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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

人間や農作物の起源・移動話、DNA分析等の「正解」を前に、以前の学者の学説は”残酷な答え合わせ”をされるのか?という話。

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』


コン・ティキ号探検記 (河出文庫)

コン・ティキ号探検記 (河出文庫)

自分的には何度も書いたおなじみネタなので、恐縮しつつ『またこの話、なんですけど』的に書いた1ツイートが、なぜか結構リツイートされたので、もう一度あらためて過去のツイートなども紹介しつつまとめます。
まず今回のツイート。



これに反響が多かったのだけど、
以前論じたのは…
https://twitter.com/gryphonjapan/status/882798244970897409
に前後する一連のツイート。最初のツイートを埋め込み、残りは画像アリツイートを除いてはコピペにしておこう


融点0‏ @youten0  7月5日

あれですよね、「遺伝子調べてみたら『島のケルト人』と呼ばれてきた人達は実は大陸のケルト人と全く関係無くって、そもそも『ケルト人』と言えるのか?ってレベルから疑わしくなっちゃって、アイルランド人とか真っ青!」とか、「失礼」のレベルを遥かに越えてて…そういう研究領域としてありますよね


Conflictwatcher@冬一時帰国‏ @Conflictwatcher  7月5日
ちゃんとした学問調査の結果は結果としてリスペクトすべき。気にくわ無いものであったとしても、ね。日本の皇室陵墓の調査ができないのも同様のリスクを懸念してるんだと思うが、そんなもん気にせず一切合切調べて欲しいものだ。


融点0‏ @youten0 7月5日
そろそろ時代が変わって来てますし、「継体天皇から見ても古い」だけで十分立派な箔付けですしね。むしろ「あれか、仁徳天皇陵にはICBMのサイロでも隠されているのか」とか無用の懸念()生むよりは、発掘調査した方が、権威の強化に繋がりそうな副葬品とか出て来そうな気も。黄金のマスクとか()


Conflictwatcher@冬一時帰国‏ @Conflictwatcher 7月5日
遺伝子で民族系統を調べるだけじゃなくて、骨の化学分析から当時の食生活を分析したり、現代ならできることも多い。早くやって欲しいものだ。本格調査前に不届きものに盗掘されてサンプル喪失とか、日本が国家として衰退して調査能力喪失とか、嫌じゃん。


Conflictwatcher@冬一時帰国‏ @Conflictwatcher 7月5日
これは特に幸運な例ではあるが、今の科学では2000年以上前に死んだ人の死因まで調査可能なのだ。今やらんで、どうするよ。将来日本が没落して、日本の歴史調査なのにスミソニアン博物館の調査グループが主導して調査とかなったら嫌じゃん。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%AC%E7%8E%8B%E5%A0%86%E6%BC%A2%E5%A2%93


融点0‏ @youten0 7月5日

>日本の歴史調査なのにスミソニアン博物館の調査グループが主導して調査とかなったら嫌じゃん。

ありそうな話でヤバイです。「日本に行きたい」とかのTV番組で、「消滅しつつある和船の研究をやっている白人」とか紹介されてましたが、ああいう感じになりかねないですよね。


gryphon(まとめ用RT多)‏ @gryphonjapan 7月6日

しかしいつも思うんだけど、日本列島に来た人のルーツは?とか稲作はどこから?というテーマで100年近く?神話や土器の形状や渡航実験とかをやってワイワイガヤガヤ議論百出だったところに「DNA」という、まあ間違いなく正解が出る新証拠で調査可能になりました…って、なんか感慨深いな


Conflictwatcher@冬一時帰国‏ @Conflictwatcher 7月6日
壁を越えるのに必要なのは既存の知識に基づいた工夫ではなく、新技術の導入だって俺の指導教官が言ってたが、彼は正しいのかもしれ無い。


gryphon(まとめ用RT多)‏ @gryphonjapanその他
DNA鑑定調査は
これまでの神話学や考古学の「答え合わせ」になるんですよね。
もちろん、それが大はずれだったとしても、かつて多くの人が知恵と努力を重ねた、その営みは多分無駄ではない…。
というところに、外野としては何かしらの(おそらくは別種の)ロマンを感じるのです。


