こういう、講演録のレポートがある。
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講師は、この本を書いた師岡康子弁護士
- 作者:師岡 康子
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 新書
Q&Aヘイトスピーチ解消法 (GENJINブックレット64)
- 作者:外国人人権法連絡会
- 発売日: 2016/10/05
- メディア: 単行本
まとめた人がちょっと考えが足りず、重要な部分がさらりと流されているので、メモとして記録し、その重要性を指摘しておこう。
2020年11月、沖縄のヘイトスピーチ規制条例制定を考える「ヘイトスピーチ・セミナー」が「沖縄カウンターズ」の主催で開催され、日本国内のヘイトスピーチの現状や課題について、師岡康子弁護士が那覇市のタイムスホールで講演した。
ものだそうだが、その数年前にややさかんだった議論の話題が、、多少テーマとして取り上げられている。
「米軍は出ていけ」はヘイトスピーチではない
沖縄でのヘイトスピーチ問題でしばしば議論となるのが「米軍は出ていけ」や「ヤンキー・ゴー・ホーム」は果たしてヘイトスピーチにあたるのか、という点だ。
2016年にできたヘイトスピーチ解消法の2条では、ヘイトスピーチを「本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」としている。「“米軍は出ていけ”というのは、その人がアメリカ人だから“出ていけ”ということではないので、最初からこの定義には当てはまりません」と師岡さんは語る。
(略)
「ただ、“ヤンキー・ゴー・ホーム”の“ヤンキー”というのは、アメリカ人一般っていう意味でも使いますよね。この言葉を誰に向けるのかによって、これはヘイトスピーチにもなり得るものです。アメリカのルーツを持つ子どもに対して、出自を理由に「出ていけ」と侮蔑すれば、それは日本社会におけるマイノリティに対してのヘイトスピーチに当たるということは言わざるをえません。ただ、例えばこの言葉を『米軍撤退せよ』という意味で使った場合には、当然ヘイトスピーチにはあたりません。文脈で判断しなければいけない問題です」。
やっと、追いついてきたか、の話。
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同じ弁護士バッジをつけている山口貴士弁護士も、2014年には既にこう書いていた。
ヘイトスピーチ法制は、「発信者」が誰かを問うことなく、「性」や「人種」、「民族」等の「属性」に対するヘイトスピーチについて網羅的に規制するものにならざるを得ません。マイノリティーのマジョリティーに対するヘイトスピーチ、差別発言も規制の対象とならざるを得ないのです。
一例として、「朝鮮人出て行け!」がヘイトスピーチになるなら、「米軍兵士は出て行け!」、「ヤンキー、ゴーホーム!」も理論的にはヘイトスピーチになる筈です。
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一方で2016年に、有田芳生氏はこう主張していた
「ヤンキーゴーホーム」はヘイトではない! 高江で見た基地問題の本質 (有田芳生) - オピニオンサイトiRONNA https://t.co/dvPQqGpJWw #iRONNA
— 有田芳生 (@aritayoshifu) 2016年9月30日
米軍基地問題に取り組む者が「ヤンキー、ゴーホーム」と叫ぶのは、歴史的に堆積した沖縄の歴史と生命にかかわる個人史が重なっているのである。この言葉をヘイトスピーチだと批判する者は、概念的な無理解とともに国会での議論にも眼を逸らしている。 米軍基地反対運動などで「ヤンキー、ゴーホーム」と主張することは、政治的な目的でなされるものであり、差別的意識を助長・誘発する目的でなされたものではないから、ヘイトスピーチ解消法にある「不当な差別的言動」の定義にはあたらない。
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そもそも、「ヤンキー・ゴー・ホーム」の話が出ても『「米軍出ていけ」は…』というのは、話をそらされてる感がありありなわけで。
それを直接、SNS上で申し上げたこともある。
「米軍出ていけ」でなく「『ヤンキー』ゴーホーム」の場合はどう認定するのか、正直ここを知りたかったです。
— gryphon(まとめ用RT多) (@gryphonjapan) August 5, 2016
それが奏功したのかどうか、氏の見解はのちに出た
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ま、とにかく、
なにやらの留保をつけつつ、この問題に関する運動家としても知られる(「詳しい」とか「第一人者」とかより「運動家である」が、一番適切かつ客観的な評価だと思いマス。)師岡氏が、ここまで「言わざるを得なくなった(と、当人が言っている)」のは、そういう問いを発し続けたが故の成果であろう。
この議論を追ってきたものとして、ひとつの決着がついた満足感はある。2014~2016年に言っとけ、って話ではあるけどな…
だが、もひとつの難題が師岡氏には待ち構えている。
沖縄の米軍基地前での活動というのは政治的な活動であり、憲法上許される表現
例えばこの言葉(引用者註:ヤンキーゴーホーム)を『米軍撤退せよ』という意味で使った場合には、当然ヘイトスピーチにはあたりません。
文脈で判断しなければいけない
となると、それは『朝鮮総連』という組織・団体へのそれとも重なるよね?という話に、論理構成上至るのである。
togetter.com
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これは、師岡氏も確か交流があった野間易道氏の…ではないな、C.R.A.Cという団体の公式見解として語られている。
そりゃそうだ、「米軍」が「アメリカ人」という属性とはそのままイコールでないように、
朝鮮総連とは「チュチェ思想を指導的指針としてすべての活動を繰り広げている」「チュチェ思想にもとづいて主体的力量を強化し、それに依拠して運動を展開している」
団体であり、この思想と方針に賛同する人が加入して構成している政治的・思想的な存在である。それに対しては批判も賛同もあろう。
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だから「朝鮮総連は……」という言い方なら、逆立ちしても差別になりようはない、のでしょう。
ただし、これに対しても「戦う学者」金明秀氏はそうではない、と主張している。なお、この「戦う」の意味はリンクなど参照
おいおい、なんだそりゃ。どんな阿呆がこれ書いたの? https://t.co/HhKSKuq6O9
— 金明秀 Ꮶɨʍ, ʍʏʊռɢֆօօ (@han_org) May 17, 2015
www.rokusaisha.com
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jun-jun1965.hatenablog.com
ただ、師岡理論…【この言葉=ヤンキーを『米軍撤退せよ』という意味で使った場合には、当然ヘイトスピーチにはあたりません】
というのが仮に正しいとしたら、
「朝鮮総連は解散、消滅せよ」という意味で「朝鮮人帰れ」(それとも英語で(ノース)コリアン・ゴー・ホームとしよか?)と言ったら・・・・・後段の結論も同じになるんけ??
念のために表にしておくよ
言葉 | その可否 | その可否、「文脈」を加味すると |
---|---|---|
『米軍帰れ』 | 政治的な主張であり当然セーフ | 左と同じ |
『朝鮮総連は金正恩の犬』 | 政治的な主張であり当然セーフ(CRAC説)/そうではない(金明秀説) | 左と同じ |
『ヤンキーゴーホーム』 | 出自を理由に「出ていけ」と侮蔑すればヘイト | 『米軍』の意味で使ったならセーフ |
『朝鮮人帰れ』 | 出自を理由に「出ていけ」と侮蔑すればヘイト | 『朝鮮総連』の意味で使ったなら『???』 |
一番右下の項目に入れた、この「?」の問いは、上記の定義をした師岡氏にまずは伺うべきものであろう。
こちらのnoteで、この講演録への論評があった。
note.com