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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

カリフ復活とイスラーム国(IS)を材料に「国・忠誠・正統性」とは何か―をあらためて考えてみる

togetterでできるだけ時系列的に。自分もいくつかのまとめをしている。

イラクで反政府派が大攻勢」ーその経緯と分析 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/680116
 
カリフ再興に沸き立つ人々 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/686633
 
「カリフ制再興」宣言(IS)を読む~専門家の連続ツイートを中心に - Togetterまとめ http://togetter.com/li/686774 @togetter_jpさんから
 
「差別されるイスラム」と「残虐なるISIS」をめぐって - Togetterまとめ http://togetter.com/li/705593
 
空爆、少数者迫害説…カリフ国家「イスラム国(IS)」の現状と考察 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/705290

そのほか専門家の論文、文章

池内恵
「急転するイラク情勢において留意すべき12のポイント」『中東協力センターニュース』2014年6/7月号(第39巻第2号)、67−75頁
http://www.jccme.or.jp/japanese/11/pdf/2014-06/josei06.pdf
 
池内恵 今年のラマダーン・ドラマ、イチ押しは「実写版・カリフ制イスラーム国家の再興」 http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-153.html
 
池内恵 米国のイラク北部限定空爆の意図と目標 http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-172.html

【SYNODOS】カリフ制樹立を宣言した「イラクとシャームのイスラーム国」の過去・現在・将来/郄岡豊 / 現代シリア政治 http://synodos.jp/international/9659

まずは、イスラーム国が本当に、近代国家の思想的なオルタナティブになれるかどうかは、その統治の仕方にかかっているが、戦火の中の戦闘状態であるとはいえ、すでにボロがぼろぼろ出掛かっている…というかそのボロ部分が当人の宗教的見地からは錦に見えて、見せびらかしているところもあるようで。
ただし、残酷、冷酷な統治は統治の存続それ自体としてはプラスかマイナスか、といえばプラスに働くこともある。まあ反乱勃発から15年近く続き、ことしは滅亡150年の太平天国なみのものになる可能性も否定できないかと思います。



しかし、実際の統治や軍事的な巧妙さ、あるいは拙劣さ以上に驚くべき一件だったのは、この「国家」が掲げた「正統性」の根拠です。すなわち、「全ムスリムが忠誠を誓うべきカリフが、今ここに復活した」と。「だから、イスラーム国には正統性がある」と。(というかほかの国の正統性がなくなるかもしれない)。

もともと国が国である正統性をどんどん突き詰めていくと「ニワトリが先か卵が先か」「お父さんのお父さんのお父さんのお父さんは誰から生まれたの」な話になっていく。そこで、ウソでもいーから「自然権」「天賦の人権」「憲法制定権力」とかが出てくるんでしょ、よく知らんけど。
アメリカの独立宣言が「創造主」を、フランスの人権宣言が「最高存在」を持ち出してきてるのもそれだ。日本は…「人類普遍の権利」か。

「すべての人間は平等につくられている.創造主によって,生存,自由そして幸福の追求を含むある侵すべからざる権利を与えられている.これらの権利を確実なものとするために,人は政府という機関をもつ…」
 
「国民議会は、最高存在の前に、かつ、その庇護のもとに、人および市民の以下の諸権利を承認し、宣言する。」
 
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する

ここに当てはめるものは、何であっても等価っちゃ等価で、憲法の正統性の根拠=法源に「シャリーア」「コーラン」を掲げる憲法もいろいろある。

「イラン社会の真の文化、社会、政治及び経済の基本としてのイラン・イスラム共和国憲法は、イスラム社会の真の熱望を反映したイスラム的原理と戒律に基礎を置くものである。」(イラン憲法


