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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

英国女王陛下、スコットランド独立投票で「慎重に」と発言。立憲君主の「ほのめかし」はどこまで可能?

「将来を慎重に考えて」 英女王が異例発言
9月16日 5時54分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140916/k10014617051000.html


イギリス北部のスコットランド独立の賛否を問う住民投票を前に、エリザベス女王が「人々は将来のことを慎重に考えてほしい」という発言をし、ふだんは政治的な問題には関わらない女王による異例の発言として注目されています。

この発言は、エリザベス女王が14日、スコットランド北東部の教会で日曜の礼拝に出席したあと、訪れていた人々に対して述べたものです。この中でエリザベス女王は、スコットランドで行われる住民投票に関連して、「人々は将来のことをとても慎重に考えてほしいと思います」と発言しました。
エリザベス女王は中立の立場を取らなければならないため、政治的な問題に関する発言をするのは極めて異例で、15日付のイギリスの新聞各紙は「女王がスコットランド独立の議論に介入した」などと伝えています。このうち、有力紙デーリーテレグラフ「女王は独立に反対であるというサインだ」と伝えるなど、王室の政治的な中立性を損ねることなく反対派の支持を暗に表明する発言だという受け止めが広がっています。

「円卓騎士団を召集しました」とかだったら完全に脅しだものな(笑)
女王陛下…いや今回は正式にお呼びしよう。
『神の恩寵において、グレートブリテン島およびアイルランド島北部の連合王国ならびにその他の王国・領土の女王、英連邦の元首、信仰の擁護者にあらせられるエリザベス2世陛下』Her Majesty Elizabeth the Second, By the Grace of God of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and of Her Other Realms and Territories Queen, Head of the Commonwealth, Defender of the Faith


がですね、「慎重に」と勅語を発せられた以上、万金の重みアリ。臣民よそれによく服せ。


これではない。

下士官兵ニ告グ
一、今カラデモ遲クナイカラ原隊ニ歸レ
二、抵抗スル者ハ全部逆賊デアルカラ射殺スル
三、オ前達ノ父母兄弟ハ國賊トナルノデ皆泣イテオルゾ
    二月二十九日   戒嚴司令部

これでもない。
 
…というか王vs反乱軍で歴史ネタをひっぱると混乱して本題にいかないので困るし、っそもそも死者も出さずに平穏かつフェアにすすんだこの投票に失礼だ。
あおれはとりあえず封印して、前に進みますです。


そもそも英国王や王族はどの程度まで政治に関わるのか。
以前のこのブログの記事から・・・

ジェフリー・アーチャーの「目指せダウニング街10番地」はたしか、聞くところによると2バージョンある。
これは基本的に若手のダブル、トリプル主人公で始まり、途中で脱落するものも出て最後は保守党・労働党それぞれの党首になったどちらが首相になるか?で引っ張る形。
んでクライマックスは、選挙の議席が全くこの二大政党で同数になる、さあどうなる?という展開。
このとき、イギリス(本国)版では「最後は国王がどっちを首相にするか決める」という決着だったんだよ。これが日本版に翻訳されたんじゃないかな、俺が読んだんだから。

めざせダウニング街10番地 (新潮文庫)

めざせダウニング街10番地 (新潮文庫)

そして、アメリカ版?もしくはドラマ化されたとき?は、これが脚色だか修正され「アイルランドだかスコットランド地域政党の党首が、どちらと連立を組むかで決まる」というお話になっていた・・・はずだ。

http://b.showa.cc/2/01.html
めざせダウニング街10番地 ジェフリー・アーチャー新潮文庫 270円(税込)
1985/10 イギリス首相の椅子を目指し、熱い戦いを続ける三人の同期生議員たち。そして1991年、新国王チャールズが選んだ人物は・・・。

いや、自分が最初に翻訳を読んだときも「えっ、いくら議席が同数だからって国王(設定では既にチャールズになっている)が首相を決めていいの?」と子供心にびびったから、強く印象に残っているんだよね。
しかしまあ、ニンジャが現在の日本で暴れている作品が海外で作られた、というのとは違い、政治家でもあった著者が英国で出版する小説でそういう設定が出たんだから、あり得ないことではないんだろうな。

たぶん、英国らしく、王族の政治的中立性というのも「長年の慣習」によって決まったもので、明文で厳密なものではないのだろう。チャールズは「歴史的な景観、建造物を残そう!」という運動に熱心だが、これもまた都市計画などに関係しているので、政治と一部はかぶってしまい、建築家から「カ、カテエ…まるで溶岩石のように凝り固まった皇太子のアタマ!」(元ネタ気にしないように)と批判を受けたりはしました。


そしてベルギーとかスペインとか。
「道の国」で有名なベルギーですが(これも元ネタ気にしないで!)、そして血と太陽の王国スペインでは、イギリスの話はひとごとではない。
メモってしておくもんだね。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130118/p4

ベルギーとスペインで国王が「独立派」を牽制。政治介入するなと反発も受ける

朝日新聞2013.01.15.より要約。
ベルギー国王が昨年末「ポピュリストが国内の別の地域に経済危機の罪を負わせようとしている」「1930年代のポピュリストの行動を忘れてはならない」と発言
これの対象と目された、北部独立志向の「新フランドル同盟」は
「国王は一切政治に関わるな!!」

