もう、あちこちに関連記事が林立しているので紹介の労は略して「はてなブックマーク見てね」で済ませても罰は当たるまい。
b.hatena.ne.jp
そして、問題そのものの話は(かなり真っ先に、既に書いたし)もう省略して、自分の個人的興味をかく。
岩田健太郎氏は
1:さまざまな活躍の実績もあり、
2:著作もあって知名度もあり、
3:メディアの方々にも面識ある人は多い。
4:さらにいえば英語も堪能だ。
3と4の両方の資料としてひとつ。
岩田教授の英語は、非ネイティブの英語としては極めて質が高いと思う。まず論理的で、よどまずスムーズ、余計な合いの手の単語がなく、スピードも的確なのでネイティブから分からないと言われない英語だ。BBCやCNNも、もし不明瞭と思ったら容赦なくスーパーするはずだがそれがなかったことでもわかる。
— Toru Takagi/高木徹 (@ToruTAKAGI) February 19, 2020
高木徹氏は、「戦争広告代理店」「大仏破壊」の著者であるNHKディレクターであることはいうまでもない
だから、影響力有るメディアをどこでも選んで「ちょっと情報がある、インタビューしてもらいたいんだけど」「記者会見を開きたいので、〇〇記者会で設定してもらえる?」は、おそらくはたやすくできる。
だが、彼は自分で動画を撮って、それを動画サイト(youtube)にUPする、という方法を選んだのだった。
今回は、岩田氏が自身のウイルス感染を懸念して自主的な隔離を行っているときだった、という特殊事情もあるっちゃあるんだけど、まあ、やろうと思えばテレビ電話などでインタビューに答えることも、ことによっては会見もできるから、そこは考慮しなくてもいいか。
2020年の「いま、ここ」から見れば「そんなの当たり前の選択やんけ」で済む話ではあるだろう。
だが、ちょっと感慨深いのは、自分がはじめに「youtube」というものが出来て、へえついに動画が自由に投稿できるのか、となって、だけどその多くは、懐かしのTV番組や音楽なんかをUPするという使い方で(笑)、そういうもんだろうな、と受け入れた所に…いま探せばどこかに出てくるのかなあ。産経新聞が「youtubeというものが、世のなかの話題になってるよ。とくにアメリカで」という、そういう感じの記事を書いた。
その中で「アメリカでは今、youtubeで、どこかの公務員が、自分の職場の問題点(すごく曖昧な記憶でいうと、国境警備隊の装備、備品の貧弱さについて、だったと思う)を映像で映しつつ、経験談をそのまま話して告発したことが政治的に大きな問題となり、議会やメディアでこの問題が取りあげられるようになった」というくだりがあり「あっ!そうか!!youtubeで、使い方によってはそういうこともできるんだ!!」と強烈に印象に残ったのでした。
※どなたかお判りでしょうか?youtube黎明期に、アメリカで話題になった「公務員が自分の職場の問題点を一人語りで告発し社会問題になった」事例とは何か。
今回は、それをそのまんまトレースしている、ともいえるんだけど、
日本でそれを語る場合、間にこの話題を絶対挟まなければならない。
そこで引用してたやつだけど、ちきりん氏が、この時…2011年にこう指摘した。「今回の一件で、かなりの一般層…ネットなんて知らない、見たことないって人にすら『youtubeというものがあり、そこで動画を見られる』と知られるようになった」と。
……想像してみると、この事件のインパクトがわかります。今回の事件で「世の中にはYou Tubeとかいうものがあるらしい」と初めて知った人が何十万人、もしかしたら百万人単位で増えた可能性があるのです。
朝日新聞だけではなく読売や毎日や産経など他の新聞も、今回の事件について相当のスペースを割いて報じています。その中には必然的に「ユーチューブとはなにか」という説明が含まれるでしょう。各誌の購読者数はごまかしが多すぎて真偽不明ですが、それでも地方紙まで全部あわせれば日本全体で 2000万人くらいは、自宅に新聞を購読している高齢者がいるはずです。
その中で何人くらいが今回初めて「世の中にはゆーちゅーぶとかいうもんがあるらしい」と知ったのかなーと考えるとちょっとクラクラしちゃいます。
テレビも同じです。NHKのニュースはもちろんお昼のワイドショーまでがユーチューブの画面を写しながら、ハンドルネームとは何か、SENGOKU38の意味は、などと懇切丁寧に解説しています。
つまり、You Tubeどころか「動画投稿サイト」という概念を知らなかった層に向けて、新聞やテレビと言う既存メディアが、彼らの主たる視聴者と購読者に向け、彼らにわかる言葉で、大量の解説情報を届けてくれているのです。
chikirin.hatenablog.com
