10月25日の日経新聞夕刊文化面、中野稔氏の記事…おっと、コピーを取ったんだけどネットにあるよこの文章。
治水工事など歴史小説に 働く意義、現代に問いかけ|エンタメ!|NIKKEI
http://style.nikkei.com/article/DGXKZO08717860U6A021C1BE0P01?channel=DF280120166618
江戸期の航路開発や治水工事、大正期の神宮創建など、大規模プロジェクトを描いた歴史小説が相次ぐ。事業に情熱をかけた人々の姿を通じ、時代の流れをダイナミックにとらえている。「河村瑞賢は(徳川4代将軍家綱の後見役)保科正之との関係を機に、明暦の大火で焼け野原となった江戸を造り直した。江戸と奥羽を結ぶ海運航路開発や大坂・淀川の治水工事など、プロジェクトごとに人々との交流があった」。江戸初期に活躍した河村瑞賢の生涯をつづった長編小説「江戸を造った男」(朝日新聞出版)を今年9月に出版した伊東潤はそう話す。
物語は、江戸で材木の仲買人を務める河村屋七兵衛(後の河村瑞賢)が、1657年の明暦の大火で……「もう一度、出直しだ」と誓った彼は、江戸の再建には大量の木材が必要になると判断…
- 作者: 伊東潤
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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(略)
江戸中期、薩摩藩が幕府の命で、暴れ川で知られた木曽川、長良川、揖斐川という木曽3川の治水工事に挑んだ宝暦治水。この困難を極めた大型プロジェクトに材をとったのが、昨年10月に刊行された村木嵐の長編小説「頂上至極」(幻冬舎)だ。
(略)
- 作者: 村木嵐
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
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積み重なる借財、「薩摩は関ケ原で負けたけえ、何でも言うことを聞かねばならんのじゃろ」という地元民の嘲笑……。様々な困難のなか、藩士たちは懸命に治水工事に取り組む。事業を率いた家老の平田靱負(ゆきえ)は竣工を見届けた後、多くの部下を失った責任をとって切腹する。
村木は司馬遼太郎の晩年に「お手伝いさん」として仕え、その後は妻の福田みどりが亡くなるまで個人秘書を務めた。
(略)
「明治神宮創建は人工の森を造ろうというもので、とんでもない難事業。小説にするには、それを動かしたエネルギーの源を探らなければならなかった。プロジェクトをたどるのは、時代の変遷を捉え直すことだった」。今年7月に神宮造営事業を描いた長編小説「落陽」(祥伝社)を刊行した朝井まかてはそう話す。
- 作者: 朝井まかて
- 出版社/メーカー: 祥伝社
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明治天皇崩御後、渋沢栄一ら政財界人は神宮を東京に創建する方向で動き始めるが、帝国大学農科大学講師の本郷高徳は「風土の適さぬ地に森厳崇高な森は造れない」と反論。しかし、いったん東京での造営が決まると、本郷ら林学者たちは全力で事業に取り組む。その動きをスクープしようと新聞記者が追いかける。
ほかに第155回直木賞の候補となった門井慶喜「家康、江戸を建てる」もプロジェクト小説と見なせそう。
そこで見られるリーダーシップなどは、大型事業が相次ぐ現代においても参考になるに違いない。
- 作者: 門井慶喜
- 出版社/メーカー: 祥伝社
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「頂上至極」がテーマとしている薩摩藩の宝暦治水は、先立ってみなもと太郎氏が「風雲児たち外伝」の一篇「宝暦治水伝」として漫画にしている。
- 作者: みなもと太郎
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あれ…?? リイド社版って出てないの?(同社は各巻の紹介が手抜きでわからん)
ただ、マンガ図書館Zにあることが判明した。
みなもと太郎『宝暦治水伝 波闘』 #マンガ図書館Z http://www.mangaz.com/book/detail/43421
時代劇も(異世界)ファンタジーも「現実と違う場所だからこそ、生々しさが消えて物語を楽しめる」という点で共通してないか?という仮説
最近、こういうまとめが面白かったのですが。
ラノベとして読める時代小説、というアプローチ - Togetterまとめ http://togetter.com/li/1037049
あと、こんなツイートもね
「主人公が努力しない」「ヒロインたちが勝手に惚れる」「能力はいつのまにか身についてる」って、昔ながらの明朗時代劇のパターンでもあるじゃないですか。何の不思議でもないし、そう指摘されて怒る必要もないと思います。たとえば探偵が推理能力を高めてゆくプロセスを描いた作品がどれだけあるか。
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) 2016年10月11日
まあ、50代の私はロードスやウィザードリィやスレイヤーズで育った世代だもの。異世界転生無双こそが自分たちの世代の明朗時代劇なのだと言われると、それはそれでとても納得できるのであった(^^)。