「(エジプトの)1971年憲法が1980年の改正で,シャリーアの国法上の地位を「立法のための基本的法源の1つ」から「立法のための基本的法源」へと格上げしたことは上述したとおりである。この改正によりシャリーアはエジプトの法律の唯一の「法源(法の淵源,依って立つ根拠)」となり,シャリーアに反する法律は憲法に違反することになった,すなわち,シャリーアの国法上の地位は高められ,かつ明確になった,
http://www.jccme.or.jp/japanese/11/pdf/2014-02/josei03.pdf


「この人がカリフになりました。だから全ムスリムの統治者で、あなた方を支配します。正統性の説明、おわり」

たしかに反論とか、そういうアレではない。

税金とか、パスポートは別にして、今の国から「XXX国の国民」とか「XXXの臣民」になるのは簡単だ。心の中で、そう自認すればいい。

日本国憲法第22条2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

実はISのカリフさん「ムスリムは、可能な場合はわがイスラーム国に移住しなければならない」という命令を出しているんだそうだ。

http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/07/isis-leader-abu-bakr-al-baghdadi_n_5562501.html
「このイスラム国家に移住できる者は移住するべきだ。イスラムの地(House of Islam)への移住は義務なのだから」と、バグダディ容疑者は書面で述べている

イスラム教徒よ、自らの国家へ急げ。これはあなたがたの国家だ。シリアはシリア人のものではなく、イラクイラク人のものではない。この地はイスラム教徒、すべてのイスラム教徒のものだ」

「これは私からあなたがたへの助言だ。屈することなく貫き通せば、ローマを征服し、世界を手に入れることができるだろう。インシャラー(アッラーの御心のままに)」

日本から移住するとなると、あちらは暑くて大変だな。

長年にわたるジハード(聖戦)と忍耐を経て、神は、ムジャーヒディーンの兄弟たちに勝利をもたらした。そこで彼らはカリフの統治を宣言し、指導者たるカリフを置いた」「これは、何世紀にもわたって失われていた、イスラム教徒に課せられた義務だ」

そして彼は、全ムスリムの指導者であると自認し、全ムスリムは彼に忠誠を誓わないといけないとする。

http://digital.asahi.com/articles/ASG6Z2QRNG6ZUHBI008.html
 声明は「シリア北部のアレッポから(イラクの)ディヤラまで」を「イスラム国」とし、「世界中のイスラム教徒」に対し、バグダディ師をカリフとして認め、忠誠を誓うよう求めている。

まさにある意味、言うだけタダ。
「お前がそういうならそうなんだろう、お前の中ではな」案件であり、やっていることは「心の魔王 平口君」と同じなんだが

それで本当に忠誠を誓う人もいるわけですよ。

Muhammad Qayyim ‏@KahvaltiTurkmen 7月31日
私が近々研究発表をしにいくジャカルタのSharif Hidayatullah大学で大量の学生がISカリフのバグダーディーに忠誠を誓ったそうだ。

twitter上で有名なハッサン中田こと中田考氏は6月時点でこう表明している。

中田考 ‏@HASSANKONAKATA 6月11日
スンナハ派初代カリフのアブー・バクルシーア派初代イマームのアリーが、少なくとも現世的にはバイア忠誠誓約を交わして、協力してイスラーム世界(アラビア半島)の再統一を果たしたように、アブー・バクル(バグダーディー)とアリー(ハメネイ)がバイアを交わしてイスラーム世界再統一を果す!
  
中田考 ‏@HASSANKONAKATA 6月19日
@shamilsh @masanorinaito イスラームの繁栄のために、アブー・バクル(初代カリフ)にバイア(忠誠誓約)し協力した アリー(シーア派初代イマーム)に倣い、アブー・バクル(バグダーディー)にバイア、協力せよ、とアリー(ハーメネイー)に忠告するのが私の当面の目標。

ただ、本人としては・・・以前紹介したかな?これだ。

https://twitter.com/HASSANKONAKATA/status/483459804338200576
中田考 ‏@HASSANKONAKATA
@HASSANKONAKATA 私はムスリムとしては、イスラーム法上の義務であるため新生カリフ制イスラーム国を支持するが、イスラーム地域研究者としては、新生カリフ制イスラーム国が全ウンマを統べる真のカリフ制となり存続できる可能性には悲観的だ。
 
