ドラマが主演女優の病気で、思わぬ対応を余儀なくされることになったが、評判は上々のようである「ハコヅメ」。
いま、132 話が無料公開中です。ドラマでは意外や出番の増えている「牧高」の主役回。
「拝啓 司馬遼太郎先生 どうして私は…あなたの頭の中に生まれることができなかったのでしょうか」孤高の歴女・牧ちゃんの、愛と恋をめぐる冒険!! その132「牧高がゆく」は本日発売のモーニングにて #ハコヅメ #交番女子 #モーニング だけでなく #Dモーニング #COMICDAYS でもお読みいただけます pic.twitter.com/eFxTrmtCRT
— 交番女子/ハコヅメ公式 (@KOBAN_JOSHI) September 10, 2020
歴史好き、司馬遼太郎好きで警察には「新選組と似た組織だと思い入った」という彼女だが、「司馬遼太郎が理想の男性」的な言い回しを何度かしていたと記憶している。
しかし、その「好き」とか「理想の男性」というのが、上品で知的ではあるが総白髪の老人足る彼を男性として好きとかじゃなくて『どうして私は…あなたの頭の中に生まれることができなかったのでしょうか』。このセリフ回しの的確さに、戦慄したね。いや、ほんとにこう考えている女性が多いかどうかは知らないけど、「ああ、たぶんこういうふうに思っていそうだ!」とこちらに受け止めさせる、そのリアリティに満ちているという事。
この中では、彼女に「自分も歴史好きなんです」と語りかけた男性が見事に爆死する案件も描かれている
「誰が好きなんですか」
「織田信長とか」
「『進撃の巨人読んでる俺オタク』とか言えちゃう陽キャラかよ」
理 不 尽……だがありそう、ありそう。
もう一題は…細野不二彦の自伝的漫画「1978 年のまんが虫」
連載開始の時におつたえしたよね。
m-dojo.hatenadiary.com
これの最新号で…スタジオぬえが一種の「修業場」「ぼくにとっての大学ゼミ」となった細野不二彦が、「いろんなところから吸収しなさい」「頭を柔らかく、発想を自由に」とアドバイスされ、その一例として「自分もSF屋だが、こういうのをいま読んでいる。面白いよ」と紹介されたのが司馬遼太郎。1978年といえば、司馬本人も脂の乗り切った気鋭の大物歴史作家として旺盛に執筆してた時期だ。
細野不二彦と言えば、今は圧倒的な博覧強記の漫画家というイメージが強いが、大学時代の当時は知識不足、勉強不足を自認していた(客観的にどうかはしらん、主観として)。歴史小説なんかにも、まったく手を出していなかったのだが……
自分も高校時代に司馬遼太郎を読み始めたけど、まず代表作の膨大な分量にビビりつつ、読んでみたらすいすいと読める、この体験はまことにあるあるです(笑)
そして当時、小山ゆうの「俺は直角」が、坂本龍馬の造形にインスパイアされたことにも気づき、そこから自身のマンガにも気づきを得る、という。
ただこれは、細野不二彦の一個人的体験談にとどまらない。
そもそも「歴史小説・時代劇」は「SF・ファンタジー」に、かなり隣接した地点にある、というのはある種のコンセンサスを得た認識で、ここでも何度か引用した…
m-dojo.hatenadiary.com
m-dojo.hatenadiary.com
関川氏いわく、「時代小説『蝉しぐれ』はきわめて洗練されたおとぎ話だともいえます。友情と名誉、恥、約束、命のやりとり、忍ぶ恋、そういうものは、命のやりとりを除いて現実に私たちの生活の中にあります。たしかにおとぎ話ですけれども、根も葉もあるおとぎ話です」
『蝉しぐれ』の舞台は、江戸の文化、文政期なのですが、この時代は、関川氏によれば、江戸の文化が爛熟した最盛期で、現代日本の原型がすでに成り立っていて、なおかつまだ幕末の動乱ははじまっておらず、現代と同じように平和な日々が続き、日本の原風景を描くにふさわしい時期なのだ、ということなのですね。
時代小説、といっても、現代の作家が描くわけですから、基本的には現代の物語なのですが、現代を舞台にすれば、生々しすぎたり、そらぞらしくなったりしかねない物語が、江戸を舞台にすることで、根も葉もある大人のおとぎ話になるのだというのです。
ということ。めちゃくちゃ細部を細かく考証したリアル系もあれば、そのへんは敢えてご都合主義的に無視した、ダイナミックな舞台背景もあることも共通している。それを強く語っているのが推理作家の芦辺拓氏で
「主人公が努力しない」「ヒロインたちが勝手に惚れる」「能力はいつのまにか身についてる」って、昔ながらの明朗時代劇のパターンでもあるじゃないですか。何の不思議でもないし、そう指摘されて怒る必要もないと思います。たとえば探偵が推理能力を高めてゆくプロセスを描いた作品がどれだけあるか。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) 2016年10月11日
まあ、50代の私はロードスやウィザードリィやスレイヤーズで育った世代だもの。異世界転生無双こそが自分たちの世代の明朗時代劇なのだと言われると、それはそれでとても納得できるのであった(^^)。
— はせがわみやび@書いてますよ? (@miyabi_hasegawa) 2016年10月11日
「異世界」にはなじめないが、「お江戸」が何やってもいい自由狼藉の物語空間でなくなった以上、多くの書き手が撤退していったのはやむを得ない。だけどどうも疑似西洋ファンタジーはダメなので、オランウータンが大暴れして和製ロゼッタストーンを壊したり江戸湾にナバロンの要塞を築く話を書いてます
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) August 17, 2021
平安時代はファンタジーとして受け入れられている面があると思いますので、『大江戸ファンタジー』系の傑作が出れば、ジャンルとして確立できるのではないかと期待します。
— 水井狼 (@Row_321) 2021年8月18日
かつて朝松健さんが富士見ファンタジア文庫で、山田風太郎とアリステア・マクリーンの融合ともいうべき大伝奇『大菩薩の要塞』を上梓されたときには、快哉をあげたものです
— ホリディ (@109holiday) 2021年8月17日
物語の多様性という点でも、伝奇の火はもっと燃え上がって欲しい処
芦辺流大江戸冒険譚、楽しみです
という感じで、時代劇や歴史小説とSF・ファンタジーの親和性はかくのごとし。
なんなら、ここに、野田昌宏氏が高島俊男の「水滸伝解説書」を読んだだけで「このひとはスペースオペラのおもしろさが分かる人だ!」と感じ、交流を持ったという一挿話を紹介してもいい。
m-dojo.hatenadiary.com
学校の夏休みも、あと1週間ていどか。
高校生、大学生諸君、…それもファンタジーやSFが大好きな諸君、この機会に先人に学んで「司馬遼太郎」に手を染めちゃいかがでしょうか。ハコヅメのドラマがおもしろい、という人も加われ。
そして読みだせば、どんな大長編でも巻を置くあたわざるだから。そして「俺TUEEE」系とも親和してるとかしてないとか(笑)
togetter.com
なお宿題や、二学期のテスト状況については責任を持たない(笑)
そういえば、秋ごろに映画「燃えよ剣」が公開されるね
www.youtube.com