ひとつ前の記事に続いて、韓国コンテンツの話となるな。直接的には偶然ではあるが、書きたいことが複数たまっているので、必然でもあるかもしれない。
まず、話題になった以下の2記事を
www.mk.co.kr
カカオピッコマがヨーロッパ市場進出拠点である「ピッコマヨーロッパ」法人撤収カードを取り出したのは主力である日本市場に集中するという意味と解説される。カカオピッコマは日本でウェブトゥーン·ウェブ小説プラットフォームを運営しているカカオの子会社だ。 カカオ共同体の未来の食べ物の核心軸であるカカオピッコマのグローバル事業戦略が「多角化」から「選択と集中」に再編されたという分析だ。
カカオピッコマが欧州事業の全面撤退という強手を置いた最大の理由は、市場性だ。 2021年、カカオピッコマがヨーロッパ法人を設立した当時、フランスはヨーロッパコンテンツ市場の中心地として全世界のプラットフォーム企業の注目を集めた。
(略)
色々な業者がウェブトゥーン市場に続々と参入し、現地市場が「レッドオーシャン化」されている点も負担として作用したという分析だ。 欧州最大規模の漫画出版社であるフランスのメディアパティシファシオンは今年初め、子会社のエリプスアニマシオンを通じてウェブトゥーン事業に進出した。 フランス現地のメジャー業者である「ピクソマガジン」はディズニーIPを基盤にした購読型ウェブトゥーンプラットフォームを作った。 現在、フランス市場ではデリートゥーン、タピトゥーン、ポケットコミックスなど多様なプラットフォーム会社が出血競争を繰り広げている。 さらに、グローバルビッグテックも欧州ウェブトゥーン市場への参入時期を予想している。
現地の成果が最初からなかったわけではない。 ピッコマヨーロッパが発売したプラットフォーム「ピッコマ」は現地でユーザー数100万人を確保し、現地ウェブトゥーンプラットフォームアプリ順位2位を記録するほど堅調な生態系を構築したことが把握されている。
しかし、収益性には疑問符がついた。 カカオピッコマは欧州ウェブトゥーンサービスのために1200万ユーロを投資したという。 フランス現地メディアなどによると、ピッコマユーロは2022年に1000万ユーロ以上の営業損失を記録した
ほぼ漫画業界コラム184
— 石橋和章 /Zoo (@mikunikko) May 15, 2024
【WEBTOON事業は投資回収できるかって話】
ピッコマの欧州撤退に関係者がどよめいています。WEBTOONは世界中で拡大し巨大な市場になると言われたはずなのにどうして?…
※埋め込みでは全文表示されません、。興味ある人は開いて、全文読んでください
まず、下のまとめに当方がつけたブクマを再録しておく。
gryphon 自分は色々興味あるけど「天下布武の予想は誇大表現だったが、客観的に見れば一国を切り取って国持大名になっただけでもすごいこと」と考えるべきじゃないかな、と思うのです
https://b.hatena.ne.jp/entry/4753506784912414688/comment/gryphon
元々、ウェブトゥーンは、出版社から漫画を出してその売り上げで食うという従来システムが破綻した韓国の漫画家たちが携帯で読める漫画作りをすすめ、その広告収入によって利益を得るシステムを考案し、或る種の一発逆転を成しとげた。
そして、待つと無料形式を考案したピッコマが、先行者利益により、スマホ漫画(従来の日本漫画も含む)の一番手になった。日本でも。
これだけで快挙というべき話で、ヨーロッパ進出がうまくいかず、損切りで撤退したなんてのは枝葉もいいところ。
そもそも数百万の読者を獲得した云々というではないか。
それだけじゃなくてそもそも、その欧州撤退の理由が…
色々な業者がウェブトゥーン市場に続々と参入し、現地市場が「レッドオーシャン化」されている点も負担として作用したという分析だ。 欧州最大規模の漫画出版社であるフランスのメディアパティシファシオンは今年初め、子会社のエリプスアニマシオンを通じてウェブトゥーン事業に進出した。 フランス現地のメジャー業者である「ピクソマガジン」はディズニーIPを基盤にした購読型ウェブトゥーンプラットフォームを作った。 現在、フランス市場ではデリートゥーン、タピトゥーン、ポケットコミックスなど多様なプラットフォーム会社が出血競争を繰り広げている。 さらに、グローバルビッグテックも欧州ウェブトゥーン市場への参入時期を予想している
中国製・韓国製のスマホゲーム(それも美少女が人気の中心のやつ)とか、中華アニメの人気の時に思ったのだけど、特に「絵柄」が日本フォーマットな訳じゃないですか。
以前からこの話を書く時に引き合いに出していたけど、グレイシー一族が自分たちの柔術が無敵を誇った時にこう言っていた。
「この柔術の技術を、皆が習得して生かせば、わが一族が破れることもあるだろう。ただ、それは柔術の敗北でなく、まさに勝利だ」と。
詭弁と負け惜しみの多い一族だが(笑)、これは正論でした。
その日本風の絵柄で海外のゲームやアニメが人気を博したのは、それと同様。
m-dojo.hatenadiary.com
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ピッコマが欧州から撤退する理由が「フランスの大手出版社など色々な業者がウェブトゥーン市場に続々と参入し、現地市場が「レッドオーシャン化」されたから」というのは、まさにブラジリアン柔術や日本風アニメ絵の絵柄と同様、ビジネスとしてはおいしくないだろう。しかし、ひとつの文化運動としては大満足の結果じゃないかい?