そこから10年。youtubeそのものの拡大と発展もしかりだが、世代もちょうど10年スライドし、「高齢者」といってもネット&パソコンにまったく縁も興味もなかった層から、「仕事で使ってたよ。時間ができたからむしろ退職後にネットをよく見るようになった」な層に。そしてついに電話がスマホに切り替わり、孫の動画をみるために詳しくなった層もいる。
そんな状況では
「何か社会に対していいたい!!」
「自分は社会の不正を見た!! その証拠もある!!」
「その情報が世間に拡大してほしい!!」
という人が、記者会見ではなく、新聞への告発や情報提供ではなく「自分で一人語りの動画をUPする」になるのは当然、になってしまった。もちろんテキストでもいいし、テキストの次元では既にプレスリリースよりは、自分のブログやtwitterで発表する……というのが当たり前になり過ぎて、「メディアを通じた発表ではないこと」が話題になることもなくなってしまった。だって世界の最高実力者、アメリカ大統領が毎日それやってるもんな(笑)
とはいえなあ。
実は尖閣映像流出事件、sengoku38事件の時も、毎日新聞だったか…… 「公務員が、秘密情報をもとに政権の問題を告発するというのは(場合によっては)いいが、それを直接動画を流出させるなんて方法をしちゃだめだ。新聞社などにぜひご連絡ください」と呼びかけていてな。
これは自分の利益というわけだけでもなくて、たしかにそこでワンクッションおけば、責任などの部分もメディアが引き受けることができる、という話だったはずで…
ちょっとまったー、検索したら引用やリンク先を残してたよ!!俺グッジョブすぎるわ
熱血!与良政談:尖閣ビデオが示すこと=与良正男
…政治家の「年金未納」が次々と暴露されたのは今から6年前だ。恐らく旧社会保険庁内の人間が情報提供したのだろう。あの時も報道の主役は週刊誌だった。私はこれまた「なぜ新聞にたれ込んでくれないのか」と複雑な思いにかられ、「情報提供する側が、どこが最も『効果』が上がるかを考え、メディアを選ぶようになっている気もする」とコラムに書いた。さて、海上保安庁職員が「自分が流した」と名乗り出た「尖閣ビデオ」の流出事件だ。「これは現政権へのクーデターではないか」とか「だから最初からビデオを国民に公開しておけばよかった」とか。論点はさまざまあるが、もう一つ、私がこだわりたいのは、流出先がインターネットだった点だ。ネットという媒体が、これだけ政治を揺るがしたのは、日本では初めてだと思うからだ。 もし、映像が入ったDVDがテレビ局に送られてきたらどうだったかと…
大石泰彦(メディア倫理) 「戦前を思い起こさせる」
……政府の方針に納得できないからと言って公務員がネットに情報を流出させる行為は許されるべきではない。戦前、一部の軍人が自分の正義感に基づいて起こした勝手な行動を思い起こさせる。
それでは公務員はどうすればいいのか。民主主義社会ではジャーナリズムが政府を監視する役割があり、情報の取り扱いのプロであるジャーナリストを通じて社会に訴えるべきだった。
ただ映像だけが流れるネットでは、受け取る側は感情に流れやすい。
ジャーナリストによる見極めや十分な解説が加えられた情報の方が正しく判断ができる。取材への協力は正当な行為であり、ジャーナリズムも取材源として守るという形が望ましい。
今後もネットを使って内部告発をしようとする人は現れるだろうが、今回改めて明らかになったのは、ネットを使うと足が付いてしまうということだ。漫画喫茶の匿名性は高いが、距離的に近い神戸海保が捜査対象になったことは疑いない。防犯ビデオと付き合わせれば絞り込みは時間の問題だっただろう。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) November 11, 2010
記者として、やはり内部告発は報道機関を通してほしい、ツールとして使ってほしい、と思う。記者や報道機関にとって取材源の秘匿は絶対原則で、これを守ることは徹底して教育されている。捜査機関の取り調べを受けようが、明かすことは絶対にない。押収されるような証拠を残さないノウハウもある。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) November 11, 2010
関連
togetter.com
これがあながち間違いではないことは、組織の一員ではない岩田氏は実名で告発できたが、
現在組織の一員であるスタッフは、ハフィントンポストを通して匿名で意見を述べたことでもわかる。
www.huffingtonpost.jp
自分は、こんな漫文を書いたことがある。
ジャーナリズムの使命感だ能力だとはあんまり関係なく(笑)、これまでの判例、法律論に沿っての「機密情報(守秘義務)のろ過機能」はジャーナリストにはあるんで、それを活用するというのは、それはそれで悪くない考え方ではある。
「今日からおれって、ジャーナリストです。あれ?ここに機密情報が。アップしましたー。経路はニュースソース秘匿でよろ。」
ってのはいいのかね(笑)?
