名文、文体ということでもひとつおまけ。
たまたま昨日、この本をパラパラと読んだ。
- 作者: 東海林さだお
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1997/11
- メディア: 文庫
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「文章の妙、ここに至る」と、講談社エッセイスト賞受賞者・高島俊男に嘆息させ、大宅壮一ノンフィクション受賞者・野村進に「私は東海林さだおの宣伝マンである」と自称させる、文章の魔術をお読みなさい。
特に今、何を食べようかと迷っている人は是非。
31P
トーストの幸せ
焼きあがったばかりのトーストって、幸せに満ちていると思いませんか。
まだバターもジャムもつけてないけれど、すでに幸せの予感にあふれている。
コンガリ狐色に焼けて、アツアツのカリカリで、だけど内部はフワフワのモコモコ。押すと、よく干してふくれあがった布団のように押し返してくる。
このアツアツ、カリカリの表面に、とりあえずバターを塗ってみましょうか。
バターナイフで、バターの山を三つほど置き、それをならして塗り広げていく。ときどきゾリゾリという音がするのは、カリカリに乾いた表面を、バターナイフの先がじかにこすったときの音です。
最初、ほんのちょっと抵抗の気配を見せたバターの塊が、熱で急に他愛なく溶けていき、パンの小さな凹みという凹みにしみこんでいく。
バターたちよ、そのようにしてパンの中にしみこんでいきなさい。
このバタートーストを、さて、どのように食べようか。
(略)
このままパクリとやってもいいが、両手で二つに引き裂くのも趣がある。(略)やがて薄く細長い突端をつくって二つに分かれる。
この、薄く細長く垂れ下がってバターに濡れた突端がおいしい。
まず、ここをパクリとやる。
濃密なバターの味、パンにしみこんでバターと一体となったパンとバターの味、そうして最終的には、口の中はバターの・・・(後略)
どうですか皆さん、今日の朝食だか昼食だか、バタートーストにしたくなったでしょう(笑)。
この文章では後半で「つぎにジャムトースト、マーマレードトーストにいってみましょう」と、その描写もされているのですが、それを写すと、貴方がメニューに迷うことになりますので親切に省略してあげます(笑)