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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

ケネディ時代「カソリック信徒は教皇への服従義務があるから大統領にするのは危険」という議論があった

こういう本をちょっと前に読んだ。

JFK―大統領の神話と実像 (ちくま新書)

JFK―大統領の神話と実像 (ちくま新書)

勇気にあふれ、理想主義をつらぬいた偉大な大統領なのか、スキャンダルにまみれた、救い難い愚劣な人間なのか―暗殺後30年を経た今もなお、アメリカ第三五代大統領ジョン・F・ケネディをめぐる論議は尽きることがない。JFKにまつわる神話と伝説をつきぬけて、光と影に彩られた人間ケネディの実像に迫り、彼が生き、また彼が生みだしたメディアの時代を検証する。

箇条書きにしてみると
「若き伝説の大統領の、光と影」にしても影が大きすぎる…
簡単な箇条書きに。

ハーバード大学への入学はコネ。成績は相当悪かった。(ただし4年生になってからは向上心を見せ「C」が「B」になった)
卒業論文には新聞記者と政治家のスピーチライターが手を加えて完成。その本を父親が書籍にして、まとめ買いをしてベストセラーを演出(8万部売れた中の3−4万部は父親が購入)、有名人にも送りつけて評判をとる。
・父親のコネで、本来なら肉体的な問題で軍には入れないところを入隊でき、前線にも送られた(※兵役逃れではないことは立派?だが、当時は軍の経歴がそのまま後の社会的地位や評判に直結していた)
・だが軍時代、枢軸国側の女性スパイと関係を持ち、FBIが調査。下院議員になったあと、このFBI資料を権力を使って取り戻そうとした
・海軍でPTボートを壊され海に漂流する(このときの振る舞いが適切だったかは議論の余地アリ)が、その話がかなり盛られて「美談」となり大々的に宣伝される。
・除隊後は父親のコネでハースト系新聞(市民ケーン、のアレ)の記者に。
・大金権選挙で下院議員に当選。
・議会出席率は最低。3カ月も議会に出ないことがあった
・女性関係は破滅的で、名前を覚えられないぐらいの女性と関係を持った
・持病を持ち、薬に依存
民主党議員との付き合いはほとんどないが、逆に政党の枠をこえて、共和党議員と親しくなり、深夜まで自宅で語りあった。リチャード・ニクソンとジョゼフ・マッカーシー(信じられんが実話だ! 実際、上院がのちにマッカーシー糾弾に動いたときもケネディの発言記録はない)
・のちのベストセラー、ピュリッツァー賞受賞作は大半がスタッフの執筆(まぁこれは許容範囲か?)
・マフィアの愛人を、自分の愛人ともした(つまり愛人の共有)
アンフェタミンの服用
・妻が死産したとき、女性同伴でヨットを楽しんでいた。しかも死産の報を聞いてもそのままヨット旅行を続けた

…「簡単な」箇条書きにならなかったよ(笑)。
少なくとも確実に言えるのは「21世紀の今なら、ひとつだけでもアウト!」だということだ。彼が合衆国大統領になることはなかったろう。


ただし、さらにひとつ言えるのは、そういう欠点、スキャンダルにまみれながらもそれを隠して大統領になった彼は、公民権運動や「わたしもベルリン市民だ」演説、キューバ危機の解決などで歴史にたしかな爪あとを残した、ということである。
アメリカの大統領選挙で、予備選から候補者の経歴・失言、知識の欠如などを徹底的に「ふるい」にかけるシステムはうらやましくもあるが、一方で「ケネディ的人材」はいないんだろうな…と思うこともある。


さて、余談はおいて本題。余談の分量が多いのはケネディの責任だ(笑)
そのケネディが大統領選挙で、ニクソンとの大接戦を展開していたとき(最終的に、得票率の差は0.1%だった)、こんな議論が持ち上がった。
以下引用

1960年の8月に開催されたミネソタ州の集まりで、その問題の口火が気って落とされた。プロテスタントに属する洗礼派教会(パブチスト)の大会で、ひとつの決議文が採択されたが、ケネディの大統領選出馬を非難したものであり、協会としての反対の立場を表明していた……ニューヨークの牧師であり、著名な著者であったノーマン・ピールが解説をしている。

