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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

推理小説、輸入黎明期の物語〜岡倉天心が、ホームズ話をネタに「お銚子もう一本」をせしめる話

twitterを再構成。

【ミステリー特集5】【創作系譜論】

この季節、話題のノーベル賞。日本人が2人受賞し、どこかで国の比較や、個人の栄誉か国の名誉か…的な話が例年通り、質の悪い吹き上がり方をするけど、受賞国の差、特に「○○国が多い、少ない」という話を考える時、それを確実に左右するお国柄があると思う。
…それは「そのジャンルに若い時、出会える環境か」だ。
 
どんな天才的才能がある子でも、まず科学、文学、教育に触れて、そこで興味や知識を養わないでノーベル賞が取れるわけがない。労働も尊いが、少年少女がそういうものに触れられる機会を増やしてこそ、天才科学者も文学者も生まれる。

だが、
その一方で、「正統な学問」だけ学ぶのも懸念がある。
 
たとえば中韓の高等教育が進み、科学論文の発表や被引用数が増えているのは慶賀の至り。
※【注意】最近の当ブログ、リンクを貼るとURLは正常なのに404になったりして読めませんが、実際は先方のページは生きています。ご注意の上検索など適宜工夫を

これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!! #BLOGOS http://blogos.com/outline/132845/


だが、一方で「日本のアニメに出てくる部活、学校サークルって何?うちにはないけど、日本にはほんとにあるの?」という話を時々きく。
そういう寄り道・わき道文化も、クリエーターを生む環境になるわけで。
これな。
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『中国オタク的に日本の部活動は二次元世界の夢物語?』
http://blog.livedoor.jp/kashikou/archives/51313800.html


…ざっと見た感じでは中国オタク的に日本の部活動はリアリティを感じられる話ではなく、どちらかと言えば夢物語的な感じのようです。

中国では運動系文化系問わず、基本的に日本の部活動のカテゴリに有るような「学校における通常の学習以外の活動」は、選抜された優秀な人間がやるということになっていまして、日本の学校における部活動的なものは存在しません。

まあ、逆にいえばこういう環境でも育つ中国などのオタクはスーパーエリートやも(笑)。同時に、時代が進めば、こういう伝統がある国であっても、やはり文化や趣味に関する、いろんなわき道も増えるでしょう。



ようやく本題…に入る前の、
さらに一つ前の話なんだだが、ミステリー作家、それも「独創的トリック」つーのも、世界中に均等に才能がちらばってて、それが覚醒する環境=ミステリー環境があるか、ないかだと思っているのですわ。
既にそうであって、輸入されてないだけかもしれないが(その可能性は大いにある)。


たとえば中国・韓国・台湾・香港にシンガポールインドネシアベトナム、ペルー、カザフスタンタンザニア……などなどには既に同国の「ミステリーの神様」な作家がいて、とんでもなく独創的なトリックの傑作を出してるのかもしれない。

逆にまだまだ「ミステリー未踏の地」もあるかもしれぬ。もしそんな場所で、若い世代がミステリーの面白さを知ったら…


…というのは、変形の「アーサー王宮廷のヤンキー」というか「文明で異世界を啓蒙ロマン」のたぐいだと怒られるかもしれない(笑)。

「歴史改変」「文明チート」の元祖?マーク・トウェインアーサー王宮廷のヤンキー」はすごいらしい…そこから色々考える - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150825/p2

だが、推理やSF(漫画)の面白さを知る身としては「この楽しさを世界にあまねく広めたい。そして世界の、すべての才能がそれを描ける環境が出てほしい」と考えたりするのであります。


……てな話は、すでに2012年に書いてまして、その再論です。

「ミステリーの国際連帯」はあるのか・・・怪盗と名探偵は、国境を越えたか? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121014/p3

ここで語った「小説丸ごとの翻訳出版は難しいだろうから、トリックだけの翻案権売買マーケット、国際見本市はないか? それぞれの国で、そのトリックをもとに『お馴染みの探偵』が謎を解く。コナンも金田一少年も喜ぶ(笑)」は、結構本気。
 
もちろん、その記事で紹介しているように、中国や韓国にもすでにミステリー市場は育っている。てか、中国で屈指の日本人気キャラは「コナン」じゃねえか!!
こんなアジアミステリ紹介サイトあり

アジアミステリリーグ http://www36.atwiki.jp/asianmystery/

しかしこういう、紹介者がいるところも、やはりひとつの日本の厚みかもしれん。


「コナン」の中国人気についての資料。ほかにも山ほどある。

名探偵コナン」が中国で大人気!日本放送後、世界最速タイミングで動画サイトで配信 - シネマトゥデイ http://www.cinematoday.jp/page/N0074808

この視聴者の中に「俺も推理もの書く!」な中国人がいないわけがない。
傑作がないはずもない。

思うに、「中国コナン・原作コンテスト」でもやってみて、中国にコナン少年が行って活躍する、という設定の原作募集でもしてみたらどうかね。
そこから、才能がぞろぞろ出てきそうな気がするんだが。

