少し前のこの記事。
http://www.47news.jp/CN/201407/CN2014071501000902.html
安倍外交にアジアの評価分かれる 越、比好感、中韓は否定的【ワシントン共同】米調査機関ピュー・リサーチ・センターは14日、安倍晋三首相の外交などに関してアジア諸国や米国で行った世論調査の結果を公表した。安倍氏が「国際情勢の下で正しい行動をしている」と考える人がベトナムなどで高かった一方、韓国や中国では批判的な見方が圧倒的で評価が分かれた。
ベトナムでは65%が安倍外交を評価。フィリピンも55%と高く、中国との領有権問題を抱える国々が首相の手腕に期待を寄せていることをうかがわせた。日本でも58%、米国では49%が評価。
対照的に韓国では94%が評価しないと回答し、評価した人は5%。中国でも評価は15%だった。
まあ、そもそもの問題として自国以外のA国B国の外交を「評価しますか?」と聞かれても人によっては「えっ」なのじゃないか、ということがあると思うのだが、それは折り込み済みだろう。
ついでに余談だが、韓国の3倍、中国で安倍外交が評価されているって(笑)。15%というのは決してこの状況では少ない数ではない。と同時に、こういう意見を調査に対しておおぴらに言えるほど中国に実質的な”自由”が拡大していることにも興味を覚えた。
その上で、上の数字はやはり重みがある。
安倍外交に、思いのほか支持がある理由は、無駄遣いだ物見遊山だと日刊ゲンダイ的に非難することもできる外遊の多さにあるのかもしれない。
子どものころ、選挙カーで走り回って名前を連呼して、有権者と握手する候補者を見て「みんな政策で投票するんだから、あんなの意味無いんじゃない?」と思ったのだが、とところがどっこい「ここに来てくれた、演説してくれた、握手してくれた」というのは思いのほか効果があり、支持されるものなのだ。
政権の安定性や、自民民主両方が与党を経験したことで「国会が閣僚の外遊を妨げる」規定が緩んだことも原因だとか。
むら@夕張は俺の嫁 @murachan2671 · 7月25日
日本の首相が中南米を訪問したのは10年ぶりか。つまり民主党政権当時の首相は誰一人行ってなかったってことだね。へぇ。
Takehiro OHYA @takehiroohya · 7月26日
一応弁護すると、これは自民・民主の違いより、安定政権かどうかという問題の方が大きい。首相が外遊可能な日程は限られているので、短期政権だと欧米先進国・アジア近隣諸国でタイムアップになる。10年前が小泉政権であることも参照。
もっともこの点では、安倍首相のライバル習近平主席も負けていない。彼も外遊は、主席としては例がないほどかなり頻繁に行っているそうだ。
ベトナム、フィリピン、それからオーストラリアを加えてもいいかな、そういうところで安倍外交が上の世論調査のみならず、首脳の発言などでも支持されているのを見て、「本当に外交は、利益のみだなあ」ということがしみじみ分かる。
別に彼らが安倍氏の「うちゅくしい国」や「あたらすい国」に共感しているわけでもないのだろうが、林子平をもじって言えば「江戸の日本橋より東シナ海、南シナ海、境なしの水路なり」だ。「いま、そこにある危機」が中国との領海、島嶼をめぐる紛争である以上、「海上の法の支配」を旗印に掲げながら、暗に明に中国と対抗する安倍政権が、彼らにとってありがたくないはずはないし、その理念がハト派だとかタカ派だとかは関係ないだろう。
というか、「日本がハト派なら喜ばれ、タカ派なら嫌われる」という前提自体が、そもそも存在していない。その逆もしかり。北東アジアではそうかもしれないが、例えば「朝鮮半島で有事があったさい、日本の基地を米軍がそのために使うのは日本政府の許可が必要」というとっても”ハト派”的見解が、韓国で猛反発を買ったりもしたしね(笑)。
その一方で「日本を前衛に出して対中牽制を担当してもらい、自分たちはそれにフリーライドして中国との関係を悪化させない」という戦略も、特に豪州やインドにはあるようにも見える。
個別の記事を探したかったが時間が無いので、まとめ的記事を紹介。まー、かいてるのはヤギヒデツグ氏だけど(笑)
