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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

安倍首相退陣に関する雑感メモ

・民主的手続きを経て、有権者の支持を受けて政権を担いつつ、病気によって、任期の満了をまたずに退場する。それについては等しく無念であろうし、また民主主義の原則の視点からも、本質的に残念なことだ。最近では翁長沖縄知事が、やはり任期半ばで在職中に逝去されたが、同様に無念であったろう。生病老死は、ブツダの時代から未だ人は克服し得ない。



・第一次政権の崩壊を経て、戦後初の首相復帰をした後の7年半という長期政権(それでもメルケル政権の半分だというから、ドイツの長さは長さで特異的だ)。眺めてて思ったのは、「仁義なき戦い」にも出てきた言葉だったかな、あのことわざだ

「知らぬ仏より、知ってる鬼のほうがマシじゃけんのぅ」

どっちがニワトリでどっちが卵かわからんが、まさに第一次安倍政権に端を発した、平成期の「1、2年で首相が交替する」に有権者がうんざりしたところで、それと対照に今度は7年半の政権となった。だが、それなら野田佳彦首相のときや菅直人首相の時に「短期政権にはうんざりだ、いやなところがあっても長期政権で安定してほしい」となっても良かったわけで(菅首相参院選敗北でも首相を続けるという「見逃し」をしてもらっている。この時、朝日新聞社説が安倍首相の参院選敗北で退陣を主張したのとコントラストになったのは語り草で、のちに当時の論説委員長が弁明したり)。
「1、2年での首相短期交替はうんざり、長期政権を」がそれまでの反動だとして、それが「安倍首相」だったのは、何かの要因があるのだろう。


・特に、世界的には安倍政権は「従来秩序を保つ側」に総じてついていた。別に高邁な理想があるとかではなく、今の秩序が基本的に日本に利であるからこそだが、トランプ政権との蜜月も、基本的に他の世界からも「蜜月関係を利用し、トランプ政権を旧来秩序に留まらせようとしている」と見られており、それをトランプ政権と摩擦の大きい諸国も一種の「通訳者」として利用価値をみとめ続けてきたようだ。このへんは、イスラエルと違う。



まったくどうでもいい余談だが、カナダ・トルドーのツイートに、「カナダ製のドアノッカーを別荘に取り付ける安倍首相」の動画が張られ、ちょと受けてたみたい(笑)。まあ、話題がこんな些事になるほど両国はあまり縁がない、ってことでもあろうが…


カナダ以上に、トランプのアメリカに距離を取ったことも…
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イラン外交なども「トランプ政権を懐柔しつつ従来秩序を維持しようとしていた」というスタイルがよくわかるかも
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ボルトン米大統領補佐官、安倍首相称賛の寄稿 「トランプ氏を現実につなぐ鎖」

【ワシントン時事】ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は28日、ワシントン・ポスト紙(電子版)への寄稿で、辞意を表明した安倍晋三首相の外交を称賛した。迷走しがちなトランプ大統領の外交を「現実に近いところにつなぎ留める重い金属の鎖のような存在だった」と……
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020082900243www.jiji.com

・日本では逆に「イデオロギー対立」が前面にでていて、そして昭和〜平成初期の自民党は「そういう相手を攻撃するよりけむに巻く」のがデフォルト(竹下登をイメージせよ)なのに、安倍陣営は「積極的に相手を叩く」姿勢を見せ、それがネットにも広がるのがある意味で面白かった。ただ、そもそも「野党の立場から政権を奪回する自民党」が1994年の一例しかなく、それも社会党を抱き込んだ村山連立内閣なのだから、そういう場合はそうなるのかもしれない。仮に岸田内閣だと、おそらくそういう議論はかなり消滅する。それは、まちがいなく「おもしろみ」は減るな(笑)。
中曽根内閣が終わり竹下内閣が始まった時も、皆忘れているが、スタート時点は極めて好意的で、特にイデオロギー的な対立は中曽根時代から比べると雲散霧消と言っていい形になったのだ。


・これを書きあげたあと、はてなブログの機能が勝手に「関連記事」として紹介した記事に、フーンと思うものがあった。SNSを活用した安倍政権は、従来メディアに対して「権力・国民連合vs(従来)メディア」という構図を作ることに成功した、と。そう論評したのはTBS記者から菅直人政権入りした下村健一氏。