中田考 ‏@HASSANKONAKATA 6月30日 @HASSANKONAKATA
私としては、新生カリフ制イスラーム国(IS)を支持しつつ、私自身が考える「あるべきカリフ制」の啓蒙を続けていくしかない。カリフの名前を人口に膾炙させる事が、カリフ制再興のために私にできる唯一の貢献だろうし、ISの歴史的意義もそれにつきそうだ。

さて、ここで紹介したのはただISの話だけではない。
人間は、今現在世俗の中で暮らす現実の国…パスポートも納税も住民登録も含めて、のほかに理想の「心の王国」を持つことができるし、忠誠の対象を現実の統治者や象徴や、憲法体制に対して持つのでなく「心の王」に対して持つこともできる。
これは禁止しようとどうしようと、内心は裁けないのと同様に物理的に禁止は無理である。


世俗国家としてのイスラエルが物理的に建国される前から、自分を「イスラエル人」と考えた人がいた。スターリンの魔手でヒトのみされたリトアニアが、ソ連崩壊を経て復活するまで、アパートの一室で何の効力もない「パスポート」を発行し続けた元領事がいた。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050706/p2
「私たちは帰国命令を拒否しました。たとえ母国が占領されても、”リトアニア共和国”が存続することを同胞に示すためにも、この領事館は閉鎖してはならないと思ったからです」
「しかし今はもう本国のない領事館ですね・・・」
「ええ、でもリトアニアという国が地図から消えても、ここにその一部が残っているということは大事なことなのです」

もっと身近に例はある。「北朝鮮国籍」を日本政府は現在認めていない。だが「共和国公民」を自認し、38度線北の金王朝に忠誠を誓うという「心の王国」も存在する。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140118/p4



これはある意味で、人間がどこまでも自由である証であろう。
あるいは「国」が究極的には実態のないフィクションだ、という証明なのかもしれない。


では「忠誠」とは何だろう?

もともと自分は「誓約」とか「忠誠」というのを、どこまで実態あるものと考えるべきなのか首をひねるところもある。どんなに誓っても誓っても、そんな約束は破られるときは破られるではないか。徳川家康は、豊臣秀吉に何枚の誓紙を差し出したんだよ。

あの時 風が流れても変わらないと言った二人の心と心が 今はもう通わない

というではないですか。
でも、世の中は世俗の法でも「忠誠」「誓約」をしなければいけない場面も多い。

第3節 服務の宣誓
http://yusan.sakura.ne.jp/library/jieitai-sensei/
(一般の服務の宣誓)
第39条 隊員(学生、予備自衛官等及び非常勤の隊員(法第44条の5第1項に規定する短時間勤務の官職を占める隊員を除く。第46条において同じ。)を除く。以下この条において同じ。)となつた者は、次の宣誓文を記載した宣誓書に署名押印して服務の宣誓を行わなければならない。学生、予備自衛官等又は非常勤の隊員が隊員となつたとき(法第70条第3項又は第75条の4第3項の規定により予備自衛官又は即応予備自衛官自衛官になつたときを除く。)も同様とする。
    宣 誓
 私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。

ふーむ…あらためて文面を見て
いろいろ考えることもあったが
後日の機会に。

議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO225.html
第三条  宣誓を行う場合は、証人に宣誓書を朗読させ、且つこれに署名捺印させるものとする。
○2  宣誓書には、良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓う旨が記載されていなければならない。

http://miso.txt-nifty.com/tsumami/2007/06/post_9fff.html
刑事訴訟法 第154条
 証人には、この法律に特別の定のある場合を除いて、宣誓をさせなければならない。

