これについて、ひとこと申し上げたい。
呪文というものは、よく色々なものに出ているけど、何かの作用を与えるために、超自然的な力、神や悪魔や精霊に祈ったり命じたりするものですよね。
で、その時に出てくる価値観とか比喩とかが、あんまりに「そのまんま」だと、「どうかなあ」と思うんですよね、個人的に……
たとえばね、あくまで例えだから、いま自分で考えちゃうけど
「火の玉を出して相手にぶつける」
みたいな呪文があるとして……たとえば、
「火をつかさどる、灼熱の神よ!!邪悪を打ち砕くため、汝の力を我が杖から解き放て!!」とだったら、ちょっとベタな気がするわけですよ。火を出す力のもとが「灼熱の神」で、「邪悪を倒せ」とか、そのままの発想すぎてね。
では、実際のを見てみよか。
急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)
陰陽師のみならず、密教や修験道でも使われる呪文なので、鬼や怨霊と戦うようなメディア作品で、最も多く使われている呪文であるといえるでしょう。
一時期流行った、『キョンシー』の額に貼る御札にも書かれています。
これは、中国漢代の公文書の末尾に書かれていた決まり文句で、『急いで律令の如く行え』、要するに、『急いで事を成せ』という命令句です。
このことからもわかるように、 急急如律令は単独では基本的に効果がありません。
ほかの呪文や成し遂げるべき目的に付属させることで、早急に成就させるための呪文なので、たとえば、『六根清浄(ろっこんしょうじょう)急急如律令』とすると、『至急、六根(眼、耳、鼻、舌、身、意)を清めよ! 』となるのです。
ね、「急げ」と命じる際に、『急いで律令の如く行え』という言い方で、命じるというところに、その呪文が作られたところの文明、文化、価値観がにじむわけ。ああ、そこでは律令というのが規範の象徴なのだな、と。
そういえば、映画「十戒」で、ファラオやその一族が命じた命令は「…かくのごとく記録され、実行されるべし」と最後に付け加えられるのだった。エジプト文明において、記録がいかに重要か、みたいなことが、説明抜きでわかるっしょ。
そんな感じで、自分がもし、なにがお気に入りの呪文をひとつ推薦せよ、と言われたら、これになる。
きけ!俺はいまお前の魂を踏んづけにきた
(俺はお前の一族を知っている)
(俺はお前の名前を知っている)
(俺はお前の鋤を盗って、土に埋めた)
俺はお前の魂を土に埋めてやる
俺はお前に黒い石をかぶせてやる
俺はお前に黒い布をかぶせてやる
俺はお前に黒い板石をかぶせてやる
そしてお前は永遠に消えていく
お前がいく道は
冥府の国の丘のあいだの
黒い棺へ続くのだ
丘の上の赤土がお前を覆う
冥府の国の赤土がお前を覆う
お前の魂は消えていく
お前の魂は青くなる(註:青は絶望の象徴)、
夜の暗黒とともに、お前の魂はしぼみ、はかなくなり
そして永久に消えていく
きけ!
あるネイティブ・アメリカンの部族で、詩人が唄ったとされる呪いの詩である。
(中公新書「アメリカ・インディアンの詩」より)
- 作者: 金関寿夫
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アメリカ・インディアンの口承詩―魔法としての言葉 (平凡社ライブラリー)
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ね、いかがですか。
「俺はお前の鋤を盗って、土に埋めた」が、なぜ呪いになるのかわからないし
「俺はお前の一族を知っている」「俺はお前の名前を知っている」も同様だ。だが、「ああ、この文化圏では、鋤を盗む、が征服や勝利、相手の滅亡を意味するのだな」とか「名前を知っている、が呪いの発動なのだな」とか、なんとなく類推できるじゃないですか。また民俗学脳なら…「古代日本でも、名前を知る、知られるということが呪術的に大きな意味があった。ふむ、そんな共通点があるとは…」とかと妄想できたりする。
これが載っているのは3巻だけど、ほかにもいくつか詩が紹介されている。
- 作者: 村枝賢一
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「いのちとは、野牛の吐く吐息」なんて発想、そこで暮らし、狩り、戦ったものでないと出てこないわ。
創作の呪文とかも、こういうふうな発想をしつつ…その一方で、逆にまったくもって理解不能なものであってはいけない。
戦士「ドラゴンが襲ってきた!早く防御魔法を!!」
僧侶「屋台のたい焼きよ、しっぽにあんこが入っているのが高級なたい焼きだ、なんて俗説にまどわされず、しっぽは甘みを中和するあんこなしでかりっと焼き上げたものを我に与えたまえ」…なんて呪文だったら、その文化体系でどう繋がりがあったとしても理解しがたいでしょ(笑)
根本の部分は…「ああ、何かの防御を祈っているんだな」と読者に思わせつつ「へえ、何となく察せられるけど、この魔法の文化体系では、〇〇に大きな価値を認めているのか、面白いな」とも思わせる…そういう呪文を、頑張って各位は創作してほしいのでございます。
似たような話では、「ことわざ」があるんだけど、清水義範氏の作品の中で「酒席で皆が、アフリカのことわざをでっちあげる」というお話があった。あれ、なにがきっかけでそうなったんだっけかな(笑)
「きらきらした首飾りをした族長をみたことがない部族は、良い族長を頂いている(偉い人ほど謙虚であるべきだ)」とかは印象に残っている。
まあ、アフリカのことわざはことわざで、リアルに存在しているし、そういうのを紹介するtwitterや本もあるんだけど。
- 作者: アフリカのことわざ研究会
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「早足で行きたいなら、ひとりで歩いてください。遠くまで行きたいなら、ほかの者とともに歩いてください」 アフリカ(不詳)
— アフリカのことわざ (@africakotowaza) 2019年3月7日
「月を眺めるのに背が高い必要はない」 アフリカ(不詳)
— アフリカのことわざ (@africakotowaza) 2019年3月7日
「象は、自分の象牙が重いからといって、泣き言を言ったりはしない」 モンゴ人(DRコンゴ。梶 https://t.co/HMX8foXlsJ ) ※若者への挨拶としても(挨拶を諺で返す文化)
— アフリカのことわざ (@africakotowaza) 2019年3月5日
「ニャンコポン神が殺さないのに、凡夫が殺そうとしても、あなたは死なない」 アカン人(ガーナ) ※オニャンコポン、ニャメ https://t.co/UBp6LhgAJv
— アフリカのことわざ (@africakotowaza) 2019年3月2日