— はせがわみやび@書いてますよ? (@miyabi_hasegawa) 2016年10月11日
このへんの議論で連想したのが
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関川氏いわく、「時代小説『蝉しぐれ』はきわめて洗練されたおとぎ話だともいえます。友情と名誉、恥、約束、命のやりとり、忍ぶ恋、そういうものは、命のやりとりを除いて現実に私たちの生活の中にあります。たしかにおとぎ話ですけれども、根も葉もあるおとぎ話です」
『蝉しぐれ』の舞台は、江戸の文化、文政期なのですが、この時代は、関川氏によれば、江戸の文化が爛熟した最盛期で、現代日本の原型がすでに成り立っていて、なおかつまだ幕末の動乱ははじまっておらず、現代と同じように平和な日々が続き、日本の原風景を描くにふさわしい時期なのだ、ということなのですね。
- 作者: 藤沢周平
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時代小説、といっても、現代の作家が描くわけですから、基本的には現代の物語なのですが、現代を舞台にすれば、生々しすぎたり、そらぞらしくなったりしかねない物語が、江戸を舞台にすることで、根も葉もある大人のおとぎ話になるのだというのです。
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011072701396.html
旧制高校の同人雑誌から生まれた純文学が、自己表現のため私小説に傾きがちなのに対して、かれらの多くは世間を知った苦労人だけに、自己を語るためではなく、読者のために書いた。それが「根も葉もあるおとぎ話」として、広く大衆に支持された。
いわゆる進歩史観にさからって、過去から未来への連続性を信じ、封建的として否定された日本的感情や日本的人間関係を再評価しようとした。それはかつてこの国に存在した、ある種のユートピアふうな世界を想起させ、読者に慰めを与えた。
これはまだ「仮説」でいいのだが、おもしろさの「核」のようなものは同じで、それが、おじさん向け?に時代小説になったり、若者向け?に異世界ファンタジーになったりするとしたら、それ自体が興味深いじゃー、ありませんか。
かつてサルまんでは「忍者まんがは無くなっているのではなく、エスパーまんがに形をかえているのだ」と喝破したことがあったっけ。
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で、最初の話にもどるが、時代小説、歴史小説で「プロジェクトもの」「建設・内政もの」がある種のブームだとするなら、異世界ファンタジーの「内政チート」と呼ぶべき一連の何かと共鳴しているのではないか…ね。(それはピックアップしてる側の個性(バイアス)で、全部統計的に見ればいつの時代でも一定あったよ!みたいな落ちである可能性も当然あると認めつつ)
いま放送中、えーと今日が多くの地域で放送の曜日か…
「ドリフターズ」ね。
間もなくアニメが始まるという「まおゆう」と平野耕太「ドリフターズ」って隣接ジャンルやねん http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130104/p2
こういうのを読んでいたら、つまり異世界に現世の(進んだ)技術を持ち込んで、それで世の中を良くして、それが愉快痛快じゃ、という作品ジャンルがあるらしい、と分かったわけです。自分はライトノベルにぜんぜん疎いままなのだが、そのへんの理解はブログを書きつつ徐々に充実してきた。
元祖はおそらく「アーサー王宮廷のヤンキー」であろうとも。
「歴史改変」「文明チート」の元祖?マーク・トウェイン「アーサー王宮廷のヤンキー」はすごいらしい…そこから色々考える - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150825/p2
トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)
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そしてtogetterでは…ありがたいことに「内政チート」で検索するといい感じでまとめは見つかる。
http://togetter.com/search?q=%E5%86%85%E6%94%BF%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%88&t=q
「産業チート、軍事チート」とその反動について
異世界内政ネタは中世で実現できるか?
「異世界ファンタジー」の歴史や定義をめぐる長い旅(雑談)
そしてさっきの話「面白さの『核』は同じで、包む外装が違うだけ」と考えるとき、経済や内政・外交のノンフィクションも、そのままファンタジーや時代小説として読めるわけで。
「まるで異世界召喚」「内政チートや」…名著「ルワンダ中央銀行総裁日記」は「ライトノベル的に面白い」という切り口に反響 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/876831
そんな感覚を参考にしつつ、たとえば異世界ファンタジーの内政チートものが大好きな人が、上記の「プロジェクト時代劇」を手に取る、あるいはその逆…などがあれば幸いです。
(了)