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140705/dms1407050830001-n1.htm
「東アジアで集団的自衛権を認めないのは、中国共産党と日本共産党、社民党だけだ」マイケル・グリーン米元国家安全保障会議アジア上級部長は、自民党議員にこう語ったという・・・(略)
6月には、フィリピンのアキノ大統領と、オーストラリアのビショップ外相が、5月にはシンガポールのリー・シェンロン首相と、ベトナムのダム副首相が、4月にはマレーシアのナジブ首相が、昨年9月にはタイのユタサック国防副大臣が、同年1月にはインドネシアのユドヨノ大統領が、それぞれ支持を表明している。
なんとも、みんな損得勘定で動くような感じだが…
ただ、「アジア外交はみんながオウンゴールの数を競っている」というような一時の混乱から脱して、このように構図が見えてきた感はある。ただ、傍目からは中国の、フィリピンやベトナムとの関係悪化はまったく余計なことのように見える。これに比べたら日本との対立は必然性が分かるのに。まあ、外国は逆に「ジャパンの対中牽制戦略は良くわかるし支持するが、ヤスクニ・シュラインへの参拝はまったく無用な摩擦で、何のためやってるかわからん」という評価を、参拝当時よく聞いた。あれと同じなのかもしれない。
そして日韓、日米、米韓関係だが……
「反日」朴大統領を叱責 米政府高官が極秘訪韓「安倍首相に反対するな」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140730-00000017-ykf-soci
韓国紙・東亜日報(日本語電子版)は28日、非公式訪韓したズムワルト氏が、李京秀(イ・ギョンス)外交省次官補や、朴氏を支える大統領外交安保首席室関係者らと会談したことをスクープし、「日本の集団的自衛権行使に対し、米政府が韓国の協力を求めてきた」と報じた。米国の安全保障政策に詳しい杏林大の田久保忠衛名誉教授は「米国にとって、北東アジアの安全保障政策の要は『日米韓の三角形』だ。これで中国やロシアなど、ユーラシア大陸からの圧力を防ごうとしている。ズムワルト氏が訪韓したのは『そんなことも分からないのか』『いい加減、反対するな』と説得しに行ったということだ」と解説した。
集団的自衛権をめぐっては、オバマ米大統領やヘーゲル国防長官らが繰り返し「歓迎」の意志を表明している。韓国政府も今月1日に日本政府が憲法解釈の見直しを閣議決定した際には「戦後の平和憲法に従った防衛安保政策の重大な変更とみなし、鋭意注視する」と抑制された対応にとどまっていた。
ところが、韓国政界では、与党・セヌリ党の咸珍圭(ハム・ジンギュ)報道官が「日本の集団的自衛権行使容認の方針に、わが政府が甘く対応してはならない」と述べるなど、与野党が一致して…
これはゲンダイと同様、そもそも「夕刊フジ」の記事なんだからそういうつもりで読むべきだが(笑)、読むとわかるようにもとは東亜日報の記事。
大統領制度のもと、議会から圧力がかかって行政が路線変更をしなきゃいけないことは米国が一番理解してるだろ、とも思うのだが、それでも米国が「いらだち」を示すことはわからないでもない。
というのはオバマ外交は理念型だと当初は期待されていたが、基本、やってることは「ことなかれ外交」で、理念もへちまもあんまり無い。
李明博政権の後期から続く、日本と韓国の外交摩擦にいらだち続けた結論は「とりあえずいい悪いは別として、まずは協力せいや。ほかの話は凍結して。な!!!」になるというのは、オバマ政権のあり方としては分かりやすい流れだ。
さらに、世界中からそう見える「韓国が、中国の勢力圏に取り込まれつつある」という最近の動きが、米国から見る韓国の立ち位置を変えているのは間違いない。
こういう動きは、「オバマと安倍は、肌合いが合わず人間的な親しみの関係ができていない」というほぼ間違いないだろう命題とは並んで存在し得る。(もっとも、オバマ大統領と人間的な盟友関係、特別な親しみを持つ西側首脳、というのがそもそもあんまり思いつかないのですけどね。フランスのオランドかな?)
