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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

週刊朝日休刊。東海林さだお「あれも食いたいこれも食いたい」は…~高島俊男が同コラムを激賞した文章とは

週刊朝日、101年の歴史に終止符。

前の号の表紙は山藤章二「ブラックアングル」を模したものだった。


すでに、週刊朝日単体というか、それ自体の特集記事とかに、魅力があるということはなかった(個人の感想)が、どの雑誌でも例外なく、読むべきコラムはある。
それがなくなってしまうかどうかが気がかりだった。

一応メモ
下山進「2050年のメディア(このコラム自体もサンデー毎日からの移籍)」→AERAで隔週連載
武田砂鉄コラム→AERAに移籍連載
司馬遼太郎街道をゆく」をゆく→朝日の隔月歴史雑誌「歴史道」に移籍


・・・・はわかったが、東海林さだお「あれも食いたいこれも食いたい」はどうなのか。ぶっちゃけ、ほかにも残ってほしいものはそりゃあるが、仮にそれらが滅んでも、これだけが続けば問題ないのだ(個人の感想)
実をいうと、自分が上のことを知った「楽天マガジン」掲載の電子版週刊朝日は、これが抜かれているので、今後の予定がわからんのだ。
(dマガジンなら読めたはずなので、楽天に移籍してこのことを知ったときはそりゃあ怒ったよ。しかし雑誌本体が休刊しちゃなぁ…)
知ってる人は教えてください。


さて、どんなふうに東海林さだおはすごいか。
それを書いた文章がある。高島俊男「寝言も本のはなし」だ



ここに「文章の技」と題した、ショージ君の丸かじりシリーズの書評がある。正確には同シリーズの「キャベツの丸かじり」評。


しかし、名文家の名文を、名文家が名文で書評する、って入れ子式でややこしい……(笑)

文章の技 東海林さだお『キャベツの丸かじり』(朝日新聞社)

現在の日本で、わたしが一番好きな文章家は東海林さだおさんである。もちろん東海林氏の本業は漫画であるが、文章家としても一流、いや一流の上だとわたしは信ずる。
その東海林氏の文章のなかでも最もすぐれるのが食べものについての文章、特にわたしの好きなのが、『タコの丸かじり』にはじまって『キャベツの丸かじり』『トンカツの丸かじり』『ワニの丸かじり』『ナマズの丸かじり』『タクアンの丸かじり』…とつづく「丸かじりシリーズ」である。


かつて芥川龍之介は、「おふろに入るのはやさしいが、それを文章に書くのはむずかしい」 と言った。同様に、ものを食べるのはやさしいがそれを書くのはむずかしい。いや、食べものは、おふろよりもっとむずかしい。
ところが東海林氏はそれを楽々とやってのける。ちっとも苦労したあとが見えない。実際苦労なんかしてないんでしょうね。スルスルと書けちゃうんだ、きっと。
たとえば「タンメンの衰退」。
題を見ただけでギクッとする。思えば昭和三十年、初めて東京へ出て、渋谷の恋文横丁で食 べたタンメンのうまかったこと。忘れられない。ところがもうここ十年ほど、ラーメンは三日にあげず食っているのに、タンメンはとんとごぶさたしている。
東海林さんはどう書いているんだろう。


〈タンメンは、なぜ衰退したのだろうか。
何か悪いことをしたのだろうか。
人々のヒンシュクを買うようなことをしでかしたのだろうか。
そう思って、ぼくは久しぶりにタンメンを食べに行った。
タンメンは何ひとつ悪いことをしていなかった。
昔の姿そのままに、キャベツと白菜とモヤシと人参と木クラゲと、豚肉の小さなこま切 れを麺の上にたっぷりのせ、静かに湯気をあげていた。〉


うまいねえ。


〈 ちょっと傾けるとこぼれそうな丼をカウンター越しにうやうやしく受けとり、『アチチ』 なんて言ってカウンターの上に置く。
"もうもうと大量に立ちのぼる湯気”が頼もしい。
野菜の下の麺をほじくり出すと、湯気はいっそう立ちのぼり、ここのところでたいてい 人はむせて咳きこむ。 咳きこむところもタンメンの魅力である。
掘り出した麺は、タンメン特有のぬめりと、蒸れた感じがあり、口に入れるとラーメン とは違ったモチモチしたモチモチ感がある。〉



この調子で東海林さんは、鍋焼きうどん、ハヤシライス、幕の内、釜飯、アジの開き、カツ 丼、焼き肉、おでん、 ......と向うところ敵なし、どんな食べものでもやすやすと文章にしてしまう。文章の技のここに至り得るものか、とわたしは溜息をつくばかりである。

高島俊男東海林さだおの「丸かじり」シリーズを激賞した文章


【注意】この、高島氏が抜粋したショージ君のタンメン論を読むと、その日のうちにタンメンが食べたくなります。ご注意を…もう遅いか。

その数年前、唐突に当方が氏の「トースト描写」に感動して紹介した記事もあった。
m-dojo.hatenadiary.com



とはいえ、東海林さだお氏は1937年生まれのことし86歳になるお歳。テーマがテーマ…「食」であり、これは文章の冴えだけではなく肉体的な、食への貪欲さ、健啖さがなければいけない。
休刊を機会にグローブを、いや違った箸を、でもない筆をおくことがあってもやむをえまい。


同連載がどうなるかは、間もなく情報が入ってくると思うのだけど、その前に、既に成したかの人の功績を、よき評者(彼もすでに故人)の文章によって振り返る。
そしてさらば「週刊朝日」…。