週刊文春も、最近は余り開かない。楽天マガジンのサブスクには入ってるけど、ここ、記事を載せないの。メイン記事載せないならわかるけど、ほぼすべての特集は載せず、コラムだけ…でも週刊文春は、コラムこそが味だ。
その中でも最近特に面白いのが清水克行氏の「室町ワンダーランド」。作風は全く違うが、かつての高島俊男「お言葉ですが…」を思い出したりもする。
だが、最新号の話がちょっと剣呑。
追記ー ネット上ではここから読めます(有料)
bunshun.jp
清水氏のところに、さる民放TV番組のADから電話。なんでも「枝豆は健康にいい」をテーマに企画が進行中とのこと。
まあ、体にいいだろうね、あれ。
そしてADは問う。
「伊達政宗がずんだ餅を発明したというのは本当ですか?」
まあ、重野なおきの漫画にも出てきた一説だが…
「真田丸」でも
— 白泉社マンガ編集O野木 (@ya_onogi) June 19, 2016
ずんだ餅宗だった!(笑) pic.twitter.com/GhlfOVrFqN
残念ながら根拠は無い。むしろ、銚子や野田など江戸の大消費地を睨んだ醤油の製造地が、原料となる大豆の供給を東北地方に期待し、その結果として大豆生産が盛んになった副産物であり、そういう歴史を紹介したほうがおもしろいよ、…と清水氏は、歴史学者らしくアドバイス。やさしー!!
し
か
し。
ここから、一気にすごいことになっていく…
……向こうは「他に政宗に詳しい研究者の方はご存じないでしょうか」と聞いてきた。要するに、「オマエじゃダメだから、もっと詳しいヤツを紹介しろ」というわけだ。それでも心の広い僕は、「政宗」の専門家数人の名前を教えてあげて、丁重に電話を切った。
ところが、数日後、その同じADさんから、また電話がきたのである。聞けば、僕が名前を出した研究者からは、いずれも「ずんだ餅は政宗が発明したものではない」と、にべもなく断言されてしまったという。そこで、困っているので、再度先生にお願いしたい、というのだ。
「いやいや、あなた、僕の話を聞いてました? ずんだ餅は政宗が作ったものじゃない、って説明しましたよね?なんで、その僕が『お願い』されなきゃいけないんですか?」と返したところ、向こうからは、世にも恐ろしい答えが返ってきた。「ですから、とりあえずVTRで「ずんだ餅は伊達政宗が作った」とだけ先生にコメントしてもらえないでしょうか? 放送時には必ず画面内に『諸説あります』とテロップをつけますから」言葉を失うとは、このことだ。
今週の週刊文春なので、興味ある人は是非お読み下さい。あと「諸説あります」が注目されているが、冒頭で「民放」と作者が明言していますので、ご注意を
※ついでに、このコラムと、執筆者(清水克行)そのものにも注目してください…という話
m-dojo.hatenadiary.com
よくtwitterで、同じく歴史のあれこれの文章を書いておられる渡邊大門氏も、似たような経験談を書いてるけど、あんまり出来すぎてるんで、本当にノンフィクションなの?と時々思うんだが…清水氏が、週刊文春のコラムでそう書く、となるとまた違う。
…にしても、なんか、ここまですがすがしく悪のムーブをされると、一種の爽快感がある。
その民放、ADが所属してるのは「企画七課」じゃないだろうな。
AD、おそらくこのままOKが出なかったら、清水氏の眼の前にやってきて、土下座でも五体投地でもやって、むりやりイエスと言う映像を撮ったんじゃないか。
これが、業界でしばしば名を知られた、ADのバンザイ・アタック、あるいはADタンク・デサントだ。
ADは、畑で穫れる。
令和の今でも、こんな不可能を可能にする、命しらずの「特攻野郎AD」がいるんだね…
こういう無茶…ADの尊い犠牲と、コメントする学者の寛容があったから、TVバラエティは成立していったのだろう。
に、しても。
「NO」というコメントをした人に、『とりあえず「YES」と言っていただけませんか』と頼むって、ほんと、百戦錬磨というか…たぶん面構えがちがうんだろうな。