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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「高坂正堯に敗れた男」が往時を回想する(新聞書評欄より・3)

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/

人間と国家――ある政治学徒の回想(下) (岩波新書)

人間と国家――ある政治学徒の回想(下) (岩波新書)

……一九六〇年代の日本。安保反対運動で社会は騒然とし、外交がどこに進むか分からなかった。論壇では、その少し前に坂本義和東大助教授が「中立日本の防衛構想」を『世界』に発表しており、他方『中央公論』では高坂正堯京大助教授が「現実主義者の平和論」で華やかなデビューを飾った。この対照的な両者が軸となり、戦後の外交論はつくられていった。

 本書は、その坂本義和氏の回想の記録である。…アメリカ留学の際は、リアリズムの泰斗であるモーゲンソウ教授から直接指導を受けた。また、バークやメッテルニヒの保守思想を研究し、権力政治の本質と格闘した。

 興味深いのは、高坂正堯助教授との面談の様子が書かれていることだ。これまでは、粕谷一希氏の仲介を断ったことがしばしば指摘されてきたが、実際には高坂氏と東大前の喫茶店で「三時間近く話し合い」をしたようだ。そこで著者は、高坂氏が「空襲を免れた京都育ちのせい」もあり、「『戦争の傷』を骨身にしみて経験していないという印象」を持ったという。この両者を隔てたのは、イデオロギー的な要素よりも、戦争経験の違いであったのかもしれない…

その後の戦後史は、坂本氏の政治的主張も国際情勢の読みも、徹底的に高坂氏に敗れていく歴史だった(笑)。プロレスでいうところの「ジョブ・ボーイ」というか長州力的に「かませ犬」というか、タイムボカンシリーズ三悪人というか。そういう面ではいい仕事であったなあ、と思ったりもする。
ここでもいい味出してたし。

「悪魔祓い」の戦後史―進歩的文化人の言論と責任 (文春文庫)

「悪魔祓い」の戦後史―進歩的文化人の言論と責任 (文春文庫)

その敗者だが、しかし「長生き」という一点で逆転の目はある。「岩波書店」の「岩波新書」から出した(さもあろう)回想記で、坂本義和高坂正堯を論ずる。いいのだ、敗者にだって歴史を語る資格はある。
いやいや、こういうのこそ「生暖かい目で見守る」というネットスラングがふさわしそうな。