郷に関してだってね「日系人でありながら、悪役というよりやられ役として人気を取り稼いでいるのは日本の恥だ」
という部分を強調して、「空手バカ一代」でも「男の星座」でも描かれている。
それも、「大山倍達がそう批判していた」という形式を借りて…男の星座に至っては「最後にやられる時に『テンノーヘイカバンザイ!』と叫ぶのだけは耐えられなかった。私も元特攻隊員ですから」と大山倍達に言わせてるんですぜ。
(※大山が元特攻隊だということ自体が、事実ではない。詳しくは下のリンクを参照)
m-dojo.hatenadiary.com
まあこの場合、フィクション部分はどことどこで、そのフィクションの発信元は梶原一騎なのかグレート東郷(プロレス神話)なのか、大山倍達なのか、もはや説明できん(笑)
そして梶原一騎の「虚構にリアルの幻想をまぶす」手腕は冴えわたり…なにしろ、「男の星座」の父親の描写、自分はもちろん、フィクション混じりだとは思っていたが「あそこまで書いているなら、少なくとも……の部分と、……の部分は事実なんだろう」と思った部分が、もーぜんぜんね……
そんなマジックによって、いよいよ「梶原一騎迷宮」は複雑さを増すのである…
またこの話を広げていけば、梶原原作・矢口高雄作画による「おとこ道」が、戦後混乱期の描写に対して民族問題のクレームがついた騒動(と、その収束)も関係してくる可能性が高いのだが、今回の本には詳しい記述はない。
mangapedia.com
その件についてはむしろ斎藤貴男氏の「梶原一騎伝 夕焼けを見ていた男」のほうが何倍も詳しいが、斎藤氏は当然、小島氏が書いたような高森家のあれこれについては前提を置いていないので、それに絡めたことは全く書かれていない。
- 作者:斎藤 貴男
- 発売日: 2005/08/03
- メディア: 文庫
※この回おわり。同書についてはまた書きたい部分もあるが、たぶん明日以降、この本は貸し出しの旅に出るので紹介の続編は未定。