「ネットの怖さを言えば、権力サイドが直接メディアを批判する場を持ってしまったことだ。権力がダイレクトに報道機関に言うのはまずいときでも、独り言のようにつぶやくと勝手に国民が反応するプレッシャーの掛け方ができる可能性がある。(既存の)メディアがいばっていると『権力・国民連合対メディア』という変な構図ができあがる恐れがある。」
m-dojo.hatenadiary.com


・トランプ再選は厳しいだろうから、こういう特異な状況は余り無いと思うけど、そのへんで苦労したのは奇妙にも文在寅政権と似ている(実はほかにも共通点が両政権には多いと思っているが、長いので略す)。文も安倍も、トランプのような気まぐれな超大国指導者、さらに独裁者の諸国と、摩擦を回避しつつ自国利益に誘い込もうというスタイルで、それを支持者からは「猛獣使い」というイメージで肯定的に評価された。
https://twitter.com/Che_SYoung/status/1273406275309584384


・それは特に中国との関係にあって、そもそも第二次安倍政権は日中関係の悪化を促すと自分も含めてみていたが、今現在、予想を裏切って二転三転した結果、表面的には日中関係が安定、主席の国賓来日が焦点になるありさまだ。日韓関係、そして中韓関係と比べても奇妙なことだが、つまり上に書いた「見知った鬼」として中国が安倍政権を捉えるようになったのだと思われる。
漫画「パンプキン・シザーズ」で、対立する両国の諜報機関が、本当に全面的な対立は不安なので、それぞれが諜報組織の一部を”開示”し、スパイ合戦を「ルールあるゲーム化」するという挿話があったが、あれはちょっと示唆に富んだエピソードでした。


・その一方で、その表面的な安定と並行する形で、世界の大きな絵として「自由で開かれたインド太平洋」構想が描かれ、定着しつつある。
www.mofa.go.jp


自分が安倍政権のレガシーを強いて探すなら、やはりこの「自由で開かれたインド太平洋構想」であろう。これが日本のアイデアで、それをアメリカが採用し、今その線で国際秩序を再編しているという流れになっている。

安倍首相が昨年8月に提唱したインド太平洋戦略は、河野太郎外相らが米側に共有を呼びかけていた。これに米側が応じ始めたのは今年10月中旬。ティラーソン米国務長官が講演で、自由で開かれたインド太平洋の重要性を強調した。

 「勝手に使って悪かった」

 「いいんだ。どんどん使ってくれ」

 今月上旬、トランプ氏に同行して来日したティラーソン氏が戦略の「借用」をわびると、河野氏はこう歓迎した。

www.sankei.com


「変わらずあるためには変わらねばならない」ではないが、中国が国際秩序のトップリーダーになるリスクより、こちらのほうが相対的な安定が高いと西側も見積もりつつあると思われる。
この演説原稿は記録に残っているが、未実施だったのは惜しまれる

この40年の間に,インドネシア経済は,10階建くらいの,どこにでもあるビル程度の高さだったものが,スメル山の高さにまで伸びたことがわかります。

 古来,インドで生まれた仏教を大切にしてきた日本人にとって,スメル山とは,須弥山(しゅみせん)と称し,世界の中心にそびえる山を意味しました。

 インドネシア40年の達成を,このようにたとえてみることは,したがいまして,われわれに二重の意味で,深い感慨を催さずにいないのであります。

 わたくしはまた,アチェ津波が襲って以来の,みなさまの達成を,人類史が特筆すべきチャプターだと考えます。それは,復興と,和解,ひいては国全体の穏やかな民主化を,ともに達成した偉大な足跡でした。

 わたくしは,そんなみなさまインドネシアの隣人であることを,誇りに思います。

 初めにわたくしは,海に囲まれ,海に生き,海の安全を,おのれの安全とする国が日本であり,インドネシアであって,ASEANの,多くの国々であると申し上げました。

 それはまた,アジア・太平洋からインド洋に広がる一帯に住まう,われわれすべてにとって共通の条件であります。

 そんなわたくしたちが一層の安寧(あんねい)と,繁栄を謳歌できるよう,わたくしはきょう,日本外交がよって立つべき5つの原則を申し上げました。

 わたくしたちにとって大切な,価値の信奉。コモンズ,なかんずく海を,力の支配する場としないこと。経済におけるネットワークの追求。そして文化の交わりと,未来世代の育成,交流を追い求めることです。