スペイン国王は新年インタビューで「極端な見方を持ったものたちによって分離主義が導かれている」
バスクカタルーニャから
「選ばれているわけでもない国王に、独立に向けた努力を非難されるいわれは無い」

ちなみに既に2014年に独立の是非を問う住民投票がある英国のスコットランド独立党は党首が「スコットランドが独立しても、英国王にスコットランド国王を兼ねてほしい」と発言、党内外で「いや、それも住民投票だ」との意見が出たとか
うん、ヨーロッパの記事見ると、えっ国王がこんなに政治に関われるの?と思うことあるもんな。

ベルギーのお話。

国家元首である国王は、立法権連邦議会と共に行使し、行政執行権を憲法に基づき行使する。1990年に妊娠中絶が合法化される際に、当時の国王ボードゥアン1世は自身の信念に基づき中絶法案への署名を拒否したが、一時的に国王を「統治不能」状態として内閣が代行する事により、立憲君主制の原則を守ったという出来事があった。

まあ立憲君主にはたぶん「グレーゾーン」があるんでしょうね。

なんだかんだと、思うに…。
結局「象徴」を生身の人間にしょわせるというムリをさせている立憲君主制(この言葉を日本に適用するのも議論があるとこだが、そこは流して)。
だいたい、馬上天下を取った武人王や、天の言葉を伝える神聖王をば、近代国家の制度に無理やり合わせたのが立憲君主制なのですから、ある程度のグレーゾーンが出てくるのはしょうがないところ。


象徴の「政治的に微妙な発言」を完全にゼロにしたいのなら、高師直の言葉を実行するしかない。

「都ニ王ト云人在シテ、許多ノ所領ヲフサゲ、内裏・院御所ト云所ノ有テ、馬ヨリ下ルムツカシサヨ、若王ナクテ叶フマジキ道理アラバ、木ヲ以テ作ルカ金ヲ以テ 鋳カシテ、生キタル院・国王ヲバ何方ヘモ流シ捨奉ラバヤ」

都には天皇という人がいて内裏や御所があり、その前を通るのにいちいち馬を下りるのは面倒な。いっそ木か金で天皇を作って生ている院(上皇)、国王(天皇)を何処へか皆流して捨てしまえば良い…


高師直(談)

(もっとも、作中でもこの発言は讒言の中で出てきたものであることに注意)


それに何より、例えばどこの王族でも「政治的に中立な活動」として自然保護、障害者福祉、スポーツ振興、教育の充実、災害地へのお見舞…などに熱心なのだが、案外というかなんというか、それこそが実は政治と表裏一体だったりする。また諸外国の大統領など、国の代表兼政治的存在と会い、会話する時はその「会った会わなかった」や「XXの話題に”一切触れなかった”」ということにすら政治的意味が発生する。
ほんとうにタフでデリケートな商売です、立憲君主って。



だから今回の
「人々は将来のことをとても慎重に考えてほしいと思います」
という”勅語”が政治的な発言としてセーフなのかアウトなのかは、その国の民衆からの賛同・批判などによって柔軟に決まっていくしかないのだろう。


だが、わが日本では、象徴天皇に対して
「政治的意見を、直接的な言葉ではない範囲でもっと表明してほしい、いやすでに表明されておられる。それは大歓迎です、うれしいなー」という勢力がいま急激に増えている、というふうに見受けられるのであります。
 
だからあたくし、最初に引用したNHKニュースでもこういうブクマをつけた。

gryphon 最近「陛下はリベラルであらせられることが、あの言葉やあの振る舞いから察せられる。タカ派の首相をお嫌いであらせられるはずだ」と肯定的に語る言説をよく聞く国があるけどなあ(笑)

この文章を書いたとき、僕はとびきりの笑顔。ニマニマしながらキーボードを叩いておりました(笑)。


いちおー例示しまね。

平川克美 ‏@hirakawamaru 12月26日
日銀や、NHKをはじめとするメディアは、人事介入でコントロールできると考えている安倍首相にとって、憲法遵守と平和主義の天皇陛下と、自国益第一のアメリカだけはコントロールできないやっかいな存在になりつつある。
 
内田樹認証済みアカウント ‏@levinassien
@hirakawamaru ほんとだね。安倍首相にとって国内最大の政治的ハードルは天皇でしょう。首相の「愛国的ポーズ」に対する嫌悪感を天皇陛下はもう隠していませんか

これなんかまさに逃れぬ証拠、スモーキン・ガンだがな。
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.47news.jp/CN/201402/CN2014022201002334.html
 

 「山本(※太郎)さんほど直情径行ではないにせよ、天皇に対する信頼がいま、僕も含め、左派リベラルの間で深まっていると思います」
「(略)…明らかに天皇は一定の意思を示していて、追い詰められるばかりの左にとって最後の希望のような存在になってしまっている。倒錯しています。でも白状すると、その心性は僕にもあります」
http://digital.asahi.com/articles/TKY201311260611.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201311260611
森達也

それに対して”平成の高師直八木秀次が批判するというすごさ
URL http://www.fujisan.co.jp/product/1482/b/1067196/#conetnts_area
引用:
目次
新連載、一挙スタート!
巻頭コラム フロントアベニュー
河野談話」見直しを阻む真の壁  ジャーナリスト 東谷暁
憲法巡る両陛下ご発言公表への違和感  麗澤大学教授 八木秀次