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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

朝鮮総連、JRの妖怪、後藤田正晴…「2016年の週刊文春」に登場する”敵”が強すぎる

この前紹介した、この本について再度。
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2016年の週刊文春

2016年の週刊文春

  • 作者:柳澤健
  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 単行本
いま、日本で最も恐れられる雑誌と、
愚直な男たちの物語――。

花田紀凱と新谷学。ふたりの名編集長を軸に、昭和、平成、令和の週刊誌とスクープの現場を描く痛快無比のノンフィクション。

◎目次◎
序 章 編集長への処分
第一章 会えば元気になる男
第二章 週刊誌記者
第三章 疑惑の銃弾
第四章 花田週刊
第五章 マルコポーロ事件
第六章 殺しの軍団
第七章 二〇一六年の『週刊文春
最終章 文春オンライン
あとがきにかえて――二〇二〇年の『週刊文春

この本、表題は表題として(笑)菊池寛による文芸春秋創刊から描かれる、トータルの文春の物語であることは前に述べた通り。
で、文春の報道を扱う以上、それに対するリアクション、要は抗議や妨害についてもいろいろ書かれている。いくつかは「そりゃ怒られるわな」、ってのもあるんだけど(笑)、理不尽な抗議妨害も数多い。
ただ、出てくるメンツが、全盛期のPRIDE-GPか、ジャイアント馬場が本気出したチャンピオンカーニバルを越える「グランド・チャンピオン・カーニバル」かってぐらい豪華なんだよな。

後藤田”最強官房長官”正晴

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後藤田正晴の「言論弾圧未遂事件」

いきなりラスボスやん。後年、文芸春秋でも関連書籍が多数出たりして必ずしも関係が悪かったわけじゃないけど、実はこんな剣呑な状況があったのだ。

ガラ刷りが編集部に届いてまもない九月三日、堤堯編集長のところに内閣官房長官から電話があった。 当時の文藝春秋にダイヤルインはなく、社内用の直通電話以外はすべて交換が受けていた。 《交換嬢が言う。 「ゴトウダさんからです」 「どこのゴトウダ?」
内閣官房長官後藤田正晴さんと名乗っていらっしゃいます」
おいでなすったかと電話に出る。
「エー、後藤田ですがね、ナニか藤尾さんがオタクにエライことをしゃべりよったらしい」
「いや、たいしたことはありませんよ」
「それについてだね、外務省がエラク心配しとる。アジア局長の藤田がそちらに伺いますが、ひとつ話 を聞いてやってくれませんか」 「結構ですよ」
という次第で、ほどなく藤田某(引用者注・藤田公郎のこと)が来社した。見ればガラ刷りを手にし ている。
「あんた、それ、どこから手に入れたんですか」

この「後藤田密使」は、実にダイレクトに
「何とか掲載を取りやめていただけませんか」
「どうしても掲載するなら問題の個所をスミで消して…」(そっちのほうが目立つがな!!)


とか、はい言論弾圧、アウト―!!
な要求に及ぶ。要求だけならともかく、

「何と言われても、是非ともお願いしたいんです。土下座しろと言われれば、これ、この通り土下座もいたします」

ほんとうにやった!らしい。外務省の局長といえば、交渉事、ネゴシエーションのプロやろ?それがジャパニーズDOGEZA???こんなんで国際交渉してたの?
あんのじょう、これはドゲザ損。何の意味もなかったし…

どげせん コミック 全3巻完結セット (ニチブンコミックス)

どげせん コミック 全3巻完結セット (ニチブンコミックス)

  • 作者:RIN
  • 発売日: 2011/11/28
  • メディア: コミック


後藤田正晴といえば、後年は筑紫哲也のニュース番組などにも何度も登場(筑紫哲也編集長時代の、朝日ジャーナルの後藤田評をふくめた論調とか言ってやるなよ…)し、自民党ハト派の理想的に伝説化し扱われている。

