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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

統一教会は「韓国系キリスト教」とどの程度の共通点があるのか【新書メモ】

一九五四年、文鮮明によって創設された統一教会。戦後韓国で勃興したキリスト教新宗教の中でも小規模な教団だったが、日本に渡ったのち教勢を拡大、巨額の献金を原資に財閥としても存在感を強めた。「合同結婚式」と呼ばれる特異な婚姻儀礼、日本政治への関与、霊感商法や高額献金、二世信者――。異形の宗教団体はいかに生まれ、なぜ社会問題と化したのか。歴史的背景、教義、組織構造、法的観点などから多角的に論じる。

この本は全体的に興味深く読んだ。なにしろ、原理研究会こと統一教会は、それなりに大学キャンパスを(中核派と同様に)かつてはうろうろしてやがったので、その団体について一通りは調べて、知識を身に着けていた…つもりだったが、逆に言えば大学時代の知識。だから教祖や教団のプロフィールに関してはゴシップも含めだいたい共通しているが、それでも細部は正確に認識してなかったこと、未知の知見があり面白かった。



ただ、そこで自分が一番興味を持っていたのはこういう点。
文鮮明がいかに特異な悪の才能、もう少し言えば詐欺師的才能があるにせよ、あの教義は非常に奇妙というか、一から1人で考え出したという感じには思えない。
・というか、どうも「韓国系キリスト教」全体に、奇妙な共通点のようなものがあるらしい、という話がある。
・さらにいえばそもそも、韓国でキリスト教徒は人口の3割を占めている。日本と同様に仏教・儒教の伝統と鎖国体制があったのに、である。
・その状況は、どのように生まれたのか。


韓国系キリスト教は、そこならではのオリジナル、ユニークな点があり、例えば日本と比較して調べると国ごとの特徴が分かる、という話は以前にも書いていました。たとえば黙示録の人気など。

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韓国へ行った。
所用の傍ら、内村鑑三の孫弟子にあたる盧平久氏にお目にかかり、半日ほどいろいろと話し合った。
(略)
話題は当然、聖書や聖書関係図書の出版へと進んだが、その途中で話がちょっとチグハグ…(略)というのは、聖書は旧約新約あわせて66書から成り立っているが、その全部が平均的に読まれているわけではない…(略)売れるものと売れないものが、はっきりと出てくる。
そしてある書が売れて、ある書が売れないことは一種の常識になっており、私はなんとなくこの常識が、世界に共通する常識のように錯覚していた。
(略)
私がなにげなく「日本ではヨハネ黙示録はまず絶対に売れません。そこで希和対訳分冊版ではこれを最後に出版するつもりです」と言うと先生は非常に驚かれ、「韓国ではヨハネ黙示録の注解書を出せば金儲けできますよ」と言われた。
金儲けはもちろん冗談だが、そういえるほど韓国人にアピールするという意味である。
今度は私が驚いた。
(略)
聖書は世界どこでも同じ本だから、その中のどの書が特にアピールするかを調べて対比すれば、民族性の違いがある程度は把握できるはずだからである。そこで盧先生に韓国人にアピールする本を尋ねると、先生はためらわずに「旧約ならホセア書、新約ならヨハネ文書(福音書と書簡)とヨハネ黙示録」と答えた。
「フーム」と私は内心でうなった。まさに日本と対照的、日本ではこの系統は少なくとも傍流であり、日本で読まれる書をこのように取り上げれば、「旧約ならアモス書、新約ならルカの著作(福音書使徒行伝)およびローマ書」となる、。もちろん流行的一時的現象は別だが、長期的恒常的に販売面からみれば、おそらくこれが異論の余地なき実態である。

