「図書館の大魔術師」という作品があるのは知っていて、図書館ものというジャンルは嫌いではないが、何かまた”おなじみの異世界”っぽい感じもあり「まあ、いつか機会があったら読もうか」ぐらいに思っていました。
掲載誌(goodアフタヌーン)は、自分の加入しているサブスク(コミックDAYS)に載っているというのに。
ところが、たまたま…でもない、これまたちょっとお気に入りの「半助食物帖」が最終回を迎えるというので、そこだけでも読んでおこうと思ったついでに、周辺作品もたまたま読んだのです。
そしてちょうど、今読める三冊分(good!アフタヌーン 2021年7~9号)収録の「図書館の~」第30~32話が、タイトルに挙げたテーマが論じられる、ちょうど区切りのいい展開だった…というわけ。
ああ、いま講談社は個別に作品をネットで有料で読める仕組みを拡大していたね。
この、30と31話は有料だけど個別に読めるわ。
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さて、
ここではどんなテーマが語られているか…を論じる前に、物語の舞台設定を把握しておかねばならない。
ええと、第一話が公開中だ。
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あれ?第一話、自分の把握してるのと違う……なんか、「異世界の図書館もの」で、別の作品の何かと勘違いしてたらしい…(もはやごっちゃになって思い出せん)。そして勘違いしてた別作品より、ぶっちゃけ面白かった。
あと!特筆すべきはこの作品、いま5巻までで、計63万部売れているそうだ。自分も、だんだん漫画の売れ行きの「相場」というものが分かってきてるんだが、今はメジャー雑誌でもなかなか1冊に均して「10万部」は突破が難しいライン。
これぐらい売れれば、上位人気作品としてアニメ化・ドラマ化なども十分に視野に入るのだ。お見それしました。
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さて、今回すごく興味深く読んだ『マリガド編』とは?異世界の中で語られる「表現規制・ヘイト本規制」論とは???
引用した画像も含めて語ってみよう。
「図書館の大魔術師」マリガド編とは
・まず基本設定として、この物語世界では「本の都」アフツァックという都市があり、その中央図書館は、本に関する巨大な権威と権限を所持する独立巨大組織。その力は、諸国にも影響を及ぼしている……との設定。そして、一種の「禁書」を行う権限もあるようなのだ(自分も手探りなのでちょっとふわっとしています)
・そんな社会でいま、或る一冊の本が大きな人気の一方で「この本は規制すべき」「それは弾圧だ」と賛否両論の議論を呼んでいる。それが小説「マリガド」。
何が問題か…
・さまざまな人物を、主人公がサクサクと殺していく。その描写がトテモ気軽で、葛藤が無し。
・特定の民族を揶揄しているように見える。ただ物語上はすべて架空で「連想させる」にとどまる描写。「だからこそ悪質だ、許されない」との声も。
・ただ、その手法(特定民族を「連想」させる)がルール違反とすると、これまで良書・名作とされた古典もキャンセルカルチャーされかねない。
・こういう物語に触発され、実際に犯罪を行う人間は出てくるだろうか……。
・「自由選挙や天体の研究が『危険で規制されるべき思想』だった時代があった」/「それは屁理屈。議論を重ねれば良書と悪書は区別できる」
・「良くない書も、なぜ良くないかは表舞台で議論すればいい」「事実と嘘の区分というけど、事実でも一部を切り取れば誘導できる」
・「表現の自由と簡単にいうが、それはお互いに不快や苦痛を歯を食いしばって我慢する状態」
感想
「山より大きなイノシシは出ない」のデンで、こういった架空の議論や論争は、どうしても結局は、作者が最初から最後までコントロールすることになる。だが、…だからこそ逆に作者の思考の深さと、そして描写のフェアさが試される。
だって、論争で負かしたい相手なら服装・容姿などの外見部分を粗野で醜い人物にしたり、発言は言葉遣いも含め稚拙で下品なことを言わせれば、誘導は簡単だ。
漫画「美味しんぼ」の「激闘鯨合戦」の回(画像)は、なぜかインターネット動画では、この放送回は販売されないことがあるようです。 pic.twitter.com/cmRzrO47ez
— 鯨類に感謝 Thanks Cetacea(くじらの消費者運動@yundagananikayoの者) (@irukanigohan) 2018年1月18日
そういう作品もやまほどあるだろう。百田尚樹でも田中芳樹でも雁屋哲でも小林よしのりでも……全部とはいわぬが、彼らの作品はいろいろ「悪い例」に該当するのではないか。
だが、引用部分でもわかるかと思うが、今回の「図書館の大魔術師」の表現を巡る議論は、相当に真摯でフェアであることを己に課して描写し、そしてそれが成功していると言えるのではないでしょうか。
逆に遡って、この作品を最初から読んでみたくなりました。
そして実は、「架空世界を舞台に、表現規制の意味や是非を問う」という物語展開には、個人的に既視感があったんですよ。
それは「パンプキン・シザーズ」で、本筋の話の流れから離れた、ちょっとサイドエピソード的な一本。2010年末か2011年初頭に掲載され、それは明白に石原慎太郎東京都知事(当時)の青少年健全育成にまつわる「都条例」を比喩的に批評するものだった。
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…月刊マガジンで、偶然ぱらぱらやっているときに、へんな覆面(KKKのような感じ)をかぶった人々の漫画が目に留まりました。
内容は、その覆面をかぶった集団がバカ話に興じる、というものなのですが、そこで「フィクションと現実(への悪影響)」という問題について、登場人物が語る形式で論じられていたのですね。確か、「酒と犯罪」とのアナロジーだったはずですが。
ハシラのアオリで「本編はどうしたんだ!とお怒りの読者もいるでしょうが、いろんな意味で今書かないといけないので…」的なことが書かれていたから、ちょっと本編とは離れた外伝的なものかもしれませんし、条例問題とからめた時事的なものであることもほぼ間違いないでしょう。