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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「女王陛下の議会」開幕・・・歴史と伝統と儀礼と

11月17日の産経新聞に、ロンドン特派員・蔭山実の筆による「明解要解」というコーナーがあった。
英議会は例年11月、1年にわたる国会(つまり通年国会だ)は始まるが、最初に行われるのは上院での(←伏線)「女王演説」なんだそうだ。

戴冠式で使う王冠にローブをつけた女王は「私の政府は」という主語で、さまざまな政策、施政方針を演説する。
だが、これは全部「政府の施政方針」なのであり、女王はただの代読者なのだ。

これは何かというと、歴史の教科書にあるとおり、もともと在った国王の権利を、議会が血みどろの抗争と合従連衡の末に奪い取ったがゆえに、王は形骸としての儀礼を残している、のであるんだそうだ。
英国王は名目上、今でも国家元首・政府の長・全軍最高司令官・・・であるという。

この記事では、他にもいろんな逸話がある。

演説場所にもいわれがある。1642年に議員を捕らえようと下院に入ったチャールズ一世を議長が追い返したことがあって依頼、国王は一度も下院には足を踏み入れられないでおり、それもあって上院なのだ。
演説に際しては、上院「黒杖官」がその官名の由来となった黒い杖で下院の扉をたたいて初めて議員が扉を開けて上院に赴いたとの逸話が忠実に再現される。


ここからいくつか。
私は、以前「天皇」とか「英国王」とか言うより「王権」という抽象的な概念から見たほうが良く見えるものがある、といっていた(http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051126#p5)けど、日本の天皇が明治以来ちょっと特異な形で日本の中心に復帰したことがあり、英国のほうが国王と議会=特権階級の抗争と相互牽制という部分がむき出しになっていて面白い。
そして、儀礼というのは無意味で非合理的だが、こういうものを残しているとやはり歴史とその本質を考えるよすがとなるのだ。

王権対・・・ということだと、「MASTERキートン」のエピソードを思い出す。
ロンドンシティで「王室御用達」をうたうアイスクリーム屋があり、実際にすごく美味しいんだが、「でも、ロンドンシティは(自治都市なので)王族は立ち入り不許可だよな・・・」ってことでホラがばれるという、ちょっとシャレたエピソードがあったでしょう。そのオチも、たいへん後味がいい。

はい、現在は絶版です。理由はこの日記を検索せよ。


あと、自分も下院議員経験者でかつ受刑服役者でもあるジェフリー・アーチャー

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いう本を書いていて、ドラマ化もされている。
この中で、うだつの上がらない万年一匹狼議員が「議長」・・・を壇上に引きずっていくという、最初にして最後の議会での晴れ舞台を得るという場面がある。

なんでも、英国では議長が上の、国王との抗争で何人も処刑されているので「だれもやりたがらない職で、無理やりやらせている」という故事来歴を象徴するために、こういう風に誰かが新議長を議長席に引っ張っていくそうな。

面白いね。


あと、たしか英国国王には長ったらしい正式称号があったはずだ、と思い出し検索してみました。
ウィィペディア(←タイプしにくいなこれ)

イギリスにおける正式称号
Her Majesty Elizabeth the Second, By the Grace of God of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and of Her Other Realms and Territories Queen, Head of the Commonwealth, Defender of the Faith



(英国における称号。直訳は『神の恩寵において、グレートブリテン島およびアイルランド島北部の連合王国ならびにその他の王国・領土の女王、英連邦の元首、信仰の擁護者にあらせられるエリザベス2世陛下』。「信仰の守護者」はマルティン・ルターに反対したヘンリー8世に対し、ローマ教皇レオ10世から与えられた称号。1534年の国王至上法によりイギリス国教会首長の称号となる)


もちろん、こういうことをちょっと知っておくと2006年の収穫

ヴィンランド・サガ(3) (アフタヌーンKC)

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がより楽しめる、というのは言わずもがな。