もうひとつ、こちらは最近出た新書の紹介。

世界神話学入門 (講談社現代新書)

世界神話学入門 (講談社現代新書)

日本神話では男神イザナギが、亡き女神イザナミを求めて冥界に下ります。一方ギリシア神話にも、オルフェウスが死んだ妻エウリュディケーを求めて冥界に下るという非常によく似たエピソードがあります。しかしこのパターンの神話は上記の二つに止まるものではなく、広く世界中に分布しまていす。では、なぜこのように、よく似た神話が世界中にあるのでしょうか?
2013年にハーヴァード大学のマイケル・ヴィツェルが、この謎を解くべく『世界神話の起源』という本を出版しました。この本によれば、世界の神話は古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに大きく分かれるとされます。「ゴンドワナ型」はホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したときに持っていた神話です。それが人類の「出アフリカ」にともなう初期の移動により、南インドからパプアニューギニア、オーストラリアに広がり、アフリカやオーストラリアのアボリジニの神話などになりました。
一方「ローラシア型」は、すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中心として新たに生み出されたと考えられています。それがインド=ヨーロッパ語族やスキタイ系の騎馬民族の移動によってユーラシア大陸全域に、さらにはシベリアから新大陸への移動によって南北アメリカ大陸に、そしてオーストロネシア語族の移動によって太平洋域へのと、広く広がっていきました。つまりこの説によれば、日本神話もギリシア神話ローラシア型に属する同じタイプの神話ということになります。両者が似ているのは、むしろ当然のことなのです。
近年、DNA分析や様々な考古学資料の解析によって、人類移動のシナリオが詳しく再現できるようになりました。するとその成果が上記の世界神話説にぴったりと合致することがわかってきました。すなわち神話を分析することで、人類のたどった足跡が再現できるようになったのです。
本書は、近年まれに見る壮大かつエキサイティングな仮説であるこの世界神話学説をベースにして、著者独自の解釈も交えながら、ホモ・サピエンスがたどってきた長い歴史をたどるものです。


同じように1ツイート埋め込み&コピペで

https://twitter.com/nekonoizumi/status/928978735130337280



「…この本によれば、世界の神話は古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに大きく分かれるとされます。「ゴンドワナ型」はホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したときに持っていた神話です。それが人類の「出アフリカ」にともなう初期の移動により、…」


「…南インドからパプアニューギニア、オーストラリアに広がり、アフリカやオーストラリアのアボリジニの神話などになりました。
一方「ローラシア型」は、すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中心として新たに生み出されたと考えられています。…」


「…それがインド=ヨーロッパ語族やスキタイ系の騎馬民族の移動によってユーラシア大陸全域に、さらにはシベリアから新大陸への移動によって南北アメリカ大陸に、そしてオーストロネシア語族の移動によって太平洋域へのと、広く広がっていきました。…」


「…つまりこの説によれば、日本神話もギリシア神話ローラシア型に属する同じタイプの神話ということになります。両者が似ているのは、むしろ当然のことなのです。
近年、DNA分析や様々な考古学資料の解析によって、人類移動のシナリオが詳しく再現できるようになりました。…」


「…するとその成果が上記の世界神話説にぴったりと合致することがわかってきました。すなわち神話を分析することで、人類のたどった足跡が再現できるようになったのです。…」


「…本書は、近年まれに見る壮大かつエキサイティングな仮説であるこの世界神話学説をベースにして、著者独自の解釈も交えながら、ホモ・サピエンスがたどってきた長い歴史をたどるものです。」

それへのリプでも「答え合わせ論」をかいてるおれ。



さらにさかのぼると、自分が「はー、科学の発達で、誰にも正解がわからない推論の材料でしかなかったものが、スモーキン・ガン=動かぬ証拠になるのか…」と、感心しつつ一抹の寂しさを覚えたのは「石器の成分分析」だったのですね。
少し長めに再録します。