「黙示録人気」も、確かに文鮮明統一教会と関係がありそうな……


この新書では、第一章「メシヤの証し」で、文鮮明ライフヒストリーとともに、その「韓国系キリスト教」について描かれている。

そこを大幅にはしょって、要約する。

韓国の近代宗教史において特筆すべき宗教運動は二つある。一つは、日本による植民地支配下において登場した民衆宗教運動であり、もう一つは、一九世紀後半になってこれまで朝鮮の鎖国政策下で抑圧されたキリスト教が宣教を認められ、韓国独自のキリスト教会を形成したこと。

その特徴・共通点は3点。

1:神人一体化。そして解冤(かいえん)のシャーマニズム的伝統
2:自助自立型・信者が布教の担い手となる教会組織
3:植民地の圧政から解放を望むナショナリズムと新時代を待望する「千年王国」論、および強い指導者待望の「メシヤニズム」。


・そういう点では、統一教会もオリジナリティのある部分はごくわずか。


・民衆宗教とは「東学党の乱」で知られる東学ー天道教ー甑山教。いまでのその宗教組織はある。東学は「天主」と人間の一体化、そして人間の平等を説く。甑山教は符呪の儀礼と「解冤相生」…世の中の「冤恨」を解くとの教え。
こういう教えは、18世紀末のキリスト教解禁の中で受容されるときも影響を与えた。


・ぶっちゃけ、韓国のキリスト教新宗教ではいくつも「教祖がメシヤ」と自称する。それはこの、朝鮮半島の神人一体化が影響がある。


・韓国における神霊復興運動や祈禱会では聖霊の臨在が強調され、異端視されたキリスト教指導者たちは、それぞれに イエスの神霊を体感したと情熱的に語った。これはあたかも巫堂(シャーマン)による憑依・ 託宣のようである。また、イエス・キリストが十字架にかけられて非業の死を遂げたことを痛切な愛情をもって語る、などの儀礼もあり、これもシャーマニズム抜きには考えられない。


・そもそも、キリスト教が韓国でなぜ拡大したか。(韓国で宗教を信じている人は約4700万人、うち仏教1000万人、プロテスタント860万人、カトリック500万人。)


・実は戦後まもなくは2%程度しかいなかった。一九五〇年代から八〇年代にかけて爆発的に拡大。キリスト教では「アジアの奇跡」と称えられる。


・理由は…
◇韓国ではシャーマニズム的伝統がむしろ布教を助けたが、日本では伝統宗教が不況を妨げた。
◇反植民地主義の民族運動、ナショナリズムキリスト教の接続。
◇都市化、工業化の社会変化の受け皿。日本の創価学会立正佼成会などの爆発的拡大の立ち位置に韓国ではキリスト教がなった。


・韓国はカソリックも強いが、プロテスタントも強い。このプロテスタントアメリ清教徒の伝統を受けていて、「根本主義神学と千年王国」を重視する。統一教会その他は文鮮明=メシヤを唱えるので異端視されているが、
◇地上天国を実現する、
◇韓国は「現代のイスラエル」だとする選民意識的な考え
などは共通する。
聖霊体験と感動を回心の入り口として、徹夜や断食の祈祷によって神を体験する、という手法も。


・また宣教や教会運営を、自前の財源と人材で行うやり方も、日本と違う。これは宣教の方式で、アメリカのそういうやり方を採用したので、信徒自らが伝道の先端に立つし、献金も活発にする。その拡大を目指す。


・土着的なキリスト教は1930年代ごろから出現し、上のような特徴を持つ。「李龍道」という人物が中心となり「イエスに狂え」との強烈なメッセージを発した。


・その後継者が数多く出現し日本の植民地支配と、その反発の中でこれらの土着的キリスト教は広まっていく(弾圧もされたほか、天道教は3.1独立運動でも大きな役割を果たす)が、「巫俗」と「終末思想」は共通している。


・また、性交渉によって神の血を分ける「血分け=霊体交換」も、自らイエスになったと名乗る「黄國柱」らによって始まり、広まった。


文鮮明1920年生まれ、戦前の日本に留学もした植民地下の人物であり、これらの潮流を受け継いで統一教会は成立しているのである。

韓国系キリスト教の系譜と統一教会