そしていつかフランス製のウェブトゥーンも、あるいはナイジェリア製、エルサルバドル製、モンテネグロ製…のウェブトーンも人気を博し、そのころは翻訳も機械上でスムーズに可能となって、いろいろな国で読まれるだろう。
ウェブトゥーン自体は、そうなっていくものと楽観視する。というか「欧州で参入者が相次ぎ過当競争となって先発のピッコマが撤退した」という時点で、予言が成就…というか予言ですらない。
一つの文明、が成立したともいえるのだ。
…ここで、定義を設けておきたい。
文明は「たれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」をさすのに対し、文化はむしろ不合理なものであり、特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもので、他に及ぼしがたい。つまりは普遍的でない。
文明の場合、そのやり方と道具をそろえさえすれば、たれでも参加できる(普遍化する)のである。簡単なとりきめだけで、万人が参加できて、しかも便利であるものを文明と考えたい。
異文化(エスニック)もまた文明材になるときがある。たとえばジーンズは二十世紀のはじめ、デトロイトの自動車工の労働服だったという点で特異かつ少数者のものであったのが、アメリカ内部の普遍化作用のなかで吸いあげられ、世界にひろまったとき、あたらしい文明材になった。
(いずれも、司馬遼太郎の各種のエッセイより)
あと、ピッコマ成功というのはウェブトゥーン成功というより「人気漫画は、1週間早く先読みするためには読者が60~120円ぐらいのお金を払う、そういう商品価値がある」ということを発見し、その「商品」をある意味で売りまくった結果でした。
そのことは、上に紹介した石橋和章氏もツイートしているけど、自分もほぼ似た分析に到達して、過去に書いていた。
これは「雑誌というスタイルが今後も生き残れるか?」にも関係してくる話であります。再掲載
・そもそも単行本は別にして、漫画も含めた「雑誌」とは「不備のある抱き合わせ商法」なのである。大人気作品と、そこそこの人気作品と、不人気作品と(笑)、新人の研修をセットにして、数百円で月1回、週1回販売する。へんなシステムなんですよ。人気漫画が、不人気漫画の500倍(雑誌上で)読まれようとも、おそらくはページ当たりの原稿料がちょっと高い低いの違いぐらいしかない。
・実は漫画(の人気作品)の潜在的な商品価値は、それをはるかに上回るものだった!!! 「次の回を読むには〇〇円払ってね」とやれば「じゃあ払うよ!」という層はこんなにいた!!スマホ前の時代は、そういう技術的・インフラ的な手段が無かったので、特殊な抱き合わせ販売「雑誌」を採用してたってだけで。
この問題は、どこかで決着されていくでしょう。現状このままでは済まない。そもそも、雑誌(紙)を書店で買う文化がない、それよりスマホで漫画を縦読みするほうがずっと簡単でハードルが低い、というほうが世界の多数派だろうし。
あと、これまた繰り返しだが、ウェブトーンというのはコマの大きさを変えることはできるけど、「コマ割り」は基本無くなる。これは特殊な才能が必要な個所であり、ウェブトーンでコマ割りの才能が今後不要となったら、少なくとも俺的には実にありがたい(笑)
まだ漫画創作する気でいるのか、おれ。
あとは…、こんな理屈を吹き飛ばすように、本当に面白いウェブトゥーン作品が、たとえばはてな界(ブクマ)を席巻してくれれば、上の議論なんかこっぱみじんなんだよ!!
一にも、二にもそこ。
4年前か、やたらとネット広告が多い「toomics」に試しに乗り込んでみて、正直失望したことがあった。
しかしtoomicsはぶっちゃけ、低俗とはいわんが、何ちゅうか大衆的人気にフォーカスするようなところで、もう少し志高い作品もウェブトゥーンにはある。
そこで2024年現在、何かこれは漫画的にも面白いぜ!なウェブトゥーン(できればかなりの部分を、会員にならないでも無料で読めればありがたい!)はありませんかね?おしえてください