石器時代も「武器工場」や「武器商人」が…。「石の成分」や「DNA」のような飛び道具で歴史が塗り変わるのはすごいね - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150417/p3

石器時代の大規模な「武器工場」を発掘 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/041500051/



「ここは巨大な屋外の作業場だったのです」。アルメニア考古・民族学研究所の考古学者、ボリス・ガスパリアン氏は言う。この山の斜面の「工場」で作られた無数の剣、手斧、削器、のみ、矢尻、槍の穂先などは、最古の記録よりもはるか昔に存在した、広大な交易ネットワークにより流通した。

 ガスパリアン氏らが、こうした黒曜石製の道具の起源を正確に判断できる最新の技術(特定の火山の、どの溶岩脈のものかまで追跡できる)を用いて調査を進めた結果、アルテニ山は、石器時代の大規模な武器工場の中心地であったことが判明した。この場所で作られた武器は、北はカフカス山脈を越えた現在のウクライナ、西はアナトリアを越えて約2500キロ離れたエーゲ海でも見つかっている。
(略)

ガスパリアン氏によると、石器時代に黒曜石がユーラシア大陸を移動したルートは、それから3000年以上後の古代ギリシア時代や中世の貿易大国が使ったものと驚くほどよく似ており、その一部はかの有名なシルクロードとも一致するという


「成分で、どこの石か詳しく特定可能です」はDNAと並んで画期的!こういうブレイクスルーは数十年前、予想もできなかった…

……従来の検査行程では、費用と時間がかかり過ぎた。発掘現場から遠く離れた特別な研究室まで足を運んだ上で、サンプルを細かい粉末にする必要があったからだ。

 そこでフラム氏は、携帯型蛍光X線分析装置(pXRF)を使うことにした。この装置なら手持ちドリル程度の大きさと重さだし、石器を砕くことなく、その化学組成を約10秒間で分析できる。
(略)
2014年、ミネソタ大学岩石磁気学研究所で、さらなる革新的な分析方法を編み出した。彼らのチームが注目したのは、黒曜石に含まれるマグネタイト磁鉄鉱:磁性を持つ酸化鉄)の黒い粒だ。フラム氏によると、磁気測定を行うと「ある『黒曜石流(黒曜石の元になるマグマ)』のなかでも、場所によってマグネタイトの粒の大きさ、形、配置がどう違うかまでわかる」のだという。

 こうした測定方法を用いれば、原料が採掘された場所についての非常に精密なデータが得られ、それは同時に、この道具を作った人々の仕事ぶりを探るヒントにもなる

自分も、石の成分を分析することで、石器は原住民が地元にある石をテキトーに割って作ったんじゃなく、本当にとある産地の石が珍重され、積極的に”輸出入”されていたことは知っていたのです。
にしても、それは上の記事にあるように、たぶん旧式の成分分析であって、それがさらに精密になったらまた結果が変わってくるんだろうね。今後、すでに調査されたさまざまな石器が、もう一度この最新技術で再検査されて、新発見もあるのかもしれない。


それは80年代ぐらいからか?日本人がどこから来たか、みたいな議論の中で「母方から伝わるミトコンドリアの形が」とか「Tなんとかウイルスの保持者の数が」みたいな最新の議論が出てきた。
このへん、かなり怪しげかつ、恣意的な切り張りをしていたようなのだが、栗本慎一郎がそんな最新情報をいろいろ広める役割を果たしていた。進化論とかも含めてね。



人の伝来や起源はそれまで「神話が○○の点で共通してる」とか「建築様式が○○」とか、そんなふうにやってきたじゃない。

宗像教授伝奇考 第1集 (潮漫画文庫)

宗像教授伝奇考 第1集 (潮漫画文庫)