だけれども、ハト派ハト派だけど、実のところその根っこにあるのは、「戦前の旧内務官僚の立場から」、軍部の横暴と対立したバックボーンであり、ゆえに「平和のためには、民を管理し支配しコントロールしなければならない。民主主義は我々(内務省エリート的な存在)によって管理することが暴走を抑えるのだ」みたいなものがあったのであろうと思う。そういう点で、ある意味でまことにリベラルの正反対であった。

公平を期していうなら、ちょうのつく子供心に、藤尾正行の発言や思想を報道で見た(あとでこの文章自体も読んだはずだ)けど、実にどうにもレベルが低い、自民党の中でも「溶岩石のように凝り固まったアタマ!」の時代錯誤な放言であり、論ずるに足らぬ低レベルの、まさにどこに出しても妄言な妄言だった。
だが、だからこそ、「質の高い言論や表現は何もしないでも守られることが多い。そうでない言論や表現がどこまで守られるかが自由の試金石だ」というセオリーに、見事なまでに合致した一件であった。

おどろくべきことに、藤尾発言はたしかに大問題になり彼は文部大臣(当時)を罷免され、当時の中曽根康弘内閣も野党と言論機関から多くの批判にさらされたけど、明々白々な証拠があり、当事者から公式の抗議も来ていたこの「言論弾圧」は、みごとにスルーされ、最強官房長官の首はちーとも寒くならなかった。
まあ人呼んで「日本のフーシェ」、後藤田氏は当時のメディアを完全にコントロールしていた、とも言われる。野中広務菅義偉も、彼に比べりゃひよこ同然なのであった。そして今では「保守ハト派の理想」のアイコンなんだから、ねえ…


朝鮮総連

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2016年の週刊文春 朝鮮総連の組織的抗議

……朝鮮総連の猛烈な抗議については松井清人が語ってくれた。 「パチンコ疑惑の第一弾が出た直後から、堰を切ったように文春に抗議にきた。当時の朝鮮総連は強硬だったからみんなが震え上がっていた。支部ごとに五、六人ずつがチームを作り、毎日毎日、朝の10時から夕方の五時まで三〇分おきに交替で抗議にくる。一二時から一時はきっちり休むんだよ(笑)。 (抗議の) 内容は全部同じで、罵声というか、怒鳴り声でガンガンやる。それが一カ月続いたんだ。
抗議に対応したのは花田さん。全部ひとりで相手をした。担当デスクは俺だったから『お疲れでしょう、代わりましょうか?』と言ったんだけど、花田さんは『いや、自分でやる。君たちは絶対に前に出さない』って。
花田さんも最初のうちは元気だったけど、一週間もするとグッタリしちゃった。五時になってようや く総運が引き揚げると、花田さんはテレビの前の大きな机に座って、大量にくる郵便物を開封し…(略)


「抗議がじゃんじゃかと寄せられる。それは言論の自由の侵害か」という話、以前木村草太氏などの論考を引いて紹介考察したが、
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しかしあきらかに組織的で、ほぼ同一の内容を、罵声、怒鳴り声でずっと、連続するようにスケジュールを立てて……だと、上の問いをするまでもなく明らかではないか。
それがかつての武闘派集団にして、主体思想を信奉し、金王朝三代の全体主義体制の下部組織として絶対の忠誠を誓い続ける「朝鮮総連」の、全盛期の力と方針であった。
そりゃ、文芸春秋社にすらこれだけ組織的な攻撃を加えるんだから「身内の裏切り者」に対しては、集会ぐらい直接乗り込んでぶっつぶすわな。
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しかし、そうであっても、腐敗した資本主義の毒が回った面もあるようで、「一二時から一時はきっちり休むんだよ(笑)」だってさ。
千里馬運動の精神はどこへ行ったっ。苦難の行軍を経て、100日戦争にウリ式社会主義で勝利しなければなりませんっ。


