※本日10/4(水)、東京・恵比寿ガーデンプレイスザ・ガーデンホールで「藤子・F・不二雄 生誕90周年 企画発表会」が開催され、いろいろな企画が発表されました。
そのなかでも最高に興奮したのがこれ。
「T・Pぼん(タイムパトロールぼん)」2024年に独占配信決定!
藤子・F・不二雄作品として約30年ぶりの新作シリーズアニメが誕生!
Netflixシリーズ「T・Pぼん(タイムパトロールぼん)」全2シーズンで2024年に独占配信決定!主人公・並平凡役の声優に若山晃久さん、バディのリーム・ストリーム役に種﨑敦美さんが決定!さらに、隠れた名作の再始動を告げる特報映像も公開!
こちらの報道がより詳しいです。
藤子・F・不二雄「T・Pぼん」Netflixアニメ化決定 声優は若山晃久&種崎敦美(シネマトゥデイ) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/a188c2329a5b1e5538203b86e60e2a4f9c8bd19b
ネットフリックスのオリジナルアニメ企画、野球でいえば「三冠打者」ぐらいの期待があったけど、そうならなかったってイメージはあるが、そこそこ本塁打は出ている気がする。
これも、まったくいい企画で、ホームランだと思う。前も書いたけど外国にもアジアを中心に相当な「ドラえもん」ファンがいて「あのドラえもんの作者は、タイムパトロールSFのマンガも描いていたんです」はそれだけでフックになる訳で。
さて、T・Pぼんの原作漫画、最近は未収録作品も刊行されてうれしい限りです。
※未収録作品について語った過去の記事↓m-dojo.hatenadiary.com
だが、そもそも未収録作品が単行本にならなかった理由が、F先生が「未収録作品を出すなら、もう少し新作を足して1冊分にするから。これは完結していないから」と言ったから、という話を読んで(どこだか忘れた、すいません。信憑性は不明)、それはそれでやはり60歳という若さで亡くなった人のことを思い粛然とする。
「TPぼん」は…確かF先生が亡くなられる前後に文庫版が刊行されてて、解説だったかあとがきも書いておられたが、確かその時に「実はまだ話は終わっていないのです」みたいにあって、なあ…
— 我乱堂 (@SagamiNoriaki) October 5, 2023
「T・Pぼん」について藤子・F・不二雄先生は亡くなる前年に「実はまだ連載を終えてはいないのです」とおっしゃっていました。「T・Pぼん」は「ドラえもん」や「チンプイ」と同じく“F先生がまだ続けるつもりでいたのに先生の他界によって未完となった作品”のひとつなのです。 pic.twitter.com/DXsyxKtQS5
— 稲垣高広(仮面次郎) (@kamenjiro) October 4, 2023
この作品、まことにもって自分は大好きだ。
本当に上位に入る傑作だと思う。
…という前提で、その上で「ただ、F先生がアレコレの歴史蘊蓄を語りたかったから、それに合わせて設定も含めて作った作品って感じもあるよね」とも思う(笑)。
いや、それは大変にいいことだったよ。
これは想定外でもあったろうが、結果的に「晩年」の作品となったこれは、ある意味で司馬遼太郎の「この国のかたち」、「風塵抄」に近いものになったと思っているんだ。
やはり歴史を題材にして、蘊蓄、細部を勉強するのはすごく楽しい。しかしそれをストーリーに落とし込むのは…もちろん実力ある創作者は、それも可能だが…それでも「枝葉」を切り落とす作業が必要となる。その枝や葉が、どんなに美しくても。
だから司馬遼太郎は体力のこともあって、小説を「引退」し、文明史論的エッセイに重心を置くようになった。
藤子・F・不二雄はそこまでいかないけど(笑)、設定の中で、自分が好きな歴史や古代文明の諸々のトリビアを語れるような、そんな作品アイデアとキャラクターを創作し、そこで趣味を全開にすることを思いついた。
それができた背景として、
掲載誌は伝説の「コミックトム」だったことを忘れちゃいけない。
なにしろ雑誌の屋台骨を支える四番打者は、これも永遠の名作となった横山光輝「三国志」。脇を固めるのが「風雲児たち」その他。
そしてバックに控えるは日本最大の宗教団体、昭和平成の日の本根本道場ことS学会。あの先生がまだ元気で人前に出てた頃。人間革命。
だから、売れ行きや読者人気より「作品にセレブ感というか教養感があること」が必要となり、どんな大御所の原稿料でもどんとこい。
しかも編集方針が「とりあえず作者の好きなようにやらせる(限度はある)」だったという。
https://t.co/mtGZKA5lvi
— Gryphon(INVISIBLE暫定的再起動 m-dojo) (@gryphonjapan) December 28, 2015
に追加資料。
そうだ、「コミックトムが自由にやらせてくれる」というソースがあったよ!
「グラン・ローヴァ物語」が文庫になったときのあとがき漫画だ!!