カトリック教徒の大統領が、自分の属する教会の組織の言うことを聞かないという事態は考えることが出来ない。教会の指示があれば大統領といえどもそれに従わざるを得ないから、外交問題などに教会の影響が出ないとは言えない事態となる。
カトリック教会はその信者の絶対服従を要求する。服従は教会の神父に対してだけではなく、その上の司教、さらにはその上の枢機卿ローマ教皇に対してまでおこなわれなければならない。このような教会組織の出す命令に対して服従がない場合には破門となり、教会から追放され、家族や親族から隔離されてしまう。破門となった場合には死んででも家族と同じ墓地に埋葬されることがない。
このような条件の中で、たとえばバチカンにいるローマ教皇アメリカのカトリックの大統領に対して、あることを命令したとしたらどうなるのであろうか。ある国家との戦争突入や和平交渉の進展といった大きな国際問題でも良い。あるいはある種の犯罪者の釈放と言った細かなことかもしれない。その場合にアメリカの大統領がどのようにふるまうのであろうか。特にローマ教皇の意向とアメリカの国家としての利害が対立した場合、大統領はどうするのであろうか

……というのがピール牧師たちの懸念であった、という。
長々と紹介したのは、著者の松尾氏も書いているように

「ピール牧師の論議は感情的にならず論理の筋の通ったものであった」
「極めて深刻で本質にかかわる問題提起にたいして、ケネディ陣営は正面から対応することができなかった」
「この問題は、いまだに決着をみていない」

のである。
副大統領候補だったジョンソンを中心とする陣営は、こういう指摘を「それは非寛容の精神だ」「ケネディの兄はお国のために命を落とした」と対応し、有権者はそれなりに納得を得た、とある。ただこれを著者は「一般論へのすり替え」「本当の核心をぼかしてしまうという作戦」と批評している。


うむむ、この論議がなんかアレというか、やりにくいのは…実際に紙に書かれた教義、カソリックが表向きに掲げている教義的にはそう言えば言えるかも…、ということなんだよな。

ある程度死文化もしているし、教皇は中世からひとりの政治家、ひとりの軍事指導者であった以上、その宗教的パワーを政治に発動したときの反作用も十分わきまえている。「信長の野望」で本願寺一向一揆をしかけるのとは違うのだ(笑)。
だけど冷戦期、東欧や南米の指導者、あるいはそれに従う職務執行者を教皇が「破門」をするのではないか?という話もささやかれたことはあったのだ。
あ、こんな実例があった…。

ウィキペディアの「ソビエトの外交関係」
イタリアでもカトリック勢力と共産主義の対立が起こった。第二次世界大戦後のイタリアは共和制となり、1948年からはキリスト教民主主義 (DC)を中心とした保守中道連立政権が続いていたが、構造改革論ユーロコミュニズム路線で国民の幅広い支持を得たイタリア共産党が常に議会内の有力な野党であり、特に1970年代には総選挙での政権獲得が現実味を帯びていた。この時、バチカン共産党への投票者を破門にすると発表し、キリスト教民主党政権を事実上支持して、その存続に力を貸した。

また、
Finalvent氏のブログから、佐藤優氏の文章を孫引きする

http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2006/05/post_905c.html

バチカンにとって司教の任命権は譲ることのできない原則であり、現在、中国政府以外の国でこの問題をめぐってバチカンともめている国は一つもない。中国はバチカンの底力を見誤っている。カトリック教会が七八年にポーランド人司教を法王(ヨハネ・パウロ二世)に選出したのも、ソ連・東欧社会主義体制を崩す大戦略に基づくものだった。
 バチカンが本気になって中国人カトリック教徒の二重忠誠を利用するならば、ポラード事件とは比較にならない規模のインテリジェンス活動を中国政府の中枢で行うこともできる。今回、ローマ法王ベネディクト十六世の「天主教愛国会」関係者の破門は、バチカン胡錦濤政権に対して「カトリック教会をなめてかかるとソ連・東欧の二の舞になるぞ」というシグナル…

そしてカソリックは、たとえば中絶反対の旗をいまも高く掲げ続けている。論理を突き詰めていけば、上のような「カトリック信者は、(他国である)バチカンからのコントロールやプレッシャーを受けるからわが国の指導者にふさわしくない」という議論は…

あ、「ミット・ロムニーモルモン教徒」、「オバマイスラム教徒(※これは基本的に事実ではないが、「父親がムスリムなら、その子はそのままムスリム」という一部教義解釈の問題)」という議論もあったっけ。昨年。


一方で、わが日本国でもバチカンローマ教皇に絶対服従の教義を持つ、カソリック信者が首相に就任したことがある。
第92代内閣総理大臣、麻生フランシスコ太郎である。

このとき、ローマ教皇への忠誠と日本国総理大臣の立場で矛盾をきたすかが議論された、という記憶は、少なくとも自分の中にはない。
・日本はとっても寛容な国だった
・既にカトリックも「日本教」によって変質、変形した
・麻生氏には、ほかの問題で突っ込まれることが多かった


などなどの原因があるのか、ないのか。のかのか。