松崎”JRの妖怪”明

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2016年の週刊文春 vs松崎明

東労組の "ドン" 松崎明が組合費で買った「ハワイ豪華別荘」》(二〇〇五年一二月二二日号)は、 「週刊文春」にとっても特別な記事だ。 一九九四年六月に『週刊文春』が〈JR東日本に巣くう妖怪〉を連載したことは第五章で触れた。 世界最大級の公共交通機関JR東日本の最大の労働組合革マル派が支配し、JR東日本の経営権に まで介入しているという記事の内容は概ね正しかったが、JR東日本は管内にあるキヨスクにおける 『週刊文春』の販売を拒否するという前代未聞の言論弾圧を行う。雑誌販売の生命線ともいうべき流通 を約一カ月半にわたって断たれた結果、『週刊文春』は三分の二ページ大という異例の大きさでJR東 日本への謝罪広告を掲載した。全面降伏である。以後、JR東日本革マル問題はメディアにとってタ ブーとなってしまった。
それから一一年が過ぎた二〇〇五年、『週刊文春』はタブーに挑戦しようとしていた。 「二〇〇三年秋くらいに、JR東労組を牛耳る松崎明が組合費を横領してハワイに別荘を買ったという 話が入ってきた。極左革マルのくせにアメリカに別荘買うたんか。反帝(反帝国主義)でも、反スタ (反スターリン主義)でもあらへんやんけ、と呆れましたわ(笑)。JR関係者の中に、東日本の労組を 何とかしないといけないという危機感を持つ人物がいて、情報を提供してくれたんです。 ただ、ガサ(家宅捜索)が入らない限り我々は動けなかった…(後略)」※西岡研介氏のコメント

上にちょっと触れられているが、文春にとっては実はJRとJR労組に一度「敗北」したあとのリベンジマッチなのである。
JR労組の”鬼の松崎”は、当時巨大販売網であるキヨスクと組んでものすごいパワーを持ち、文春が戦った時も、他メディアからの「援護射撃」は皆無。もと読売の精鋭「黒田軍団」の敏腕記者であり、弱者の味方然としていまもテレビの露出が多い、大谷昭宏氏が「(JR対文春は)強者同士の戦いだから興味を惹かれない」と洞ヶ峠を決め込んでいたの(週刊宝石の連載コラムだったと記憶している)は、なるほど賢明な保身やな、と当時読んで思ったのでありました。JRのパワーはなにも別に組合=左派の影響力ではなく、のちに財界の重鎮となる東日本の松田昌士社長(当時)は、文春は「わが駅では永久に販売しない」と言い放ったりしたのである。松崎氏、大きいところから本を出したりしているし。

復讐戦も「警察のガサが入るまでは動けなかった」というから、文春にしては慎重にすぎるほど慎重だったということだ。というかこのハワイの別荘にまつわる単発記事のあと、西岡氏の企画取材した「マングローブ」は文春で採用されず、「週刊現代」に移って、やっと日の目を見る。文春ですら勝ちきれなかったのがJRの妖怪、ともいえるし、「オール週刊誌」で巨大な敵を倒した、ともいえるだろう。
暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

  • 作者:牧 久
  • 発売日: 2019/04/23
  • メディア: 単行本
トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉

トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉

そして西岡研介氏は、神戸新聞を経て「噂の真相」に入った記者で、その縁でウワシン界隈との人脈が強いのだが、このJR記事を取材し書いていくと「公安情報で記事を書いている!」「権力の手先になった!」とかつての仲間からたいそう批判されたとか。

「噂の眞相」トップ屋稼業 (河出文庫)

「噂の眞相」トップ屋稼業 (河出文庫)

こうやって見ると、日本において総理大臣が一番強くてタブーで…とはならない。むしろ、総理…時の政権と闘う、対立する中間集団こそ、強固なタブーや鉄のカーテンが敷かれていたりする。
実はみんな、このへんのことは分かり切ってる話ではあるんだが、それすら”可視化”しにくいカーテンもあるので、いちおう。


そんなわけで、この本は登場する「敵役」もまあ超大物がそろっていて、そちらを見ても楽しめる、ということでした。