そして「おれはイカダで大西洋(じゃないな太平洋)を渡れた!だから古代人もあそこからこっちに来たはずだ!!」みたいな力技を、いい年した某ハイエルダール教授とかがやったわけだよな(笑)。
コン・ティキ号探検記 (河出文庫)

コン・ティキ号探検記 (河出文庫)

そんな積み重ねをやってきたところにだ。
「先祖から継承されるDNAの種類が分かるようになっちゃいました。AからBへの遺伝的関係が確認できます。」
「同じ種類の石でも、地域ごとの成分が分析できるようになりました。あそこの地域のものに間違いありません。」


とかいうのはね……「おのれ、武士の神聖な決闘に飛び道具を持ち出すとは卑怯な!!」みたいな感じを覚えざるを得ないのですよ(笑)。

あるいは「冷凍冬眠を繰りかえして宇宙の果てに行こうとしていた宇宙船の乗組員が、数百年の眠りから目覚めると、その後に地球ではワープ航法が開発されていて子孫がとっくに先回りしていた」みたいな…このアイデアの作品、なんだっけ??(「ウラシマの帰還」「遙かなるケンタウロス」「勇者の賞品」「老年期の終わり」などの作品があるという)


しかしこれって結局は繰り言であるし、また、ただの一庶民が手にした火縄銃で、先祖代々の騎士の鎧を打ち貫くのにも爽快感があるわけであります。

それに「真実はいつもひとつ」。神話の類似性やらであれこれと「火の民族」「日の民族」とか「奈良のピラミッド」とか言ってるより、DNAではっきり分かったほうがいい


今は言語の源流は、そういう部分ではたどれず、日本語の源流とかはまだ分からない。このへんはまだ、貴重なロマンなのかもしれない(笑)。数年前、「言語の変化を進化論流にたどることが出来て、そこで朝鮮語と日本語の近縁性も証明された」みたいな話も読んだ記憶があるのだが、あれはどうなったのかな。


そんなわけで「石器時代から武器工場と、兵器の流通が存在した」「石の成分が詳しく分かることで、どこまで交易の範囲が広がってるかが分かるようになった」という、この記事にある二つの内容とも、自分にとってはなんとも複雑に感慨深い話なのであります。

それでも『間違った仮説』に一生を捧げた学者は「されど、われらが日々」であり、「新しい謎」のフロンティアはある(と、信じたい)

そもそもDNAやウイルスの伝播・継承から推測する起源・移動の推論が、本当に「正解」と言い切っちゃっていいかは、またいろいろ専門家の間ではあるのかもだけど、それはおいとく。


ある学者が自分の学説を証明するために力を尽くして誠実に努力する。されど…という話を藤子 F 不二雄氏が、 2作書いている。
片方は「エスパー魔美」の一編、もう一つは短編「ニューイヤー星調査行」だ。
 
 
どちらも結末の機微に触れるためこれ以上の言及はしないが、寂寥感の中の「新しい希望」を感じさせる物語だった。

そう言えばさらにダイレクトにこの問題を描いたのが松本清張の『或る小倉日記伝』ではなかったか・・・・。

或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)

或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)

そもそもコンチキ号に乗り込んだハイエルダールの冒険は未だに読み継がれる古典となっているが、ただ彼がその航海で証明したかった学説は今では「うん、まー、頑張ったよね。それをきっかけに考古学に興味を持つ子供が増えてくれれば・・・」的な、 りょうは否定されてるらしいんだよね(正確にはよくわからない)

自分の最初のツイート「残酷な答え合わせ」というのが多数リツイートされたのは、そんな科学、学問の営みに、多くの人が一種の敬意と、かなしみを感じているからじゃないかな、と思うのです。
(了)



※・・・・・・・・と、この記事を書いた後、元になったツイートをやはり一覧で見やすくしたほうがいいと思い、内容は重複するのだがまとめてみました。

考古学で人や物の起源・移動が「DNA」や「成分分析」によって詳しく解明されてきた現状について - Togetter https://togetter.com/li/1179529