 アジアの海よ,平安なれと祈ります。そのため,経済において強く,意思において強固で,国柄においてどこまでも開かれた日本をつくるべく,わたくしは身命を賭したいと思っています。
www.mofa.go.jp


・逆に、負の遺産をいうなら、もちろん愚劣極まる文書改ざんや、夫人の訳の分からない人脈から繋がる不透明でオカルティックな「怪しげ人脈」、末期になればなるほどひどくなった緩み、麻生太郎という副首相のマイナス、国会運営の強引さをはじめ多々あるが、最初の文書改ざんのもともとは、「官僚組織の自律性の破壊」であり…だが、そもそも官僚とはどこまで自律させるべきなのか、はかなりジレンマの出るテーマで、そもそも官僚を民主的に統制する―政治家の下に置く、は民主党が掲げて、制度的には一部実行し、その成果を安倍政権が結果的に受け継いだテーマであります。興味深いツイートを、朝日新聞の記者がしている。

「尊敬する先輩」がどんな人で、とばされたのはどんな確執があったのか、これは外務省だけでなく各省にあるだろう。
安倍政権の中でどの官僚がどんな出世コースをたどり、どの官僚が理不尽に「飛ばされた」か、これを一面的でなく、たとえばその官僚や、主張した政策自体の「光と影」を分析すると、功罪が立体的に浮かび上がると思う。外務省より、財務省経産省でそれが大きいかもしれない。



・特に自分が安倍政権の問題として一つ上げろと言うなら…それ以前の政権、国全体の問題は承知の上でーーIT化における問題を言おう。そういえば退任会見で江川紹子氏が質疑をしていたな。


 -コロナ対応では、日本がいかにIT後進国であるかということが露呈した。ITで日本は世界の後塵(こうじん)を拝しているが、原因はどこにあるか。後任期待するところは。どのように申し送りするのか

 「今、ご指摘になったようにですね、この日本の、この今の状況、IT分野におけるですね、状況、問題点、課題というのは明らかになったわけであります。反省点でございます。

さまざまな課題があるんですが、まず、官の側に立てばですね、役所ごとにですね、システムが違うという問題もございますし、自治体ごとに違っているという、そういう課題もあります。今回はそういう課題が明らかになってまいりましたのでですね、高市(早苗)総務相を中心に一気に進めていくということにしているところでございます。

 もう一つは個人情報に対する保護、この対応がですね、自治体ごとに違ったりとかするという、自治体ごとにですね、違うという課題もあります。しかし今回、そういう課題をですね、乗り越えていく必要性というのは相当これ、共有できたのではないかと思いますので、ここで私は辞めていくということになるわけでございますが、残りの期間、また次の、そして、リーダーとまた、当然、取り組んでいかれると思いますが、私も残余の期間ですね、しっかりと頑張っていきたいと思っております」
www.sankei.com

首相辞任表明当日の朝まで生テレビでもCocoAに関して言われていた――そしてこのブログでもテーマにしてきたが、日本の行政のIT化の遅延は技術問題以上に「ITを活用すればプライバシーを含めた個人情報が一気に管理され、社会の在り方が変わる。そうなっていいか、悪いか」という法哲学的問題を正面から提起せず「まあ反発が強いから見送りますかね」的な曖昧な足踏みを続けていたことにあると思う。(き朕と議論して決断し「不便であっても、〇〇のIT化は進めない」とするなら、それはそれでひとつの在り方だ)
「安倍政権だけの責任じゃない」との反論はあろうが、2012年末〜2020年夏までは、まさにスマホが社会に浸透する時間だった。ここでの停滞は非常に大きい。
だから、ぜひと願うのは、次の首相を選ぶ際の選挙―党員が投票できないという方向になりそうだが…において「IT化で推進したい政策は?/IT担当相に誰を据える?」というのを、重要な争点としてぜひ主要な質問に盛り込んでほしいのである。河野太郎が有利になるかもだが、仕方あるまい。



・なんにせよ、長期政権が間もなく終わる。「お疲れさまでした」は敢えて省略したい。

(了)