このすごさは、どうしても共有したい。(※いちおーおためごかしに言っておくか、ハイハイネタバレ注意。…チッ、うっせーな)
数回にわたる描写なんだが…
まず、研究会主催者・島田開のモノローグが出てくる。
覚えてるかなこの人。
3lion-anime.com
毎年届くという、写真入りの手紙。
そこに写っている女性は、どうやら彼と、昔交際していた恋人らしいのだ。
しかし、将棋のためにすべてを懸けなければいけないと思っている彼には、彼女の思いに応える余裕はなく、彼女は夢破れて別の人と結婚した…らしい。
今の夫や子供との生活はとても幸せなようでだが、だけれども、将棋に打ち込む島田を心から嫌って、憎んで…の別離ではなかったのだろう。おそらく夫も理解しているのか、毎年家族写真を送ってくる。おそらく、何の気なしに。
彼は、その写真を、部屋の一番目立つ場所に貼る。
彼女の頑張りを見届けたい、というのは殊勝だが、その後に続くモノローグ…
「この代償を見よ」と
これだけのものを諦めてまで
選んだ事を
ーーーーゆめゆめ忘れる事 無かれと
もうね、自分はこの時点で泣いちゃうよ。感動じゃない、おそろしくて。
妄執とか、執念とかそういうたぐいだ。
しかしその一方、面倒見のいい彼の所には、呼んだ人、呼んでない人合わせてさまざまな人が訪れ、さながら梁山泊、あるいはトキワ荘。
よきライバルであり、よき友がつどう。
「コーヒーの粉を入れすぎだ」
「いっぱい入れたほうがうまい」
「程度があるだろ」
「だって元をとらないと」
「ドリンクバーかよ ってかそれ以前に 元の料金ももらっていないが?」
どうだ、最近のゆるふわ日常系、脱力系マンガでも、こんなに脱力した会話は登場しないぞ。鞭打ができるぐらいのレベルで脱力してる(例えが変)。
おしかけ研究者までくる。
こう畳みかけられると、
「ああ、そうか。島田さんは将棋のために失うものも多かっただろうけど、得たものも大きかった。ここで、別の幸せをつかんでいるんだね」
そういう着地点だと、うっかり思わせる。まず第一の罠を張る。マタギかよ作者。
で、その研究会に参加してる主人公・桐山零が紆余曲折の末、やっとひなちゃんとお付き合いをはじめ、それまで知らないしほしいとも思わなかっただろう、人との繋がり、愛の幸せを実感しているところ。
そんなメールが来て、返信に悩んだりとか。
まさに桐山の寂しい、愛を知らない時代からずっと見ていた島田は、先輩としてそれを心から喜ぶ。
そして・・・・
よくこんなセリフ描けるなぁ、と戦慄するのみ……
読んだときに例の、「羽海野チカは漫画家が恐れる漫画家だ」という話を思い出したよ。ロッカールームで一番高い場所にいるシューター、カール・ゴッチかヒョードルか、という…。
「まだ最終形態を残した状態のフリーザ」という比喩もあったな、そういえば(笑)
m-dojo.hatenadiary.com
当時、「羽海野チカはヒョードルだ」はリアルタイムの比喩だったが、そのヒョードルは何度目かの引退をした。だが漫画界のヒョードルはいまも氷のパウンドを降らせている…
今度、17巻が出るんだっけ
2023 年追記
もうこの話を収録した単行本も出ているので、答え合わせをしてもいいでしょう。最後のモノローグは、以下の画像の通り。