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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

10年後の「民主党政権」本を集めて、読み比べて検証する中央公論の記事(urbansea氏)が面白かった

偶然、古い「中央公論」を読む機会があった。昨年末に発売された2023年1月号だが、ここにurbanseaという名前の書評家が、「10年後に『読む』民主党政権」というタイトルで、様々な民主党政権の検証本や、政治家の回想録をまとめて紹介している。

このアカウントが見つかったが、同一人物かは確実ではない…?
https://twitter.com/urbansea
ああ、やはりこの人でいいようだ。


なるほど、発売された当時で言えば民主党政権の終焉してから10年の節目だし、そしてこういうテーマは色々な関係者の発言を突き合わせれば、単著を読むより分かりやすくなることが多い。こちらでは名前を伏せている人物が、あちらの本で実名が判明するということもよくあるし…この辺はUWF崩壊…、小川直也橋本真也と同様だ(笑)

いやそれはどうでもいい。
中央公論にもどって…以下、抜粋して要約する。


シンクタンク「日本再建イニシアチブ」が聞き取り調査をしてまとめた民主党政権失敗の検証」

逢坂誠二がこう語る。

「議論することと、決定することと、納得することにそれぞれ違ったものがあるということがわかっていない」

明確な論理や回答がないからこそ政治の場に持ち込まれている問題を議論すれば答えが出ると思い込んでいた、という。


山口二郎・中北浩爾編民主党政権とは何だったのか」

これもオーラルヒストリー。
民主党政権は「政策に財源の裏付けがない」と言われていたが、これも、適当な方便、だますつもりで言っていたのではなく、元大蔵官僚、90年代の非自民・羽田政権での蔵相だったの藤井裕久が「政権を取れば財源は何とでもなる」と言ったので、それを信じたということらしい。野党時代の政調会長直嶋正行も「無駄遣い削減で不足分の捻出などはたやすいことだ」と言ってて、鳩山由紀夫氏が「頑張ればできるとみんな信じました」とのこと。
評者は「責任転嫁の言葉に聞こえる」と評する。


菅直人内閣。
総務大臣片山善博が実は仕えている菅首相にきわめて批判的で「イライラして怒鳴るし、大きな組織を使うというトレーニングができていなかった」と酷評しているのだそうだ。これが後からの証言の醍醐味。

菅直人野田佳彦の内閣交代を挟んで「消費税増税」の論議が出てくるんだが、この時党内の意思決定が非常に難しく、野田佳彦は「自民党総務会の(阿吽の呼吸で、反対者がさしかわっていく)の決め方が羨ましい」という。


その野田は「脱原発」を総選挙の争点になると見込んだが、実際に2012年12月に衆院を解散し総選挙を行ったところ、街頭での訴えで脱原発は非常に反応が悪かった。「訴える方も反応を見てそこから離れていった」というのが本音らしい…

そして民主党政権の特徴付けた松下政経塾出身者。

出井康博の民主党代議士の作られ方」

は、松下政経塾出身で民主党から出馬した若手二人の選挙を追ったルポ。
重要なのはやはり選挙運動は、事務所で黙々とチラシを折りたたむような地味な作業が重要となり(参加者の一人が「なんだか受刑者になった気分だ」と語ったとか)、そうすると候補者が若かろうが選挙運動は高齢者に支えられている、という現実だとのこと

襤褸の旗ー松下整形塾の研究」

という本もある。この塾出身者は細川護熙日本新党を舞台にデビューしていく。前原誠司のインタビューもある。


民主党政権をやや離れた外側から眺める機会があった、連立相手のミニ政党「国民新党」の亀井静香

彼も「永田町動物園」

という100人の政治家の人物評論をする本で、民主党政権のことを色々回想している。

鳩山由紀夫に対して
「対米従属からの脱却という鳩山の民族主義的な思想が好きだった」と意外な評価をするのが面白い、と評者は語り、続けてこういう印象的な、同じく連立を民主党と組んでいた社民党福島みずほとの会話を紹介する。

ある時福島が「私と亀井さんは『郵政民営化反対』『死刑廃止』『義理人情』、この3つしか共通項がないですよね」と言ってきた。すると亀井は「3つも同じなら上出来じゃないか」と返したという。

亀井は、沖縄基地問題民主党辺野古移設方針に変わったこと)で社民党閣議署名を拒否し連立を離脱したことについて、信念を理解しつつも「一度手にした政権を自分から手放すなんて逃げるのと変わりない」のだという。

蓮舫「一番じゃなきゃダメですか?」

松井孝治平田オリザ民主党政権でスピーチライターを務めた)「総理の原稿ー新しい政治の言葉を模索した266日」

などの本も紹介されてるが、疲れていたんで略す。
この書評の後半は、小沢一郎に関する話だ。佐藤章「職業政治家 小沢一郎

では、小沢が民主党の同僚を「政権を取ってみて何か高級なおもちゃを預けられたような状態になってしまったんです」と酷評する一節があるそうだ。だから自民党福田康夫内閣だった時「民主党自民党の大連立」を模索したのは「行政経験がないのだから連立でそれを積んでおいた方がいいと思った」とのことである。

あえて田舎で選挙演説をする「川上戦術」なども語っている。


ただちょっと驚いたのが…あるいは当時報じられて自分が忘れてるだけかもしれないが…前述の元蔵相・藤井裕久は、自由党時代からずっと小沢と行動を共にしていた側近という印象があったけど、どこかで(例によって)たもとを分かち、小沢一郎とむしろずっと激しく対立したそうな。
彼には「政治改革の熱狂と崩壊」

という本があり、「マニフェストに16.8兆円の財源などと具体的数字を盛り込むことには反対した」などの弁明に加え、小沢一郎と決裂した経緯を語っている。
「全ての局面で最後は決断を小沢に一任できる政治家しか小沢の政党で生き残ることはできない」

読売新聞政治部のノンフィクションは自分も前からその迫真性に一目置いているが、
民主党ー迷走と裏切りの300日」

「亡国の宰相ー官邸機能停止の180日」

「民主瓦解ー政界大混迷の300日」

(どれもキツイタイトルだな…)

というシリーズがあり、
最初の予算編成の段階…2012年12月16日、小沢一郎が官邸に乗り込んで、財務相藤井裕久を猛烈に批判し、主導権を奪い取りに来た。これにより小沢ー反小沢の対立が激化し、それで藤井が8人に追い込まれた…ここがそもそもの政権の曲がり角だった、というのである(早いよ!)


山本健太郎「政界再編」

は理論書だが、結局2009年衆院選では民主党が左寄りから中道に位置することで政権交代を起こせた、という見方をとっている。問題は政権崩壊後、野党として左にふたたび軸足を移した。
山本は「今日の中道のあり方は大きな理念は現状維持である一方で自公政権に比べて『よりよき統治』を実現できるというアピールを展開すること」だという。

果たしてそれは実現できるか。(了)

追記 反応をいただく。「仙谷由人についての本を入れられなかったのが残念」