(略)タイトルをシミュレーション仕立てにすると今回。
保安官「おれ、映像の流出を決めたわ」
その信頼できる友人「んじゃ、おれニュースサイト作るわ。はてなに登録。『ポコペンニュース』できたー。」
保安官「んじゃ、はいこのメモリースティック」
友人「うぷぷ、UP完了。俺のサイトにyoutubeはりつけたわ。ポコペンニュースのスクープwwwうけるwwww」
保安官「んじゃ、俺のことは黙っててね」
友人「おkおk、『ジャーナリストはニュースソースを秘匿します』ってWW 超かっけーwww」
動画のUPは、「記者会見を開きたいのに開かせてくれない」時にも有効だからね
鹿砦社の記者会見申し込みを大阪司法記者クラブが全社一致で拒否 : デジタル鹿砦社通信
李信恵によるツイッター上での度重なる、誹謗中傷を受け、鹿砦社はやむなく大阪地裁に李信恵を相手取り、名誉毀損損害賠償の提訴を行った(第13民事部合議2係、事件番号=平成29年(ワ)第9470号)。
そして11月1日午後、大阪司法記者クラブ(大阪高等裁判所の代表番号06-6363-1281から内線でつながる)に同訴訟の第一回期日である11月9日閉廷後に記者会見を行いたい旨申し入れるため、社長松岡が以下の「会見申込書」を持参し同記者クラブへ赴いた。
松岡 「記者会見の申し込みをしたいのです」
女性 「失礼ですがどちら様でいらっしゃいますか」
松岡 「鹿砦社と申します」
女性 「少しお待ちください。幹事社の朝日新聞を呼んでまいります」
(略)
「全社一致で記者会見は開かないことになりました」と采澤記者は言い放った。「社会的に(被害者として)注目を浴びている人が加害者になっている事件は報道の対象にならないのですか?」と問うた松岡に、采澤記者は「記者会見を開かない理由は言えません」と答えた。
たとえば、こういう時に「では、自前でネット上での”会見”を行う」というのが、一種のオルタナティブにはなるかもしれない。本当に奇矯で些末な、ニュース価値のない内容なら単に評判にならずに終わるだろうし、逆に本来のニュース価値は大きいのに、その価値判断の見誤りや何かへのソンタクで、不当にも記者会見が開かれなかったのなら、再生数やコメント数、ブクマ数などによってそれが可視化されるだろう。
スピードの問題もある
告発しよう!!と思って、動画を撮影してUPするのはホンのすぐ。生配信でもすれば時差はゼロだ。
メディアに載るには、記者に連絡、相手が報道すると意思決定、取材、ファクトチェック、執筆あるいは編集、そして印刷と配布、あるいは放送……と時間がかかる。これは必然だし、逆にそのゲートをクリアしたということで信頼性を増すこともあるのだろうけどね。
ただとにかく、メディアが告発を誰かから受け取り、自分らの取材を経て伝える…という行為、
そこはそこで存在価値もありつつ、尖閣動画流出から10年たって「告発を自撮りの動画をUPすることによって行う」が、少なくともその手法においては何の違和感も疑問も抱かせることなく「あ、アレね」となった、そんな令和2年の風景を記録しておきたい。 (了)