やっと本題。日本ミステリ(輸入)創世記の、岡倉天心の素敵なホームズ話。「まんが道」の新宝島の衝撃にも似て…

日本でも当然、「ミステリーという『新分野』に接した人々の、燃え立つような興奮」の時代があった。
その中でも有名…なように思えるが、あまり知られていない「ホームズと岡倉天心」の話、以前このブログではちょっと概要を紹介したことがあったが、そもそもその元ネタを探していた。
ようやく、元のテキストがどこにあるかを知ったので紹介したい。
※【注意】最近の当ブログ、リンクを貼るとURLは正常なのに404になったりして読めませんが、実際は先方のページは生きています。ご注意の上検索など適宜工夫を

http://blog.livedoor.jp/bsi2211/archives/52111605.html


岡倉一雄『父岡倉天心』(中央公論社・覆刻版)からエピソード部分を引用を交えながら簡略に記す―
(略)

ある晩、一雄は天心から、漢学と英文について今どんな本を習っているのか?と尋ねられる。漢学について答えると、では英文はどんなものを読んでいるかというので、「はい。ドイルの『アドヴェンチュア・オヴ・シャロック・ホームズ』です。」

  天心は、これに答え、ドイルの小説はおいらも好きで、書棚に3,4冊もっているから、ママさん(元子)や末娘・おこま(こま子)に話を聞かせてやると言って、一雄に院の二階の書斎から『スタディ・イン・スカーレット』もってこさせ、「英国の大衆作家中、随一といわれたドイルの探偵本」をくりひろげ、巧妙な座談で、面白く話して聞かせた。犯人が逮捕されるクライマックスになると、これから犯人の身の上話になるが、今日はもう晩いから続きは明日―
 
 
―と、言うと、こま子は続きが聞きたくてしかたがない。天心に催促すると、天心は、それならママさんにいって、もう一本お酒をもってこいと言う。これは天心の策戦で、当時、医者から酒2本と決められていたので、話の続きを聴きたがっていた元子とこま子をじらして、もう一本お酒をせしめようという算段。この策戦が効を奏して、追加のお酒を飲みながら、『スタディ・イン・スカーレット』を最後まで一気に語り終える。
 
  これが第一夜。第二夜が『サイン・オヴ・フォア』。第三夜が短編集『アドヴェンチュア・オブ・シャロック・ホームズ』の中の『イレーネ・アドラー事件』と『赤髪同盟会』の2譚。例によって話の途中で、お酒を1,2本要求してお決まり以上のお酒をせしめる。こういう晩が十数日続き、種本がつきると、「まだこのほかに、同じドイルのシャロック・ホームズもので、『バスカーヴィル家の犬』というものもあり、『メモアーズ・オブ・シャロック・ホームズ』という短編集もある。しかし、本が手もとにないから、話はできないよ。」


  こう言われると、話を聞きたくてしかたのない元子は、さっそく丸善へ駆けつけ、「シャロック・ホームズの一代記をください」と言って番頭さんを驚かせた。幸い勘のいい番頭だったらしく、元子は首尾よく『メモアーズ・オブ・シャロック・ホームズ』を手に入れ、その晩から天心の「妙味ある独特の話術」が始まり、十数日続いたが、とうとう種本がつき「連続講義」は幕を閉じた、という。


どうですか。
まんが道」にも負けず劣らずの、一つの娯楽ジャンルに初めて接した読者、ファンの衝撃を語る挿話で、読み直すとじんわりと感動する。

さまざまな文学賞も価値があるが、続き読みたさに天心の妻がお燗した「もう一本のお銚子」こそ、ホームズやミステリー全体への、巨大な勲章と思うのです。


こんな風に世界各地で「娯楽の相互交流、輸出入」が行われ…結果、また巨大な物語が生まれる。”クールジャパン”も、その一端を担えれば御の字ではなかろうか。

以上、ミステリー記念日からやや遅れて記す。

追記 こういう本があるらしい

戦前にコナン・ドイルシャーロック・ホームズに同時代人として接した人々の感想、受けた影響などを一冊にまとめました。その内容は以下の通りです。ホームズ・シリーズの著者としてのドイルだけでなく、心霊学研究家、冤罪を晴らすために行動する正義の人としてのドイルの側面もご覧ください。

コナン・ドイルの事  甲賀 三郎
モリアーチー教授   小酒井不木
緑柱石の宝冠    小酒井 不木
コナン・ドイルの逝去    浅野 和三郎
コナンドイル卿の葬儀   岩田 宗一郎
コナン・ドイル卿の存続   岩田 宗一郎
ドイルの通信   編集子
ドイル卿から通信
大阪便り   中村 弘治
コナンドイルの通信   岩田 宗一郎
探偵小説に就いて   萩原 朔太郎
麻畑の一夜   岡本 綺堂
オスカー・スレーター事件   松本泰訳
幽霊の穿めたる蝋製の手袋 コナン・ドイル
第六信――ロンドン雑記―― 浅野和三郎
ドイル氏の万年筆   K・S
「シャーロック・ホルムス」のモデル  高田義一郎
探偵ラジオ・ドラマ赤馬旅館  小栗虫太郎
ドイル雑感   山崎 貞
「呉田博士」を書いた頃の春影  三津木貞子
解説   平山 雄一