そのものずばりだよ。 pic.twitter.com/fagXDxBjki
8年前にこのまとめ作っておいてよかった。今となっちゃー貴重な資料だよ。
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プラス、メイン作品が三国志であることと、あとは名誉会長の趣味嗜好(笑)?のせいで、なんとなーくコミック乱以前の「歴史専門コミック誌」的な雰囲気も漂わせていたんだ。
この作品で歴史をテーマにした漫画「風雲児たち」「ナポレオン獅子の時代(その後「ナポレオン覇道進撃」)」、そして「宗像教授シリーズ(「伝奇考」から「異考録」「世界編」へ)」の3作が、掲載誌を変えて令和までシリーズが継続・再開したことも、この雑誌の立ち位置を示す逸話となろう。
だから、そのチャーンスを活用して、歴史トリビア語りいっぱいの作品を描いてやろう!と思ったF先生は中々の策士なのである。
そもそも「ドラえもん」が絶好調を続け、こちらもコロコロコミックの屋台骨を支え続けた藤子・F・不二雄、経済面などから見てもコミックトムにもう一本どうしても描かなければ!という状況ではない。作者としてとても描きたいというモチベーションにあふれていたのだろう、T・Pぼんは。
その結果。
最後のやつなんか、主人公が学校でレポートを発表する、という体裁をとったりしてるから、ああいう論文口調なのね(笑)。
そこまでして蘊蓄漫画をやりたかったのだよF先生。
たぶんずーっと少年漫画の中で、そのストーリーの中に本当に隠し味的に、こういう調べた材料のホンのかけら、粉末だけを入れつつ
「ああー、この話調べたことをもっと書きたいんだけどなぁ。(こういう形式の従来の)漫画じゃ描けないなぁ、ストレスたまるなあ」
「ウンチクをメインに漫画を描いてる古谷三敏くん(彼は赤塚不二夫の弟子的な人なので、「くん」でしょうおそらく)はいいなあ」
と思ってたんとちゃうかな、と。
というか、時々溢れていて…ここ数日もSNSでは話題になった「出木杉くん」話なんだけど、出木杉くんが漫画版「のび太の魔界大冒険」の冒頭で魔法と科学の関係について数ページひとりがたりして、小学生とは思えないディープ話を展開する場面があってさ…
TLに出木杉君の凄さに関するツイートがいくつか見えたのでちょっと反応するが、小学四年生にしてこれだけコアな話をスラスラできる(そしてのび太も出木杉君の話を理解して的確な質問を返している)あたりが特に凄い。この二人の会話、レベル高すぎるよな。 pic.twitter.com/Kln4UduKYT
— 310kent (@310kent) October 6, 2019
それを「のび太と出木杉の関係性、友情」や「出木杉のパーソナリティ」に結び付けて深読みする見立てはたいへん楽しく、自分もそれに大いに乗っかる気はあるけど、作劇論的にはやっぱり「藤子・F・不二雄先生、隙あらばページを盛大に消費してでも蘊蓄語りしたい説」となるでしょう。
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「出木杉のディープ蘊蓄に的確についていく時点で、のび太のアタマの悪いダメキャラ設定が崩壊してる」というのもその通りで、もっとすごいのは…この作品の紆余曲折がいろいろあるのも知ってるけど……
「これじゃのび太が頭が悪いように見えない?それがどうしたんじゃー、ここでのび太の口を借りてでもワシが、ネッシーを語りたいんじゃー」という情熱がほとばしる(爆笑)
キテレツ大百科でもキテレツがいきなりオカルト事例列挙したほか、エスパー魔美の高畑さん、チンプイの…名前忘れたがあの少年など、サブキャラに結構な頭脳派を配置することがあり、彼らも時として蘊蓄・トリビア語り要員としての顔を見せる。
まあ、そんなふうな「趣味の偏り」をF先生が見せたのがT・Pぼんであり、そしてその偏りは最終的に、豊かな収穫を生んだ…と思うのであります。
最後に、藤子・F・不二雄の遺伝子を色濃く継いだ某現役漫画家の、ウンチク語りへの欲望とその顛末のツイートを紹介して終わりにしましょう。
今月号では戦国時代・堺のウンチクをもっと入れたかったのだが、自制した。「妙に貫禄のある『ととやの与四郎』と名乗るおっさん」とか出てきても、犬夜叉・夜叉姫ファンは「千利休キター!!」ってならんやろと気づいたのである。まあ秀吉の件は勝平さんネタってことで。
— 椎名高志 (@Takashi_Shiina) July 24, 2023
打ち合わせで編集者に「戦国時代の毛利と大友の歴史めっちゃ説明してありますけど、これ要らないんじゃ・・」って言われ、「要るのー!戦国時代の九州は中部・関東ほど知られてないけど面白いのー!」とダダをこね、その後散歩したら正気に戻って「やっぱ要りませんね・・」って連絡した。
— 椎名高志 (@Takashi_Shiina) September 29, 2023
さらに追記。こりてねー。
先日は戦国時代の北九州の情勢を2ページにわたって解説しようとして編集者に止められた私であるが、今度は天ぷらの歴史を語るために3ページ欲しい。食べ物のウンチクって読みたいじゃん・・コッポラ監督も「映画がヒットしなくてもレシピは役に立つから料理シーン入れる」つってたし。
— 椎名高志 (@Takashi_Shiina) October 17, 2023
※なお、T・Pぼんについては語りたいことがほかにもあるので、またあとで。