日本と韓国との対立関係が「千日手」に持ち込まれ、アメリカによって対立が凍結させされて、表面上の実務関係は進む…というのは、日本の勝ちか、韓国の勝ちか…これはマストデシジョンで判定したら面白いのかもしれないが、基本的にはWIN-WINだろうと思う次第。
安倍外交は実質的に「谷内正太郎」が仕切っているという見立てがある。そもそもの「地球儀俯瞰外交」というのも彼の構想だという。自分のポジションから語るから、評価にどれほどの信憑性があるかはちょっと留保しなければならないが、実質いま日本で一番影響力のある外交評論家になった佐藤優氏が谷内氏を高く評価していることもあり、不思議な幻想があるものだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34539
谷内氏は、国際社会が新帝国主義的に転換していることを認識している。外務事務次官時代に、戦略的外交を展開したことで、内外の外交専門家から谷内氏は高く評価された。谷内氏の下には「チーム谷内」と呼ばれる優秀な外交官のグループが、語学閥や専門分野を超えて集まった。兼原氏は「チーム谷内」の中核となる人物である。
佐藤優氏の評論より分かりやすい、御厨貴氏の論評記事がある
(※全文を読むには要登録)
御厨貴の政界人物評論:第8回 谷内正太郎 ブレない「外交の職人」−毎日新聞 http://mainichi.jp/shimen/news/20131114ddm004070011000c.html
(略)…谷内を見る時、まずは「官僚」「外務官僚」といったくくり方から自由でなければならない。そう言うと、「異色の」「型破りな」「らしくない」と言った対照的なくくり方で、人はすぐ理解しようとする。それも違う。谷内をあえて評すれば「外交の職人」である。最初に外務省という組織ありき、その先に累進出世して大使というポストありき、というタイプとは無縁なのである。いわゆる外務省の「文法」や外務省的ジャーゴン(職業用語)の世界に、谷内は入省当時からなじめずに違和感を持ち、むしろそれらを相対化する視点を養った。それができたのは、彼が既に入省時に「外交の職人」たるべき精神的支柱を得ていたからに他ならない。
土曜会と若泉敬、端的に言ってこの二つだ。圧倒的に左翼全盛の昭和30年代に、学生として反時代的な思想を求めて、土曜会という大学横断的な読書会に参加したこと、その点で既に少数派であったこと、土曜会を通じて最も政治的にアクティブだった若泉敬と知り合ったこと、である。
ただし谷内はこの二つに対しても、相対化する視点を当初から持っていた。だからこそ、土曜会にあっても決してウルトラ右翼にはならぬし、若泉に学んだのは政策論ではなく、人間としての生き方であったと言い切るのだ。
(略)谷内によれば、右翼のフィールドは三つに分けられる。第一が天皇制。第二が歴史認識。第三が安全保障。大事なのは三点そろい踏みというわけではないということだ。
谷内は第一と第二にはシンパシーがなく、むしろ靖国問題には批判的だと語る。外交の職人としての谷内は、右と言われてもそれはあくまでも安全保障のフィールドに限定してのことだと語る。
最後の太字部分が重要かもしれない。
この谷内正太郎が仕切っている、プラス、どうもスピーチライターに個性的な人材がいるとかいないとか。
安倍首相の「名言」生み出すスピーチライター 元「日経ビジネス」記者が大活躍している
http://www.j-cast.com/2013/09/26184760.html?p=all
もっとも「名言」とカッコつきで語られるように、賛否が巻き起こるようなものが多いという。ただ、もともと日本の歴代首相の外交関係での演説なんてそもそも賛否どころかだれも興味を持ってないし、そこでの発言が議論になることもなかったわけでな(笑)。
結論 安倍外交が「孤立化」に進んでいるとの意見は当たらず、控えめに言っても「賛否両論」或いは「世界で一定(一方)の支持を得ている」。だが、危険性があるならそれ自体が危険なのではないか。
そう思う理由は簡単で、安倍の外交や「美しい国」路線が、本当に世界からの孤立化をもたらすのなら、構造的にそれ自体がブレーキになるからだ。「いくら掘っても 畑にゃ ハマグリ 出てこない」と寅さんも言うてたではないか。
ところが南シナ海(西フィリピン海)などの牽制を期待して、フィリピンやベトナムが日本の陣営を支持応援し、豪州がそれを理念的に応援し、またアメリカが「世界の警察官」の負担にあえいで、それの肩代わりとして集団的自衛権を支持し、韓国が不満だらけながら米国の圧力でそれへの批判を抑制する…
となると、それこそが中国との対立関係を深めるものになっていくのではないか。そしてその「先陣」を任されることになる。
もっとも、集団的自衛権や集団的安全保障が本当に法整備されて具体化するとき、日本が最初に直面するのは「パトレイバー2」のように、日本の国益と直接関係の無いような、遠方の国のわけのわからない内戦に介入(平和維持も含めて)し、人命を奪ったり奪われりすることだろうと思う。
ただ、もっと大きい危険性はやはり、安倍路線が一定の国から支持、支援されることで、中国との軍事的対立が固定化されることなのだと自分は思っている。
この「安倍外交は一定の支持を世界で受けている」「そしてそれゆえに危険なのだ」という見立ては「安倍外交で日本は世界からどんどん孤立化の一途」という見立てよりはリアリティがあると思うのですが、いかがでありましょうか。
追記
こんな話が、すこし関係しているかもなので転載する。
ソウルからヨボセヨ 孤立しているのは…
2014.8.2 03:14 [外信コラム]
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140802/kor14080203140002-n1.htm先日、韓国の新聞が日本政府の恒例の外交行事である「自衛隊創設記念レセプション」にイチャモンをつけ、会場のホテルを反日で脅したのもそうだ。こんな国際的非常識に韓国駐在の外交団もあきれたらしく、急遽(きゅうきょ)会場となった日本大使公邸には例年になく各国大使が多く出席し、日本を激励してくれている。
ホスト役の日本大使館武官に後から聞いた話だが、オーストラリアの武官などはわざわざ胸に旭日旗バッジをつけてやってきたという。旭日旗を軍国主義の象徴として非難する韓国への皮肉である。