◆ 刑事訴訟規則 第117条(宣誓の時期)
 宣誓は、尋問前に、これをさせなければならない。

カリフなりアッラーがいるなら、それに対して宣誓すりゃいいのだろうが、無明の世俗領域国家の国民は哀れだ(笑)。


そして極めつけ、アメリカ国籍を移民や亡命者が取得するときの忠誠の儀式だ。
なんどか紹介してますね。

(略)……女性の係官が短く区切りながら宣誓文を読みあげ、出席者がそれをリフレインしていく。
「私は、今日ここに誓います。これまで属していた国への忠誠をすべて放棄することを、そしてこのアメリカ合衆国に、あらゆる忠誠と忠節を尽くすことを−−。アメリカの法と秩序を守り、必要とあればアメリカのため、武器をもって戦うことを……
わずか2分ほどの宣誓文であった。そしてこの瞬間彼らは法的に「アメリカ人」となった。
裁判長からの祝辞である。
おめでとう。私は、皆さんを仲間のひとりとして心から歓迎します。今皆さんは、以前住んでいた国への忠誠を放棄すると誓いました。そして、このアメリカへの忠誠を誓いましたね。この誓いは厳粛なものです。皆さんは、以前いた国では、けっして幸せではなかったかもしれません。しかし国家への忠誠を怠れば、このアメリカでも同じなのだということを忘れてはいけません・・・・・」

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080421/p4


カリフへの忠誠と、米国への忠誠は両立できるのでしょうか。それとも片方を選んだら、片方の忠誠は放棄すべきなのでしょうか。



最後に余計な一言を「日本国とイスラム国(IS)は、原則的に互いを認め得ない敵国なのではないか?(理念面で)」

いや、書いていて思ったのだけどね。
日本国憲法前文に書いてあるやんか。

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する

これと、イスラム国が法の源とする「シャリーア」が対立するように、私は感じています。つまり憲法前文にて「排除する」と宣言している「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅」にシャリーアが含まれるのか、どうか。
私は含まれているように感じるのですが。


というのはさあ、ジハードの大波がユーラシアを席巻し、世界の東から西へ、北から南へ、ジハードの基地団がアッラーのためのジハードに関して堅固であることを知らしめるために勢力を拡大、ISの黒き旗がモスクワ、デリー、北京、ソウルに次々と翻るとしましょう。

かれらに対して、あなたの出来る限りの(武)力と、多くの繋いだ馬を備えなさい。それによってアッラーの敵、あなたがたの敵に恐怖を与えなさい。


あなたがたがかれらを殺したのではない。アッラーが殺したのである。あなたが射った時、あなたが当てたのではなく、アッラーが当てたのである。(これは)かれからの良い試練をもって、信者を試みになられたためである。本当にアッラーは全聴にして、全知であられる。

ということになったとするじゃない。
そしてあるいは、そんな剣呑な「剣のジハード」ではなく、真の教えに目覚めた敬虔なるムスリムがこの国にも平和的に増え、無明時代の多神教(淫嗣邪教)ではなく、そのイスラームに基づいた国家建設の声が高まったとする。
それが多数派となったとする。
そして、いよいよこの国の法を、シャリーアに基づく統治にせよ、という声が多数派になったとして…この憲法前文の正統性にしたがって「排除」できるんやろか?


シャリーアは別に、現在の1946年憲法前文の原則に反してはいない。46年憲法の原則とシャリーア導入は共存しえる」
のか
「46年憲法よりシャリーアのほうが正しい神の法なので、そもそもそれに違反するかどうかなど問題にならない。相容れないとすれば46年憲法のほうが間違っている」
と見なすか。

難しい問題です。
憲法学者法哲学者、イスラム学者にでも聞いてみたいところだが、さすがにtwitterでもそこまでヒマな状態でいることはめったに無いので(笑)、ほんとうにひまっぽそうなときに隙を見て聞いたりとか、ask.comの登録者にでも聞いてみたいと思います(笑)。


まあ「日本にシャリーアが導入されそうになったとき、どうするか」という問いが、今後に緊急性があるかどうか、政治情勢にもよりますが(笑)